第4話 良い子だけど……?

「え~、みなさん、グループワークの課題は進んでいますかね? 次回の講義にて発表となりますので、準備を進めていただきたいと思います」


 教授が柔らかく淡々とした口調で言う。


「今治くん、進捗はどうなの?」


 相変わらず、高飛車な遠藤が言う。


「まあ、そこそこかな。きのう、宝野たかのさんも一緒に手伝ってくれたし」


 と、俺が目配せをすると、サッと宝野さんが視線を逸らす。


「ねえ、あなた。やっぱり、しずくに何かしたでしょ?」


「いや、別に何も変なことは……ねえ、宝野さん?」


「ふぇっ? あ、えと、その……」


 宝野さんはモジモジして押し黙ってしまう。


 おいおい、何でだよ……


「裁判長、この男は有罪デス☆」


 黙れ、クソギャル。


「ええ、そうね。罪人には、しかるべき罰を与えるべきだわ」


 何なんだよ、こいつら。


「今治くん、罰としてこの課題の半分をあなたがやりなさい。残りの半分は、私たち4人で分担するから」


「えっ? ああ、まあ……元々、俺の提案したテーマになって、俺が中心みたいな感じだったから……作業量的には、初めからそんなもんだと思っていたし」


「うっ……そ、そう」


「ていうか、俺は良いけど、君たちは大丈夫なの?」


「は? 何が?」


「だって、課題にちゃんと取り組まないと、自分の力が伸びないだろ? まあ、大学なんて遊び目的なところが大きいかもしれないけど……せっかくなら、ちゃんと勉強するべきなんじゃないか?」


 俺はあくまでも、淡々と思った事実を述べる。


 そして、女子たちはシンと静まり返った。


 あ、やべ、キレられるかも。


「……あの、わたし、今治くんと一緒にやりたい」


 と、おもむろに、宝野さんが口を開く。


「しずく?」


「わたしが、今治くんと全体の半分を担当するから、3人は残りの半分をお願い。それで、だいぶ公平になるんじゃない?」


「ああ、まあ……そうね」


 タカビー遠藤が大人しくなる。


 宝野さんが、チラと俺を見た。


「い、今治くんは……それで大丈夫かな?」


「ああ、うん、まあ……助かるよ」


 と、俺が何気なく言うと、宝野さんはニコッと笑ってくれる。


「ハァ~、ブサメンな上に説教くさいとか、イマヤン絶対モテないっしょ?」


「ああ、そうだね」


「反応もつまんないし、死ね☆」


 お前がな、クソギャル。


「すずちゃんと、みっちゃんもそれで良いかな?」


「ええ、まあ……しずくが言うのなら」


 と、タカビー遠藤がしおらしく頷く。


「あたしは何でも良いよ~」


 と、スマホをいじりながら豊原とよはらさんも同調する。


「じゃあ、まあ、そういうことで」


 とりあえず、方針が決定する。


 ふと、また宝野さんと目が合う。


 彼女は何だか照れたようにしながらも、ちゃんと俺のことを見ていた。




      ◇




 今日も図書館は静かだ。


 グルワの課題があるから、他の連中も利用しているかなと思ったけど。


 まあ、グルワはみんなで話し合うから、原則おしゃべり禁止の図書館だと相性と効率が悪いか。


「ねえ、今治くん。この資料、使えそうかな?」


「んっ? ああ、良いね」


 俺と宝野さんは、ひそひそ声で言う。


 俺は基本的に大人しいというか、静かだし。


 宝野さんも、他の3人と比べると分別ふんべつをわきまえている方だと思うから。


 こうして、静かな図書館で課題を進めることが出来る。


「そうだ、今治くん。さっき、良さげな本を見つけて」


「そうなの?」


「うん。でも、わたし、ちょっと背が届かなくて……」


「ああ、そっか。じゃあ、俺が取ってあげるから。どこ?」


「えっと、こっち」


 宝野さんの後について、その本棚に向かう。


「この、1番上の……それ」


「これ?」


「うん」


「了解」


 俺は難なくその本をゲットした。


「ていうか、今治くんって、背が高いよね?」


「えっ? ああ、まあ……180cmくらいあるから」


「えぇ~、すごい。わたしよりも30cmくらい高いんだね」


「はは、そっか」


 とりあえず、俺は愛想笑いをする。


 ふと、宝野さんが、ジッと上目遣いに見つめて来た。


「どうかした?」


 と、俺が問いかけると、サッと目線を逸らされる。


「な、何でもないよ」


 そう早口で行って、そそくさと席に戻って行く。


「……良い子だけど、ちょっと分からんな」


 俺はひとりごちて、席へと戻って行く。







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