第4話 さよならあなた
明石くんが僕に会いたいと言ってきた。俺の事業が危機のところを救ってくれた、銀行員のあの明石くんである。
明石くんは短髪が似合うスポーツマン風のさわやかな青年だった。女性にもてそうな雰囲気があった。何かスポーツをやっていたのかを聞くと、学生時代はそれほどスポーツに熱心じゃなかったけれど、つい半年前からトライアスロンに挑戦するために体を鍛えているということらしかった。
彼と話していると、あるきっかけで昔と人生変わっただの、結婚を前提にした彼女ができただのということをしきりに話していた。そのあるきっかけについては教えてくれなかったし、なぜそんなことを初対面の俺に対して夢中に話すのかも理解できなかった。
俺の妻についてもしきりに質問をしてきた。どんな生活を送っているのか、彼女は幸せなのかなどなど。俺が彼女についてノロケ話をすると明石くんは生暖かさと寂しさを混ぜ合わせたような不思議な目線でそれを聞いていた。
「奥さんをいっぱい幸せにしてあげてくださいね」
っていう言葉がなぜか印象に残った。
「さよなら」
まるで、泣いているようなかすれ声で彼は別れ際に言った。不思議な男だった。
家に帰るとケイコが今日、誰と会ってどんな話をしたのかしきりに聞いてきた。
不思議な男との不思議な会話のことを話すと、意味ありげに「そう」と彼女はつぶやいた。
そして、続けてこう言った。
「エッチしよっか」
おっとりとした声色から放たれた唐突な言葉に俺は椅子を滑り落ちてしまうという漫画みたいなリアクションをしてしまった。
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