第8話 逮捕されちゃう?

 4コマ目の講義が終わると、ちょうど夕方4時を回った良い頃合い。


 ここからみんな、サークル行ったり、バイト行ったり、帰宅したりする訳だけど……


「バリくん」


 たまたま一緒の講義をとなりで受けていた宝野たかのさんが呼ぶ。


「んっ?」


「この後って、何か予定はあるかな?」


「えっと……まあ、一応」


「あ、そっか……」


「なに、どうしたの?」


「ううん、ちょっと……課題で分からないところがあるから、教えてもらいたいなって」


「ああ、なるほど……じゃあ、今日の夜にロインで良いかな?」


「えっ、良いの? 夜にロインしちゃっても」


「うん。じゃあ、俺はこれで」


「うん、またね」


 ひらひらと手を振る宝野さんと別れて、俺は講義室を後にする。


 スマホを手に取り、ロインを確認する。


今治いまばり氏、講義は終了したでござるか?』


『うん、終わったけど……あの、ロインでもやめてよ、ござる口調は』


『ああ、メンゴ、メンゴ♪』


 全く、油断も隙もない。


 俺は彼女との待ち合わせ場所に向かう。


「よっ、今治くん」


 サッと手を挙げる豊原とよはらさんがいた。


「んっ」


「じゃあ、行こうか」


 連れだって歩く。


 やはり、話題のS級美女の一角だから、周りからの視線が続々と来る。


 そして、俺はその視線に、あるいは殺意に、刺される。


 やはり、引き受けるべきではなかったかな……面倒だ。


 そして、最寄り駅にやって来た。


「今治くん、1つお願いがあるの」


「なに?」


「あたしいつも痴漢防止で、おっぱいをガードするためにリュックを前にしてかつぐの」


「大変だね」


「ほんと。でもさ、後ろはガラ空きになっちゃうから……今治くんが、守って?」


「まあ、そういうことなら……じゃあ、君と背中を向け合う形でいれば良いかな?」


「別に、あたしの背中を見ながら立っても良いんだよ? ハァ、ハァ、って」


「いや、それじゃ俺が変態じゃんか」


「むふ、君なら特別に許してやろう」


「いやいや、ダメでしょ」


「全く、今治くんって、本当にお堅いよね~」


「君がクレイジーなだけだろ」


「あたしはマジメだよ、ちゃんと納税する意志あるし」


「それは当たり前のことだろ」


「そのために、今治くんの力が必要なんだからねっ」


「……まあ、不得意分野はアウトソーシングが効率的だからね」


「おっ、さすが今治くん。でも、安心してよ」


「何が?」


「ちゃんと、バイト代は払うから」


「マジで?」


「それも、人件費として経費に出来るでしょ?」


「ああ……でも、どうだろうね」


「んっ?」


「いや、個人事業主の本人とその親族以外の従業員の給料は、ちゃんと経費に出来るけど……俺は別に君の事業の正式な従業員ではない、いわば友人の手伝いみたいなものだし……そもそも、ちゃんと事業届けとか出していないでしょ?」


「うん、まあ……」


「こう言っちゃ失礼だけど、同人活動は趣味の延長線上にある、小遣い稼ぎみたいなものだろうし。事業所得じゃなくて、雑所得として計上するべきだろうから」


「う、うん?」


「もちろん、君が本気で事業にしたいと思うなら、出来ないこともないと思うけど、今は学生だし……って、大丈夫か?」


「む、難しくて頭がクラクラしちゃう……」


「ああ、ごめん。とりあえず、面倒だからさ。俺へのバイト代は不要だよ。俺も、実践勉強できるっていう対価をちゃんともらえる訳だし」


「う~ん、でもそれじゃ、あたしの気が……じゃあ、もう経費とか良いから、友人としてごはんをおごるね?」


「それも不要だよ」


「ひ、ひどっ! さっき、あたしのこと、友人って言ってくれたよね?」


「まあ、便宜上」


「い、今治……氏。ひどいでござる!」


「えっ」


「拙者は、拙者は……あっ、ごめん」


「いや、まあ、俺も悪かったから」


 そして、ホームに電車がやって来る。


「さてと、今治くん。あたしの背中は、君に預けたよ♪」


「了解」


「あたしが降りる駅までそこそこ時間があるから、暇つぶしに尻相撲でもしちゃう?」


「2人して補導されて停学、下手すりゃ退学だよ。今の時代、SNSで拡散されるから」


「それは困る……けど、そうしたら、今治氏と2人で本格的に事業を立ち上げるから良いでござる」


「いや、遠慮しておきます」


「やっぱりひどっ!」


 感情の起伏がまあまあ激しい。







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