お手伝い

 今日は凄く忙しいな。

 僕は今、喫茶店で店長マスターのお手伝いをしている。

 顔を合わせなければ、どうという事はない。少し目線を逸らすだけでいいが、相手にそれを悟らせない。これは、自分が社会で生きていく為に手に入れた力でもあった。


「いらっしゃいませー」 


 カランカランと言う音に反応し、定型文を話す。


「今日はお兄ちゃんがいるんだねえ」


 40代の仕事終わりの男性がカウンター席から話しかけてくれた。


「ええ。そうなんですよ。今日は前店長おじいさんがいないんですよね...」


 俺が少し申し訳ない顔をしていたのか、目を合わせようとしていないからなのか、男性は慌てたように言った。


「君が悪いとはいってないんだよ。ただ、今日も愚痴を言いたくねえ」


 男性には、仕事のストレスがないぐらい、清潔感があり、愚痴という言葉に驚いた。


「そうですか...」


 今は忙しいし、話を聞くことが出来ないな...


 そう困っていると店長マスターが声をかける。


「遠藤さん!今日も来てくれたんですか?!」


 忙しいのに、店長マスターは楽しそうに話しかける。

 お客さんに迷惑は掛けず、文句も言われず。よくここまで成長したな、と実感した。


 少し眺めていると。


「おい、白髪ぃ。誰見てるんだよぉ」


 口の悪い男。俺はこいつをよく知っている。パーカーをよく着るやつ。若くてピアスを開けている。金髪に染めた髪にクール系の顔。喫茶店には似合わない姿である。


「別に。それで、どうしたんだい?今日は」


「今日は白髪がいるか顔を出しに来ただけだぁ」


 少し、恥ずかしそうに顔をポリポリしている。


「お?また、ネタを提供してくれるのか?」


 こいつはよくネタを提供してくれる。友達がこれまた多いらしい。


「あるぜ。極上が。作家と探偵をやっている白髪の青年は熱烈な視線で店長マスター見つめてる。まるで恋してるみたいになぁ」


「何言ってるんだ。僕はそんな事ないよ」


 そもそもそんな資格、僕にはない。


 そう、心に刻み込んだ。

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