男の依頼者
男はパソコンでよく読むミステリー小説を読んでいた。
(やっぱり
しかし、男の表現は暗い。自分の親友が失踪した悲しみが今だに残っている。
親友の家族は警察に失踪届を出してから半年。もう諦めているらしい。
(俺は...あいつを見つけてやりたい。でも。金がない。)
男の夢は声優であり、今の仕事でもあるが、出演したのはたったの2本。バイトと声優の2つを掛け持ちしていた。
結局半年間、これといったのが何も出来ていないのが今の現状だった。
ふと、
カチッ...
マウスをクリックする乾いた音が部屋に響く。
画面をスクロールして、
(なるほど。へぇ。そうなのか。)
正直あまり興味がなかった。しかし、途中の文から男は目を見張った。
『...僕はミステリー作家の傍、探偵をやっている。探偵の依頼の金は払わなくていい。ただし、その話を小説に書かせてもらう。それが代金だ。個人情報は必ず保護すると約束しよう。』
もし、この話が本当なら。俺は親友を探すことが出来るのではないか?そう考えて。俺は不安と希望を抱きながら書かれている番号に電話を掛けた。
2コール後。
「____はい。作家兼探偵のミステリー好きです」
その優しい声は、男の読んだ紹介文の1文目に書かれた言葉だった。
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さてさて。どうしたものか。
パソコンを前に作家兼探偵の男は悩んでいる。
依頼者は30代の男だろう。やつれた声だった。よほど気にしていたのだろう。
ふぅ。コーヒーを飲もうか。僕は気分によって色を変える。気分が良い時はミルクと砂糖を入れてより茶色に、悪い時は何も入れず、黒色にする。
他にも、依頼者にブラックを出せば『あなたが1番悪い』、カフェラテを出せば『半々で悪い』、それ以外なら『相手が悪い』という意味もある。
今の気分は最高だ。これでネタが1つ増える。決して馬鹿ににはしてないぞ。
コーヒーフィルターにコーヒー豆を入れ、お湯を注ぐ。その中に角砂糖3個ほどとミルクを良い感じに注ぐ。
美味い。格別だ。
電話の男には1週間、被害者について全てを調べろと言った。警察に聞ければ早いだろう。
さて書くか。
作家は今日も小説を書く。100人ほどいる
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男はあるアパートを訪れた。郊外にポツンとあるアパートでは、自宅から2時間ほどの場所だった。
(まだ遠くなくて良かった。)
男は、ほっとしてアパートの入り口の近くにあるエレベーターに乗る。
(確か2階だったか。)
ピンポーン
音が鳴り、ドアが開く。
出て直進。奥の左手側の小さな一室が
手が少し震えている。どんな人なのか。やるべき事はやった。あとはこのドアをノックするだけだ。
コンコン
俺はドアをノックした。親友を見つけるのだ。
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コンコン
おっと。久しぶりに聞いたなこの音。
ドアをノックするのは依頼者だけだ。作家にとって2ヶ月ぶりだった。
僕はその音に応える。
「どうぞ」
30代の男が入ってきた。髭が長く、髪も長い。何ヶ月間もずっと手入れをしていない事が分かる。
顔色は少し青白く、頬は凹んでいる。親友のいない悩みが体に出たのだろう。解決したいものだ。
「こんにちは」
男がぺこりと頭を下げる。
「こんにちは。ようこそおいで下さいました」
いえいえと男が呟く。
「どうぞおかけ下さい」
ありがとうございますと男がお礼を言う。
「電話で言った通りですが、代金は頂きません。お名前もお聞きしません。頂くのはこの話を小説に書いて良いという許可だけです。よろしいですか?」
僕は念を押すように聞いた。
「ええ。もちろんです」
男はこくりと頷いた。
「では、お話を聞かせて下さい」
男は親友について話し始めた————————
男の親友は同年代で1人暮らし。男と幼稚園からずっと友達で、男はよく頼み事をしていたらしい。親友は本当に優しく、責任感が人一倍大きかったとも言った。
女関係はなく、人間関係も良好らしい。問題は無かった。家族関係も良好。逆にどこが問題なのか。
ケガや病気もなく、順風満帆な人生を送ってきたらしい。
しかし、会社で上司とバイトで働く男の事について、揉め事があったらしい。
ふむ。ふむ。なるほど。
その揉め事というのは、男を解雇することについてらしい。親友は男が声優で成功するのを応援していた。その解雇に反対していたが、上司は聞かなかったらしい。2日後に会社を辞めている。
親友は男のために後には引けなかった。だがそれで失踪するだろうか。
例えば男が辞めさせないでくれと頼み、優しい親友は断れなかったとか。それで親友は申し訳が立たなくなり失踪という嘘をついたとか。家族が失踪届を出して半年で諦めるなぞ、家族関係が良好な奴には早すぎる気がする。
まだ仮定の話だが、あと一言あれば確定だろう。
「親友は、あなたが会社を辞める以上の大変な事はありましたか?」
「ありません」
ビンゴ。決まりだな。
「ちょっと待ってて下さいね」
俺は椅子から立ち、ブラックコーヒーを作る。男の顔は今頃顔つきが悪くなっているだろうか。
大丈夫。これから砂糖とミルクを入れるから。
僕はカフェラテになったコーヒーを男の前に出す。
「あっ。砂糖とミルク入れてて大丈夫でしたか?」
ブラックが好きな人かも知れないと心配になる。
「いえいえ。俺、甘いの好きなんですよ」
少し微笑んだ顔で話してくれた。
「それにしても、ミステリー小説はノンフィクションだったんですね」
意外そうな顔をしていた。僕は微笑んで言った。
「そうですよ。体験談とか聞いた話とかですけどね」
男が真剣な眼差しになる。
「カフェラテ、という事は悪いのは半々だと?」
というのも、作家は人の背景を理解することで、気持ちや行動を理解出来るという感情移入の進化のような力を持っていた。それで探偵をしたり、ミステリー小説を書いているのだ。
「えぇ。多分ですがね」
僕は男に聞いた。
あなたは辞めさせないでくれと言ったか。
親友は断れなかったか。
話を聞いたのは警察ではなく、親友の家族だったか。
全て「はい」で答えが返ってきた。
「あなたは親友と話し合うべきでした。しかし、親友もあなたに話すべきでした。ですが、親友が会社を辞めてくれたおかげであなたがバイトで働けています。その意味を悟らせないために、あなたにだけ失踪していると話していたのでしょう」
男の顔色が段々と悪くなる。しかし、目が覚めたような顔にもなっている。
「彼は多分失踪していませんよ。警察に確認すれば分かるはずです。もしくは、家族に問い詰めれば良いでしょう」
「えっあっ。行ってきても良いですか?」
男が焦った顔で聞く。
「あくまで仮定ですが。全然大丈夫ですよ」
男はカフェラテを全て飲みきり、ありがとうございましたと話して出ていった。僕のカフェラテはまだ湯気が出ていた。
その後、親友が見つかったらしい。電話で嬉しく話していた。
良かった。僕はそう思いつつカフェラテを飲みながらこの話を書いているであった
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