美味しい。でも悲しい。

 ふぅ。


 仕事の手伝い終了だ。


 疲れたな。帰るか。


 帰宅準備を進める。と言っても何も持ってきていないので、片付けをするだけなのだが。


 ゴシゴシ...


 食器の洗う音が静かな店内に鳴り響く。


「あっ!シィーロ!何やってるんだ!」


 外の掃除から帰ってきた店長マスターが怒ったように言う。


「私の仕事を取るんじゃない。休んでなさいっ!」


店長マスターこそ休んで下さいよ。今日一日中働きっぱなしでしょ?」


 夕食を店長マスターはまだ食べてないはずだ。今日はかなり忙しかったから、そんな暇は無かっただろう。


「それでもシィーロにやらせるにはいかないよ。ほら、お皿」


 へいぱすみー。へいぱすみー。と呟きながら、皿を取ろうとする。


 僕はそれ避けつつ皿洗いを遂行する。


「ちょちょちょっと店長マスター落ち着いて下さい。僕がやりますって」


「シィーロ...?私がやるって言ってるんだよ...?」


 怒ってる。怒っているけど顔は笑顔。これが一番怖いやつだよね。


「でも、ほら。もう終わりかけてるよ?」


「まさか、私がお皿の取り合いに夢中になっている間に...?」


 ふっ。店長マスターよ。僕の家事スキルを舐めていたようだな。


 1人でよっしゃと心の中でガッツポーズをする。


「夕食、良かったら作りましょうか?」


「え?何でシィーロ知ってるの...?」


 そりゃ忙しそうで、お腹減ってそうな顔してるからだよ、という言葉を飲み込んだ。


「まあまあ。店長マスターはどこかのカウンター席でも座って待ってて下さいよ。」


「ありがとうっ!シィーロ!」


 ———————


 シィーロが料理を作ってくれている。それがとても嬉しかった。だが、今はとても暇だ。


 スマホを使うのもなあ。


 悩んでいると、ふと、ある事を思い出した。


「シィーロ?」


「何だい?」


 料理を作りつつ、こちらを向いてくれる。


「あの白髪の女の子と仲良く話してたけど、知り合いなの?」


 シィーロは返答に困っているようだった。難しい顔をする。


「あー...そうだな...友人、かな」


「あっ!友人だったんだ!良かったね、会えて」


「1つ訂正しておくと、麻美あさみさんは今日出来た友人だよ」


 ん?


 麻美さん?


 下の名前呼び?


 私まだ名前呼ばれてすら無いんですけど?


「ほい!完成!どうよ。即興品にしては完成度高いんじゃない?」


 確かに凄い。とても美味しそうだ。だが、さっきの言葉にショックを受けて、素直に喜べない自分がいる。


「あっありがと!美味しそう!頂きます!」


 バクバク。


 美味しい。美味しい。でも、悲しい。


 私の方がシィーロといる時間長いのに。


「そんなに早く食べると喉に詰まらせるよ店長マスター


 苦笑いしつつ、彼は水を用意してくれるのだった。


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