第5話 ふやけた

 宝野たかのさんが助手的な役割を果たしてくれたことで、課題の進捗は順調だった。


 そして、迎えた発表当日……


「はい、では次のグループお願いします」


 教授に言われて、俺たちは壇上に立つ。


 俺はマイクを持つ。


『今回、僕たちが研究したテーマは「これからの時代の個人経理」です』


 そう言うと「え、何か地味じゃね?」みたいな声が聞こえる。


 でも、そんな輩はすぐ見目麗しいS級美女4人衆に目を奪われていた。


 さて、俺は淡々と進めますか。


『例えば、法学部では弁護士の資格取得を目指せるのに対して、経済学部では税理士、会計士の資格取得を目指すことができます。


 これらはご存知の通り、難関資格ですが、取得したからと言って、安泰という訳ではありません。むしろ、そこからがスタート。きちんと営業をかけて行かないと、たちまち廃れてしまいます。


 こんなことを言うと、じゃあそんな資格を目指すのは無駄な労力、と思うかもしれません。


 けれども、簿記と経理に関して学ぶことは決して無駄ではありません。


 簿記は帳簿づけですね。


 そして、経理とは、「経営管理」の略称です。


 今のご時世、個人事業主やフリーランスが増えて来て。


 恐らく、彼らは税理士を雇っていると思います。


 それは良いことですが……丸投げするのは良くありません。


 要は毎年の確定申告を乗り切るため、だけにやっているとダメなんです。


 ちゃんと自分でも簿記・会計を理解して、帳簿づけをして。


 自分の会社なり商売なりの経営を管理する必要があるのです。


 そんなことを言うと、じゃあ、起業なんてしない、雇われ人で良いよと言われるかもしれません。


 ですが、雇われ人でも、この経営管理という視点は大事です。


 例え、将来的に社長や役員などの経営陣にまで昇進しなくても、です。


 これからの時代、セルフマネジメントが大事です。


 自分個人を、1つの企業として考えてみる。


 仕事だけでなく、日々の生活に関して、マネジメントする。


 食事から遊びから、何から。


 日々、自分の言動に関してきちんと把握し、マネジメントする。


 簿記、というとどうしても地味なイメージです。


 けれども、それが根源となり発展して行くと、マネジメントになるんです。


 これからの時代、会社の言いなりになっているだけでは、健やかに過ごせません。


 日頃の自分の生活から、しっかりと意識して、マネジメントをする。


 それもまた、経営管理。


 これからの時代に必要な、「個人経理」なのです。


 以上です、ご清聴ありがとうございました』




 マイクを置いてふと目線を上げると、みんなの視線が俺に集まっていたことに戸惑う。


 いや、何か気まずいから、普通に目の保養としてこの美女どもを眺めておけよ。


「いや~、素晴らしい発表でした。ありがとうございます」


 と、教授が言う。


「あ、いえ」


 こうして、俺たちのグルワは無事に終わった。




      ◇




 ファーストフード店に来るのは、久しぶりだ。


「宝野さん、やっぱりお金払うよ」


「いいの、今日はわたしのおごりだから」


「でも……」


「だって、今治いまばりくんすごくがんばってくれたし。その……」


「んっ?」


「……な、何でもない。たべよっ」


「ああ」


 包み紙をほどき、バーガーを食らう。


「うん、久しぶりに食べたけど、美味いね」


「うん、そうだね」


「このポテトの絶妙なふやけ加減もまた、懐かしい」


「うふふ」


 バーガーとポテトで塩気が増した口内を、ドリンクで潤す。


「まあでも、グルワが滞りなく終わって良かったよ」


 と、俺は言う。


 すると、宝野さんがなぜか浮かない表情になった。


「……ねぇ、今治くん」


「なに?」


「その……グルワはもう終わっちゃったけど……」


「うん」


「出来れば、これからも……仲良くして欲しいなって」


「ああ、まあ、そうだね……宝野さんには、今回助けてもらったし」


「そんな、わたしなんて大したことは……」


 照れたように手を振る宝野さん。


「……じゃあ、これからも一緒にいても良い? その……お友達として」


「うん、よろしく」


「えへへ……じゃあ、今度からバリくんって呼んじゃおうかな」


「ああ、まあ……お好きにどうぞ」


「うん……そうする」


 宝野さんは、また照れたようにジュースを飲む。


 まあ、この子は良い子だし、面倒じゃないから良いか。


 俺はふやけたポテト口にした。







☆次回予告


 図らずしも、S級美女の一角、しずくをモノにしてしまった正司。


 グルワが終了したことで、他の3人とはもう絡みが無くなる……かと思いきや。


「ちょっと、お願いがあるんだけど」


 4人の中で1番からみが薄かった女、満月みつきが声をかけて来る。


「拙者、この前の今治氏のプレゼン、大いに感動したでござる」


「はっ……?」


 メガネのオタク、けれどもバストは4人の中で最大のGカップ♪


「どうか、お願いだ……拙者のことを管理して?」


 オタク娘が、いきなり大暴走!?




 乞うご期待!!







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