男だった僕の体に、男女入れ替わりが起きるようになり、時が経ち、やがて妻になり、そして、母となった

卯月らいな

第1話 ヒロイン登場 明石圭悟

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男は女の唇を奪い、女はそれを受け入れ舌を絡める。必死になっている男を、女は小動物のようにつぶらなうるんだ目で見つめた。愛し合う男女。仲睦まじき夫婦。だが、普通の夫婦とは違った大きな秘密が2人の間にはあった。


その秘密が何なのか、時をさかのぼって、時系列を追って、本人たちに話を聞かなければならない。




僕の名前は、明石圭悟。中学二年生。成績は普通より上くらいで、部活動は卓球部だが、それほど積極的に参加しているわけでもなく、日中の活動の中心は地域のボランティアサークルだ。人に役に立つことが大好きで地域のゴミ拾いをしたり、子供やお年寄りの世話をしている。


平凡な大人しい中学生。何も知らない大人が僕を見たらそう思うだろう。しかし、僕には大きな秘密があった。月に数回、ある女の子と体が入れ替わるんだ。


彼女の名前は今西怜香さん。僕と同級生で、なかなかの優等生だ。茶道部に籍を置いてはいるが、塾通いがメインで部活動にはさして熱心なわけでない。彼女もはたからみると、明るくてかわいい普通の女の子。でも、彼女は一つだけ魔法を使える。


それは僕と体を彼女の好きなタイミングで交換できるというもの。別の人とでも交換できるのか一度聞いてみたのだが、最初に交換相手と一度決めた相手としか交換できない魔法だという。なぜ、僕を選んだのかと聞いたら、男の子になってみたかったけど、人畜無害そうな相手でないとあとで困るということらしかった。


彼女は生理の日やテストの苦手科目の日に限って僕と体を交換した。僕は、嫌な顔をせず、生理の日々に耐え、テストで高得点を取れるよう努力した。


ある日、なんで、「あんたあたしの苦労背負っても平気なの?」って彼女から聞かれたので「僕は人の役に立つことが好きなんです」って答えると「あんたって重度の変態よね」って言われてしまった。


変態。確かにそうかもしれない。僕は他人に奉仕するのが大好きなのではあるが、おそらくはその度合が世の中の平均からは大きくずれてしまっている。なにしろ、人に喜んでもらえると、それがたとえ性的なことが絡んでいなくても勃起をしてしまうのである。対象は困っている人であればあるほど助けたくなる。


そう。週末のボランティア活動もあくまで僕の性的な満足を満たすためのものなのだ。


入れ替わりだって、彼女が煩わしさから解放されるならと想像しながら、生理の苦しみを心の底から楽しんですらいるのだ。


この変態的な心理状態を知られると、彼女にも世間にも毛虫のように嫌われることはわかっているので、なるべく喜んでいる素振りは見せないことにしているのだ。


僕は一つの覚悟も持っていた。こんな変態性癖では、おそらくは結婚できない。決していい家庭は築けないと。将来は家庭を持ちたいという願望を内に秘めながらも、孤独な一生を終えるだろうと。


彼女との入れ替わりは小学6年にはじまり、中学3年まで続いたが、高校に入って別々の学校になってからは、まったく入れ替わることはなくなってしまい、その思い出も心の奥底に封印してしまった。


その後、僕は人の面倒を見る仕事をしたいという願望をおさえ、両親の期待に応えるために有名大学の経済学部を卒業し、銀行員になった。思うような職業につけない人が多い現代社会ではきっとうらやまれるような身分だろう。


だが、僕の心は乾く一方だった。こんなのは僕が望んだ生活じゃない。今は、普通を装っているが、いつかこんな偽りの生活は破綻を迎えるだろう。


絶望が僕の心を支配していた。あの日が来るまでは。

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