第6話 真実が明らかになるとき
怜香は女の赤ちゃんを産んだ。授乳する彼女はすっかり母親の顔になっていた。
さらに、その子どもが2歳になった頃、久しぶりに"元の"怜香が現れた。
「久しぶりね。どうしてた?」
「事業はまずまずといったところかな。大手企業から大きめの金額で買収をしたいって提案も来ているけど、もうちょっとだけ、自分の手で頑張ってみようと思ってる。あまりに忙しくて、娘のことは彼女に任せきりになっちゃってるかな。家族サービスできる時間をなるべく確保してはいるつもりではいるけど、"今の”怜香には申し訳ないと思ってる」
「子育てでストレスを貯める母親って多いけど、彼女なら大丈夫じゃないかな。近所の人や親戚に好かれてて、相談できる人がたくさんいるみたいだし、私には真似できないなぁ……」
怜香は窓の外を見つめ、ため息をつく。
「今日、私があなたのところに来たのはね。私たちがあやまらないといけないことがあるからなの」
「私たち?」
「そう。私たちは嘘をついてた。二重人格っていう大嘘をね」
彼女から告白されたことには俺は心底驚いた。ケイコとかつて呼んでいた人格は圭悟という男と入れ替わったものであること。そして、その入れ替わり先の圭悟というのが、あの明石くんであったこと。元の”怜香"は、明石圭悟として夫として幸せな家庭を築いていることなどなど。
言われてみればこれまで、謎だと思ってきたことがパズルのピースのようにうまく当てはまるのだ。俺は騙されていたのか。どす黒い感情がふつふつと俺の中にわきあがる。
次の日、俺は仕事を終え、家に帰ると、二、三言問答をし、妻の人格がケイコであること、娘が就寝していることを確認すると、彼女の肩を壁に押し付けた。
「今までよくぞ騙してくれたね。明石圭悟くん」
彼女は、いや彼は俺の顔を見上げて怯えていた。
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