第14話 それぞれの役割

「さて、どうしたもんか」

「僕ら二人ともがあっちへ行ったら二葉ふたばさんが危険だ。かと言って恵子さんがもしも亡くなるような事になったら何が起こるか分からない。そうなったら一人じゃ無理だ」

「うむ。もう少し時間があると思っておったんじゃが。それでも保典さんから事情を聴けるのはありがたい。相手の正体がどうにも掴めず行き詰まっておったからの」

「電話で聴けそう?」

「場所を変えて掛け直すそうじゃ。間もなく掛かってくるじゃろう。とにかく明日の朝一で出発するぞ。支度しておけよ太一」

「わかった。だけど爺ちゃん、二葉さんは? 寺にいる限りは大丈夫だとは思うけど、でも、今回ばかりは相手の性質がはっきりしない。が僕らを出し抜いて直接二葉さんを狙って来るかもしれない」 

「太一、そういえば弟さんは?」

 紗英が聞く。紗英や陽介、美羽に佳純、残ったメンバーで二葉を守れれば良いのだが、おそらく何の役にも立たない。

「弟は僧侶の修行合宿中なんだよ。居たとしても、こういう事は苦手分野だからなあ。ばあちゃんの方がまだ頼りになる」

「その上、気が利く。既に頼りになる助っ人まで手配したよ」

 それまで台所で片づけをしていた太一の祖母がドヤ顔で登場した。

「さっきと連絡がついた。明日の朝までにはここへ来るそうだ」

「あの子……? え? もしかして母さん? 日本にいるの?」

「たまたまらしいが、あの子の事だ。勘が働いたんだろうさ」

「そうか。それなら大丈夫だ。僕や爺ちゃんよりよっぽど頼りになる」

「太一のお母さん? 太一の口からお母さんの事って初めて聞いた! どんな人?」

 美羽が驚いて尋ねる。

「……うーん、そうだなあ、悪霊より悪霊みたいな人だよ」

「ええっ?!」


 保典からの電話は二葉には聞かせない方が良いだろうと寺の本堂で聴くことになった。それでもふいに起きてきては大変だからと、太一の祖母が二葉の部屋で見張りに付いた。他の皆は本堂で固唾を呑んで電話を待っている。緊張感が漂う。

 その緊張感の中、美羽がすっくと立ちあがり、仁王立ちで皆を見下ろした。

「じゃあ、電話が掛かってくるまでに私にも説明してよね。あなた達みんなで私を騙してたんでしょう?」

 美羽の怒りは収まってはいなかったようだ。

 

「ごめんなさい。でも佳純は違うのよ。佳純は美羽と同じ。私と陽介と太一が三人でやった事なの」

「そうなの?」

 そう言って佳純を見る美羽に、佳純が頷く。

「私もさっき聞いたとこなの。本当に頭にきたんだけど、その後いろいろあってね、この人達のやった事も仕方が無かったのかもって、今は思ってる」

「いろいろ?」

「うん。私、また何か書いちゃったのよ、怖い話。それがね、千秋に貰った栞のせいかも知れなくて……」

「そう! それが聞きたかったの! 美羽はどうしたの? 千秋に貰った栞」

「紗英。私はまだ許してないのよ。騙された事」

 気になっていた栞の事を訊く紗英に美羽がピシャリと言った。

「……ごめんなさい」

 つい、前のめりに尋ねてしまった紗英は縮こまる。それを横目に、美羽は紗英に聞かれた事を佳純に答える。

「あの栞、実は失くしちゃったのよ。あの日、帰ってから気がついたんだけどカバンの中に無くて。どこかで落っことしたのかも。千秋には内緒にしてね。ああ、でもその栞のせいって? 佳純の小説が? ちょっと意味わかんないんだけど。ってか、そう言えば千秋は? 一緒じゃなかったの? それと、千秋はどっち側なの? 騙した方? それとも私達側? まさか有起哉側?」

「千秋の事はまたちょっと複雑で。どっち側でもないのよ。千秋も何だか巻き込まれてる感じで」

「ううう。なんか厄介な事になってるのね。でも、わかってるのよ私。紗英も太一も陽介って人も悪意があったわけじゃないんでしょう? なんなら私たちの事、心配してくれてたのよね? だから、もう良いわ」

 美羽は意外にあっさりしている。太一は、もしかしたら二葉の様子を見た美羽が感覚で状況を悟ったのかも知れないと思った。

「ほんと、申し訳なかった」

 太一が改めて頭を下げる。陽介も続いて謝りながら

「しかも俺と紗英は夫婦なんだ」

 と白状する。

「そんなの見てたら分るわよ。もうなんだっていいわ。たださ、二葉ちゃんがあんなになるってよっぽど酷い目に遭ったんだと思うのよね。私達、巻き込まれた感じになっちゃってるけど違う気がするの。二葉ちゃんを助けるために集められた気がする。だから、陽介さん。あなたにも役目があるのよ、きっと」

 霊を怖がっていた美羽が変な事を言い出したと佳純や紗英は思ったが、太一は(なるほど、そういう事なのかもしれない)と妙に納得していた。

 どうしてサークルの縁で繋がった六人が、ことごとくこの事件に関わってしまうのか不思議だったのだ。だが、逆だったのだとしたら? この事件を解決するために出逢ったのだとすれば? そう考えた時、景色が違って見えてきた。この六人、いや、陽介を加えた七人にはそれぞれの役割があるのかもしれないと。


 そして。……保典からの電話が鳴った。


 先ずは住職が水を向ける。

「恵子さんはタチの悪いモノに寄生されていると見当をつけておるんじゃが」

「ええ。そうです。もう長い間、恵子は苦しんでいます。自分の使命だからと命がけでアレを自分の体に閉じ込めて来たんです。だが、もう持たない。恵子の病気もアレのせいです。アレの毒気は恵子の体を蝕みながら、それでも次の器を見つけるまでは恵子を殺さぬように……。酷い話です。本当なら次は一葉か二葉が器を務めるはずでした。それがあんなことになってしまって……」

 恵子の事は紗英と陽介は聞いてはいた。タチの悪いモノに憑りつかれているのだろうと。しかし、保典の話からは、まるで自分の意思で憑りつかせていたように聞こえる。

 佳純は紗英たちから、かいつまんだ話を聞いただけだから恵子の事は、保典の妻、一葉たちの叔母、怪しい根付を作っていた、そのくらいしか知らない。美羽に至っては、恵子という名前さえ初耳だ。


 その時

「ご住職、ちょっと、何か病院の様子が……。見てきます」

 そう言って電話を切らぬまま保典が慌てて走り出す。電話の向こうが騒がしい。バタバタと数人が走り回る音。看護師が緊迫した声で何か指示を出している。

「どうしました? 保典さん、保典さん!」

 太一が呼びかける。

「恵子ではありませんでした。恵子はまだ生きています。それなのに、さっき、看護師さんが。さっき。ああ、きっと私のせいだ。私のせいで」

「さっき、どうしたんですか? 看護師さんがどうしたんですか?」

 太一の問いには答えず電話は切れた。そして繋がらなくなった。

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