最終話 華絵のルーツ
私の名前は、明石華絵。
とある外資系企業で通訳の仕事をしている。
銀行員の父と学校教師の母との間に、妹と一緒に経済的に、何一つ不自由なく育った。
インターナショナルスクールに通い、国立大学の英米文学科を卒業した。
父母の期待に応えるべく、エリートコースを歩んでいた。
だが、私の心は乾いていた。
自分の性格はおとなしくて家庭的な方だと自覚していた。
編み物や園芸をしている方が性に合っていた。
外国語がいくらできたところで、他のキャリアウーマンたちのようにはきはきと自己主張をすることができなかった。
論理的なディベートをするよりかは、百人一首の恋の歌の解釈をする方が好きだった。
両親や妹は出世欲が強いタイプで、私とは全然違うタイプだった。
なんでこんなにも家族と性格が違うのだろうと、悩みながら生き続けてきた。
まるで、おとぎ話のみにくいアヒルの子のように、私の性格のルーツがわからなかった。
そんな、ある日のことだった。
「好きです!お付き合いしてください」
八代悠馬くんから3回目の告白を受けたのは。
私と彼は幼馴染だった。
親戚でもないのに、なぜか親戚のように付き合っていた家の子だ。
初めて告白されたのは小学生の時。
どういういきさつだったかは忘れたが、断ったことは覚えている。
2回目は高校生のとき。
当時、付き合っていた彼氏がいたから断った。
今思うと、当時、いつ別れてもいいくらいの冷え切った関係になっていたが、一つのけじめを終わらせないで、次の彼氏を作るのは悪いことだと思っていた。
優柔不断だった。
彼とこれまで付き合わなかったのは、ただのタイミングの問題にすぎなかった。
そして、3回目の告白。
30歳になろうとしていた時のことだった。
「いいよ」
何かを自分の中で変えたい、殻を破りたいと思っていたタイミングだったし、彼のことはかわいい弟みたいなものだと思ってたのに、最近はたくましくなったなと感じていた。
結婚を前提とした交際をすることにした。
ただ、気がかりだったのは彼が子どもだった頃、マザコンじゃないかと思う節があるところだった。
彼の母親は、良くも悪くも古風で家庭的な女性で、人の面倒を見るのが好きなタイプだった。
彼に母親と比較されて肩身の狭い生活を送るようになったらどうしよう。
そんな不安を覚えていた。
だが、それが杞憂だとわかったのは結婚生活がはじまってからだった。
彼は、精神的に大人で自立していたし、お義母さんの怜香さんも、まるで実の娘であるかのように私のことをかわいがってくれた。
馬が合って、まるで親子のような幸せな日々を送った。
ある日、私の魂のルーツに悩んでいることをお義母さんに打ち明けた。
すると、お義母さんは、私にこっそり秘密を打ち明けてくれた。
お義母さんの魂は、もともとお父さんだったということを。
複雑な感情が入り混じって私は、お義母さんの胸で泣いた。
「うあああああああ。おかあさんっ」
「今まで辛かったんだね。ごめんね」
生き別れの親子がはじめて魂で繋がれた。
そんな気がした。
お義母さんは、孫の顔を見る前に天に旅立った。
「何を報告したの?」
「お義母さんに幸せな家庭を作りますって」
お墓の前でそんな会話をした。
その晩、彼は理性を失った。
がばっと押し倒され、唇に接吻を大胆に3度も!
彼の幸せそうな表情を見ていると、私も彼に感情移入してきてだんだんと幸せな気分になってきたので、お恥ずかしながら、私の中の演者リストの中から女形(おやま)にご登壇していただくことにした。
女形を演じているのはお義母さんのような特殊なセクシャリティーの持った女性だけではない。
「やだぁ……悠馬くんのエッチ」
「華絵……」
「ふふっ」
彼の紅潮したご尊顔とご立派な大江山を拝見させていただきました。
ありがとうございます(?)
あとは、姉さん女房として生野(イクの)の道へ彼を導くだけです。
「子どものときからずっと好きだったんだ。離してなるものか」
「うふふ。しょうがない人ね」
楽しそうに恥ずかしいことを言う人なので、こちらまで楽しく恥ずかしくなってきた。
愛されていることが、嘘ではないとわかるので、こちらの愛情もとめどなく湧き溢れる。
「うう……俺だけが、気持ちよくなってしまった」
落ち込む彼を見て、うずうずして、思いっきり抱きしめた。
「大丈夫。これから一緒に頑張ろうね」
そんな情事を遠くからお義母さんは天の橋から生暖かく見守っているような気がしたが、きっと気のせいだろう。
私は、双子の赤ちゃんの母親になり、自分らしい新しい人生のスタートを切ったのだった。
男だった僕の体に、男女入れ替わりが起きるようになり、時が経ち、やがて妻になり、そして、母となった 卯月らいな @Uduki-Liner
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