第11話 千秋の嘘①
「じゃあ、有起哉が言ってた亡くなった雑誌記者って、その野添さんの事……」
「え? 有起哉が喋ったの? 自分の事も? 事件との関係も?」
有起哉とみかづきボートで別れたあと、紗英から連絡を受け佳純は紗英の自宅に来ていた。
紗英や太一、陽介らから一葉の事件の経緯を聞かされ、にわかには信じられない話が続くなか、野添という記者の死を知り有起哉の話とも繋がった。が、どんなに詫びられても三人への不信感は拭えない。
「有起哉は怯えてた。次は自分じゃないかって。こんな事する前にどうして有起哉と話さなかったの?」
佳純のその言葉に三人は顔を見合わせ、おのおのが途方にくれた表情を見せた。
最初に紗英の家を訪れたとき佳純は陽介が居るのに驚き、紗英の夫と聞いて二度驚き、怒りも増した。
陽介に初めて会ったのは佳純のホラー小説が拡散され、千秋や美羽たちと話し合っていたあの晩、ファミレスでの事だった。太一の友人として紹介されたが、紗英の夫とは聞いていない。
紗英の結婚はもちろん知っていた。ただ式はやらないからとメッセージアプリで写真が何枚か送られて来ただけで、相手の顔までは覚えていなかった。美羽も千秋も多分同じだ。
『だが、待てよ』と、佳純は思う。
「美羽と千秋はどっちなの? 騙した側? 騙された側?」
どこまで本当の話が聞けるか判らないが尋ねてみた。
「美羽は佳純と同じ。何も知らないわ。だけど、千秋は……」
「え? 千秋もグル?」
「そうじゃない。千秋は判らないのよ、私達も」
「どういう事?」
「佳純から美羽への深夜のメッセージは、確かに私たちの仕業なの。本当にごめんなさい。それと美羽のスマホからの拡散も私達。でも、千秋については私たちは何もしてないのよ」
「ちょっと待って。じゃあ千秋のスマホからの拡散は誰がやったの? まさか本当に幽霊か何かの仕業だって言うの? ううん、その前に! 私や美羽のメッセージはどうやって送ったの?」
「二人のID使って、パソコンから……。申し訳ない」
陽介が答えた。
「なんなのよ、あんた達……」
もはや溜息しか出ない。が、聞いておかなければならない。
「IDやパスワードは? どうしてわかったの? 私のと美羽の……」
「佳純、あのメッセージアプリ登録した時の事、覚えてる?」
紗英に問われ、佳純は声を上げる。
「あっ!」
佳純は思い出した。まだ学生だった頃、佳純と紗英と美羽の三人で一緒に登録したのだ。
『IDとかパスワードとか覚えきれないよね、しかもサイトごとに変えないと危険だとか言うし、何とかならないもんかしら』などと愚痴りながら。
その時に、それぞれ自分の名前のアルファベットを並べ替えたり数字に置き換えたりして三人で捻り出して登録したのだ。以前からそのメッセージアプリを使っていた千秋は、それを笑いながら見ていた。
「紗英、覚えてたのね」
「っていうか、私のレポート用紙使って三人で考えてたでしょう? その時のメモがそのまま残ってたのよ。三人ともセキュリティ意識が低すぎたのよ、あの頃は」
「まあ、言われてみれば……。でも、だからって」
「ごめんなさい! ほんとに。……この事件では関わった人が実際に亡くなったりしてるから、どうしても放っておくわけに行かなくて。あの日、佳純のホラー読んだ時、とにかく狼狽えて」
「紗英から連絡が来て僕もすぐに読んだ。それから三人で話し合って、陽介の手を借りて美羽にメッセージを送ったんだよ、深夜だったけど」
太一もいつも以上に神妙な顔で言った。
「佳純があの事件の詳細を何故知ってるのか、小説にした意図は? とか、判らないことだらけで。とにかく会って話を聞くべきだと思ったの。でも、もしかしたら既に危険な領域まで関わってしまってるのかもしれないし、って」
紗英の言うのに続けて太一も詫びる。
「それで、苦肉の策であんな手の込んだ事をしたんだ。ごめん。ほんとに申し訳なかった」
「そんなに危険なら、わざわざ拡散させるのはおかしいじゃない。美羽まで巻き込む必要あったの?」
佳純は釈然としない。自分の身を案じてくれていたのだとしても、やはり手段が腑に落ちない。
「美羽は、自分では気がついてないけど悪霊に鼻の利く動物霊に守られてる。美羽、佳純の家には行かなかっただろ? ホラーを書いた佳純の事は怖がらずに佳純の家を怖がったんだ。それで僕らも見当がついた。もしかしたら佳純の家に何かあるんじゃないかって。勝手だけど美羽の力を借りたんだ」
太一は随分前から美羽の守護霊には気づいていたらしい。紗英は太一に言われて初めて気がついたそうだ。
「けどさあ、僕らみたいに霊感皆無の人間からしたら嘘っぽいだろ?」
陽介に言われ、彼の事は気にくわないが全くその通りだと佳純は思った。何でもかんでも霊のせいにされては納得も反論も出来ない。だが、その霊能力の無い陽介も紗英達の協力者だ。
「そういう貴方も私達を騙した側だけどね。IDの乗っ取りなんて犯罪行為よ」
「う……、それはそう……です。本当に申し訳ない」
「それに、貴方がアプリ開発者だって話が本当なら、あの日、千秋のスマホを見て何か判らなかったの?」
「彼女は多分、自作自演だよ。だから僕の事は口だけの無能なヤツか、噓つきの怪しいヤツのどっちかだと思ってるんじゃないかな」
「なによ……。もう、みんな信じられない! あんた達も有起哉も千秋も!」
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