第7話 妄想と懇願

今治いまばり氏、どうか、お願いだ……拙者せっしゃのことを管理して?」


 彼女は可愛らしく小首をかしげて言った。


「……いや、そんなこと言われても」


「頼む、拙者のピンチを救えるのは今治氏、君しかおらん!」


「確定申告はまだ先の話だから、そんな焦らなくても……」


「何を言っている。その油断が、命とり。直前になって、焦って泣きべそをかくのが目に見えている」


「だったら、今からコツコツ……」


「それが出来ぬと言っておろうが!」


 ダァン!


 豊原とよはらさんがテーブルを強く叩くと、周りがビクッとした。


「お、落ち着いて。ここは店内だよ?」


「ああ、すまない……」


 彼女は気を落ち着けるように、抹茶ラテを飲む。


「ぷはっ……どうしても、ダメかな?」


「う~ん、どうしても、というか……出来れば、面倒ごとは避けたくて……」


「……しかし、これは今治氏にとっても、良い機会ではなかろうか?」


「と、言うと?」


「実践練習でござる。拙者の経理をすることによって」


「ああ、なるほど」


 俺は口元に手を添える。


 まあ、彼女の言うことは一理ある。


 けど、この強烈なキャラクターに付き合うのが辟易へきえきすると言うか……


「……あたし、幸か不幸か、見た目よく親が産んでくれちゃったから……おまけにナイスバディだし」


 自覚あったのか。まあ、そりゃそうか。


「しかも、花のJDだし。そんな乙女が税理士のエロオヤジなんて雇ったら……犯されちゃうもん」


「偏見と誇大妄想が甚だしいんだけど……」


「とにかく、今治氏が良いの!」


「えぇ~……」


 う~ん、面倒ごとを避けるために、偽装しているのに……


 見た目だけじゃなくて、能力の方も控えるべきだったか。


 でも、ちゃんと良い成績を取って、出来れば優良学生の授業料免除とかしてもらいたいし……


「……分かったよ」


「えっ、本当でござるか?」


「これ以上、騒がれても面倒だし」


「やったでござる!」


 豊原さんは座った姿勢のままピョンと跳ねる。


 たしかに、豊かなバストが揺れた。


 ついでに、ツインテールも


 メガネは、ズレない。


 良いブリッジ使ってんのかなぁ……


「「「おほっ、あの子おっぱいデカッ♡」」」


 周りのエロ男子どもが鼻の下を伸ばすけど、


「イエ~イ♪」


今は気付いていないようだ。


 まあ、彼女も見た目で色々と苦労して来たみたいだし。


 その点は共感する。


 また、確かに俺にとって実践の勉強になるし、就活でのネタにもなりそうだから。


 引き受けますか。


「豊原さん、君の同人活動の経理を俺が引き受けるにあたって、1つだけ条件をつけさせてくれ」


「何でござるか?」


「俺と2人で話す時は、そのオタク……ござる口調はやめてくれ」


「キモいから?」


「いや、そんなキモくはないけど……シンプルに疲れる」


「アッハハ! 今治氏は、本当に愉快でござるな!」


「君の方がね」


「やん、照れる♡」


「何で?」


「よし、心得た。まじめな経理の相談をする時は、通常の……いや、偽装モードになろう」


「偽装……」


「んっ、どうした?」


「……いや、何でも」


「では、今治氏……いや、今治くん。よろしくね♪」


 うん、普通に喋って笑うと、確かにS級だな。







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