朝から喫茶店

 次の日。


 僕は起きてからコーヒーを飲む事が日課なのだ。ルーティン、というやつ。


 目を覚ますために僕は飲むのだが、世界のコーヒー好きはどうなのだろう。


 そんな事を考えながら、冷蔵庫を開き、朝食を準備しようとする。のだが。


 冷蔵庫の今日の残りはほぼなし。



 しまった。



 昨日買おうとしたが、手伝いをしていた事を思い出す。


「喫茶店、早いけど行くか」


 壁に掛けられている時計は10時を過ぎていた。


 寝すぎてしまった。


 今日は別に仕事をする気は毛頭ない。今日は仕事の予定はないし、仕事場の扉には「今日は休業します」という張り紙を張るつもりだ。


 だからスーツではなく、私服で行く。パーカーとジーンズを併せ、愛用のロングコートを羽織る。


 さあ行くぞ!朝食を食べに!



 ―――――――


 カランカラン


 静かな一軒家に客の到来を告げる。


 客はいないようだ。静かな店内に鼻歌の音しか聞こえない。


「あっ。いらしゃ...シィーロ!早いね!てっきり昼頃かと思ったよ」


「朝食分の食料が無くてね...」


 赤髪の店長マスターが僕に声を掛けてくれる。しかし前店長おじいさんは今日もいない。2日もいないのはかなり珍しい。


「そっか。そっか。昨日のお礼も込めて私がただで作るよ!」


「いいのか?」


「もちろん!リクエスト、あるかな?」


「いや。任せるよ。」


 コクっと店長マスターが頷く。


 僕がカウンター席の椅子にコートを掛け、腰掛ける。すると、無言でコーヒーが差し出される。これもサービスなのだろうか。


「ありがとうな」


 今日は気分が良いので、近くにある角砂糖とコーヒーと共に置かれたミルクを注ぐ。


 カフェラテのようにもなってしまったが、今はその舌になっている。


 もちろん美味しい。


 すると、どんどん料理が出されていく。早くないか?


 まず目に入ったのはバターが添えられた2枚の焼き色のはいったパン。熱でバターが少し溶けており、美味しそうだ。

 右上にはサラダ。ごまだれがかけられている。さっぱりとした味わいで僕は大好きなのだ。

 左上にはスープ。粉上のバジルが添えられたトマトスープである。この香りが食欲をそそる。


 ゴクリ


「いただきます」


「どうぞ!」


 僕の声に店長マスターは笑顔で応えた。


 ―――――――


「一つ...聞いてもいいかな。シィーロ」


 気まずそうに店長マスターは下に俯いている。


 僕は顔を見ないのだから、そんな事する必要ないのにな。


「なんだい?」


「麻美さん、って...仲、いいの?」


 昨日言った気もするが。


「友人だよ」


「そっか。そうだよね...」


 声が暗い。顔を見上げると、悲しげな表情を浮かべていた。


店長マスター...?」


「なんでもないよ!」


 すぐに顔を背けた。僕の感情移入は発動されず、彼女の気持ちは分からなかった。


 ―――僕はなぜか、苦い味が恋しくなった。

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