第10話 悠馬の初恋

俺の名前は八代悠馬。小学5年生。


自己紹介していきなりなんだが、俺には好きな女の子がいる。


彼女は、明石華絵ちゃんという。


たまに、父ちゃんと母ちゃんが、家に連れて来る幼馴染だ。


母ちゃんが言うには、従妹だったり、父ちゃんが言うには遠い親戚だったりするらしいが、よくよく色んな人の話を聞いていくうちに、何の血縁関係はないことがわかってきた。


親戚関係ではないとしたら、なんで縁もゆかりもない姉妹(華絵ちゃんは姉である)を家に上がらせて、遊ばせているのか謎である。


ただ、理由はわからないが、たまに、好きな女の子がやってきては姉ちゃんと仲良く遊んで帰る。


それは、俺にとってチャンスであった。


俺は、華絵ちゃんとふたりきりになるチャンスを虎視眈々と狙っていた。


そして、その日は訪れた。


姉ちゃんと真奈美ちゃん(華絵ちゃんの妹)が意気投合して一緒にアニメグッズを買いに行くと言い出して、俺と華絵ちゃんはお留守番となった。


華絵ちゃんとは、ゲーム機で遊んだり、トランプで遊んだり、はたまたシンプルに言葉遊びで遊んだり。


かわいいなあ。


おっとりとしたおとなしい性格で誰かに似ている。


それが誰なのかは、わからなかったが、一緒に居て安心できることは確かだった。


「華絵ちゃん」


「なあに?」


「俺、華絵ちゃんのことが好きだ」


「私も悠馬くんのことが好きだよ」


なんだか、好きのニュアンスが違うような……。


「そ、そうじゃなくて、ひとりの男として華絵ちゃんのことが好きなんだ!お付き合いしてください」


「えー……そんなこと言われても、お父さーん」


「ちょ!ちょっと待って!」


父親に呼びに行くのは反則でしょ。


っていうか、明石のおじさんってすごく強面だったような。


怒鳴られないかおそるおそる覚悟していると、おじさんのすすり泣く声が聞こえた。


「悠馬。大きくなったんだねぇ。うれしいよ」


ええええええ!


なんか、うちの母ちゃんがするような指で目をぬぐうような仕草でしんみりとしていた。


そうだ。誰に華絵ちゃんが似ているか思い出した。


うちの母ちゃんに似ているんだ。


顔形はまったく似てなかったが、ちょっとした仕草?や雰囲気?オーラ?性格?が似ていた。


血がつながっていないのに不思議だった。


ってことは俺はマザコンか?マザコンなのか?


地獄に落ちそうな考えだったので、忘れることにした。


「悠馬くん。ごめんね。私たち、まだ小学生だし、まだ、そういうこと考えられない」


俺の初恋は終わった。


姉妹が家に帰ると姉ちゃんがぼそっと言った。


「ふられちゃったみたいだね」


「げっ。莉子姉!なんで知ってるの」


「だって、好きそうなのバレバレだったし、真奈美ちゃんと口裏合わせて、ふたりで出ていったんだもんね」


そこまで、周囲にスキスキ光線を発射しているのがバレバレだったのか。


恥ずかしくて死にそうになった。


その夜、華絵ちゃんのことで頭がいっぱいになった俺は、だんだん変な気分になり、彼女の名前をうわごとのようにつぶやきながら、まだ見ぬ裸を思い浮かべて大人になった。


終わった後、俺は激しい罪悪感にさいなまれた。

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