第9話
「一体何をやっているんだお前達は……」
「おお、マサムネ! こ、これは少し違くてのぅ! そ、そう不慮の事故というやつじゃ! なあ?」
師匠は慌てた様子でそう口にすると、俺の首根っこを引っ掴み耳元で囁く。
「おい、はいってうなづけ。いいな?」
「りょ、了解……。はい! その通りです。俺がつまづいてしまって……」
「ふむ、では外で聞こえたなーに誰も見ておらんじゃろから始まる一連の流れはどう説明するつもりだ? 生徒会長」
「ぎくぅ!?!?」
師匠が顔を背けて大量に汗を流す。おいおい、結構前から聞かれてるじゃん!!
「まあ、生徒会長に話を聞くのは後からにしよう。それよりも、君、立てるか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺は差し出された手を取る。次の瞬間、マサムネは俺のことをグイッと勢いよく引っ張り上げた。
「なるほど。これが噂の無才の剣士か。先日の森林訓練のことは聞いているぞ。どうやらBランクの魔物を一人で倒したらしいな」
「え、ああはい……。その話知っているんですね」
「まあな。生徒会に入れば色んな情報が舞い込む。それに会長があんなんだからな、情報はしっかりと取り込まなくてはならない」
「あんなん……」
俺とマサムネの視線が師匠へと向く。師匠はそっぽを向いて吹けもしない口笛を吹いてシラを切ろうとしていた。
「だがそれがあったとしてもだ。私は君の実力に些か疑問を持っている。果たして、あれが目をかけるほどの才能なのかと」
マサムネの手に力が籠る。万力のような凄まじい力。思わず奥歯を強く噛んでしまうほどだ。
「君の入学までの努力は認めよう。天職なしとはいえ、並の天職ありの人間より強いだろう。しかし、その程度の実力で、生徒会長が目をかける理由が私には見当たらない」
「さ、さあ……? 何が言いたいのですか?」
「はっきりと言おう。君は何か生徒会長の弱みを握っていたり、卑怯な手段を使って、弟子という立場を確立しているんじゃないかと」
「おい、少し待て。調子のいいこと言うのも大概にしろよ副会長」
マサムネの言葉に切れたのか、師匠がその腕をガシッと強く握る。
師匠の握力は金属を握り潰してしまうくらい強い。だと言うのに、この人、眉ひとつすら動かさない……!?
この人、どんな天職を発現すればそこまで頑丈になるんだ!?
「何か、私は変なことを言ったか? 生徒会長。これは多くの者が思っていることだ。この学園の多くの生徒、教師は彼の実力を認めても……彼の立場は認めはしないだろう」
マサムネの言いたいことは要約するとこうだ。
天職なし、無才の剣士である俺が、勇者アカネや剣姫クオンに誘われるほどの立場なのだろうかと。
「この学園では天職を持っている者が日々努力と研鑽を積んでいる。彼より相応しい立場の人間は幾らでもいるだろう。そんな彼らを差し置いて、生徒会や勇者パーティーに誘われる価値があるのか、私は疑問だな」
いいぞいいぞー! もっといえー!!
流石に副会長が言ってくれるなら、俺も生徒会に入らずに済むだろう。
これで師匠からのしつこい勧誘もなくなり……そうになさそうだ。ブチ切れた師匠の表情を見ていると。
「なるほど、なるほど。お主の言いたいことは理解した。ならばこうするのはどうじゃ? 副会長、お主、妾の弟子と決闘しろ」
「……は?」
「……ほぅ? 私と彼が釣り合うとでも?」
けけけけけ決闘!?!?
見た感じこの人すんごい化け物だ! 多分、アカネより全然強い!
そんな人と俺が決闘!? 勝てるわけがないだろう!!
「ああ、そうだとも。可愛い弟子にはそろそろ妾以外の者と戦ってほしくてな。まあ、お主、強いしちょうどいいじゃろ」
「そんな風に適当に決められるのは納得がいかないな生徒会長。もっと理由を……」
「お主が疑っている、彼の実力を間近で見ることができるぞ」
その言葉にピクリと反応した後、マサムネの顔がゆっくりと俺の方に向く。
師匠の顔は本気だ。なんなら瞳の奥には揺るぎない意志を感じるようにも見える。
「いいだろう。彼の了承があれば受けてやる。それでいいな?」
「だとさ。どうするのじゃ?」
「お、俺は……」
そこで言い淀む。この時、身長が十センチくらいしか変わらないはずなのに、マサムネの身体が巨人のように大きく見えてしまう。
この人は強い。恐らく俺の何倍も。
「あの二振りを使っても良いぞ。ちょうどいいじゃろ。あれを使う相手として」
師匠は俺の背中を後押しするように、耳元でそう呟く。
それを聞いた瞬間、少しだけど勝機が見えた気がした。
「いいですよ。じゃあ、戦いましょう副会長」
「ほぅ? 勝機が見えたような顔だな。いいだろう。私が直々に君の実力を確かめてやる」
「頑張るのじゃぞ! 妾の弟子というところを思う存分見せつけてやるのじゃっ!」
こうして生徒会副会長との決闘が成立する。
師匠は優しく俺の背中に手を当ててくれている。
師匠の見る目がないと言われるのはごめんだ。この人は師匠のことを馬鹿にしているつもりはないだろう。しかし、ここで実力を示さなければ、師匠の顔に泥を塗ることになる。
だからこの勝負、例え勝機が薄くとも、ほんの少しでもある以上勝たなくてはならない!
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