第12話

「生徒会長〜〜? 今日は私がアオイとお昼ご飯を食べるのですが?」


「はん、何をいうておるか。今日は妾と生徒会室で食べると決まっておるんじゃ!」


 俺は今、とてつもない修羅場に遭遇している。


 俺を挟んでぶつかる火花。この学園の高嶺の花と呼ばれる勇者と剣姫。


 その二人がランチタイムを巡って睨み合っているのだから。


「ど、どーしてこうなった……」


 どうしてこうなったのか、少しだけ時を遡る。



***



「食堂、席空いてねえな……」


 魔法学園の食堂は人気なようで、お昼時になると多くの人でごった返す。


 俺はそんな中で一人でポツリと立っていた。


 お昼ご飯を食べようにも席がない……!


 あいにく授業の関係上アカネとは一緒ではない。いつもは勝手を知っているアカネが席を取ってくれるからいいものの、今日はそうじゃない。


「おや、こんなところで会うとはな」


「副会長……!」


 聞き覚えのある声に俺はばっと振り向く。


 そこには生徒会副会長であるマサムネが立っていた。どうやらマサムネの長身と顔の良さは食堂では目立つらしく、あちこちから黄色い声が上がっている。


「すごい人気ですね副会長……」


「む? そうか? いつものことだからあまり気にしてはいないのだが……」


 この人鈍感か? というか、これがいつものことってすげえな。天職が何か結局わからなかったけど、副会長というポジションに立っているんだ、そりゃあすごいのだろう。



「そういえば生徒会長が君のことを探していたぞ。何やら生徒会室で話がしたいらしい。良かったら行ってみたらどうだ?」


「あ、そうなんですね。わざわざ伝えてくれてありがとうございます」


「気にするな。ではまたな」


 マサムネはそう言って食堂の奥へと進んでいく。あんな長身イケメンでも食堂でご飯を食べるんだ……。


 って何を考えているんだ俺は! と、とにかく師匠が探しているのなら向かうに越したことはないだろう。


 用事が終わった時には席も空いているかもしれない。なら早めに向かうとして……。


「あ、アオイ! 食堂の席取っておいたよっ! 一緒に食べよっ!」


「アカネ……! ご、ごめん実は……」


 アカネが手を振って俺のところに駆け寄ってくる。アカネに事情を説明しようとしたその瞬間だ。


「弟子〜〜!! 探したぞ! ここにおったか!!」


「し……師匠」


 アカネとは反対側から師匠が手を振ってやってきた。アカネもそうだが師匠達が走るとすごいな揺れが。いやどこがとは言わんが。


「む……なんじゃお主」


「ん……生徒会長こそなんですか?」


 俺を挟んで対面に立っている人物へ、アカネと師匠は強い視線を送る。まるで視線が光線になって、火花を散らしているみたいな眼力だ。


「ただ私はアオイとランチタイムを楽しもうと思っているところですよ。私達はこうしていますので」


「ほぅ? では時には一人で食べる日があってもいいじゃろ。それにお主には勇者パーティーの面々もおることだしな。偶にはそっちと交友でも深めたらどうじゃ?」


 入学式の時も思ったが、この二人は相性が悪いかもしれない。


 出会った瞬間、即火花を散らして威嚇し合う。


 アカネも師匠も退くつもりは一切ないらしい。


「それにですね、生徒会長。以前、を勝手に取っていたじゃないですか。それ、許していませんし、なんなら根に持っているんですよね」


「はん! これだから村娘は頭が足りなくて困るのぅ! 大きいのは胸だけか? 心の器というのは随分と小さいんじゃな! それにな、粘着質で神経質な女は嫌われるらしいぞ」


「へ、へぇ……随分と言いますね。そちらこそちんちくりんの癖して」


「なんじゃと? 喧嘩売ってんのか? 今なら倍の値段で買ってやるぞ」


 二人は俺のことは眼中にないらしく、互いに火花を散らしあっている。


 今ならワンチャン逃げられんじゃないか……そんなことを思った時だ。


 アカネと師匠は息を合わせたかのように、ほぼ同時に俺の両腕を引っ掴む。


「生徒会長〜〜? 今日は私がアオイとお昼ご飯を食べるのですが?」


「はん、何をいうておるか。今日は妾と生徒会室で食べると決まっておるんじゃ!」


 お互いにそのデカい胸を押し付けながら、俺を取り合わないでもらえますか!?


 周囲の視線と相まって、今にもストレスで胃が爆発四散しそうなのですが!!!


「ど、どーしてこうなった……」


 二人は一歩も退く様子を見せず、さらにヒートアップしていく。

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