第5話 優しい嘘
「今まで、隼人さんと子供作っていいものかどうか、男性とエッチなんかできるのか、私の中ですごく葛藤があったの。だけど、あなたとの幸せな生活を過ごしていく内にいろいろと心の垣根がなくなっていったというか。その、もう一人の私と話し合いをしたというか」
俺は今では当たり前のように彼女の二重人格を受け入れているが、冷静に考えてみると、相当ヘンなことを彼女は言っているなと苦笑いした。
「私、あなたの赤ちゃんが生みたい。子どもがほしい」
「ケイコ……」
俺はキスで彼女の口を塞いだ。「あっ」と彼女の甘い吐息が漏れる。女性に対する恐怖感がなくなり、こんなに積極的になるなど、彼女との出会いがなければ考えられないことだった。
俺が毎日、目の前にいるのがケイコか怜香か当てるためにしていることは、彼女の服装を見ることだ。派手めの服だと怜香、地味目の服装をしていたらケイコといった具合に。だが、今日ばかりは俺の服装占いは、はずれてしまったのだ。
俺が見る限りでは、ケイコははじめて、パンツではなくスカートを履いていた。そして、いつもより、かわいめの装飾が施されたブラウスを着ている。怜香の平均よりは控えめの服装ではあるけれど、ケイコにしてはだいぶチャレンジしている。おそらくは、彼女の女心というやつに何かしらの変化があったということだろう。
「俺はケイコを汚そうとしている」
「私はもう十分心が汚れてるから別にいいよ」
「そんなことはないよ。すごく心が暖かくて、思いやりがあるじゃないか」
「ありがと。私ね。自分のことを本当に悪いやつだと思ってるんだ。でも、本当に思いやりのある人になれるように頑張らないとね。だって、これから私お母さんになるんだから」
「ケイコってやっぱり女の子だなあ」
「……ばか」
彼女の耳が赤くなった。本人は否定しているが、彼女の女子力をほめると、なぜかいつも、彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしがるのだ。反応が面白いものだから、つい、からかってしまう。
そして、あろうことか、俺だけが気持ちよくなってしまったのである。
「すごく気持ちよかったよ。もっと自信もって」
彼女はやさしく微笑みかけてほっぺにキスしてくれたが、それも俺には優しい嘘だと分かっていた。これから、本当に彼女を気持ちよくできるように、幸せにできるように頑張らなきゃなと思った。
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