第2話
「え!? は、ちょ……付き合ってるって本当のことなの!? アオイ!」
「い、いやこれは誤解で……イダダダ!! つねらないでください師匠! 痛い痛い!!」
俺の腕にひっついてきたクオンが、俺の腕を強くつねる。鬼の力でつねられたら肉が引きちぎれるって!!
「妾達、こんなにも仲良しなんじゃ。すまんのぅ、勇者よ。それじゃ、行くぞ弟子よ」
「引っ張らないでください! 歩く! 自分で歩きますからっ! そ、そういうことだアカネ! じゃあまた!」
「あ、いや、話は終わって……」
慌てて引き止めようとするアカネだったが、クオンの歩く速度が早くて俺はそのまま引っ張られてしまうのであった。
***
「し、師匠! いつもはあんなことしないのになんで急にあんなことを!?」
「どアホ! 妾との約束をほっぽり出すそっちが悪い! 妾は怒ってるんじゃぞ!」
裏庭で地団駄を踏みながら怒りの様子を示すクオン。
「入学したら妾のところに来ることっ! それが以前かわした約束じゃろ! お主には生徒会に入ってもらうという役目があるのじゃからな!」
クオンはこの学園の生徒会長だ。複数の特殊な天職を持つ優等生。成績はどの科目においてもダントツのトップを記録している。
そんなクオンと俺に、なんで関わりがあるのか。それは二年前に魔物から助けてもらったのがきっかけだ。
俺が魔物と戦っている時に、手助けしてくれた課外授業中のクオン。その時の剣技に魅せられて、俺は彼女に弟子入りを願い出た。
どんな思惑があってか、彼女はその弟子入りを快く受け入れてくれ、課外授業の度に俺の村に寄っては剣技を教えてくれたのだ。
そして、彼女の厳しい鍛錬もあり、俺はこの学園に入学することができた。
「俺には分不相応な場所です。天職無しの俺には」
「……やはり、天職を目覚めさせることは叶わんかったか。お主なら目覚めても良いと思うのじゃがな」
それはありとあらゆる生命が持つ潜在能力だ。発現させると人並外れた才能を持つことができる。
アカネの【勇者】だと、剣技、魔法、その二つに優れ、また自身の能力そのものが大幅に向上する。
この学園の生徒、九割以上はその天職を持っているが、俺にはそれがない。
「まあない物はない。それは仕方ないことじゃ。でも、お主の努力を妾はよく知っておる。それだけじゃダメなのか?」
上目遣いをしながらそう聞いてくるクオン。
クオンが率いる生徒会は学園でも屈指の実力者を集めた集団だ。
そんなところに俺が行けるはずがない。
「……それだけじゃ足りないだろう。師匠からの好意だけでは。せめて俺に実力があれば……んぐ!?」
「ふぅ、そんな硬くならんでもいいというのにな。ほれ、少しはリラックスせい」
クオンが俺のほっぺを優しくいじり倒す。クオンは意地悪そうな笑顔を浮かべていた。
「キヒヒヒ。表情が硬いぞ、ほれほれ〜〜」
「
「やめろと言ってやめる鬼がどこにおるか! 妾が満足するまでいじり倒してやろう!」
俺はクオンに遊ばれるようにして顔をいじり倒される。
まだ訓練が始まっていないというのにすごく疲れた気分だ……。
「あー笑った笑った! 久しぶりに弟子をいじるとは気分がいいものじゃな!」
「やられるこっちはたまったもんじゃありませんよ……!」
「悪い悪い。しかしのぅ、それならちと、妾に近づけるくらい強くなってもらわんとな」
クオンは魔法で木剣を四本召喚し、そのうちの二本を俺に投げ渡してくる。
「さて、腕を見てやるとしよう。あまり弟子をいじりすぎたら、師匠としてのカッコがつかんからな」
「やっとですか。今日こそは一太刀当てます」
「ぬかせ。妾から一本取れんようでは、勇者パーティーとやらには行かせてやれんな」
俺とクオンは剣の稽古を始める。
クオンの稽古はゴリゴリの実践派。クオンは手加減無し、天職による力を全て使って俺と戦う。
弟子入りした時からそうだ。見て盗め、やりながら覚えろ、そんな無茶振りをいつもしてくる。
「少しは腕を上げたではないか! 並の天職持ちなら倒せるくらいには強くなったんじゃないか?」
「そこまで強くなければ、この学園に来ることはできなかったっ!」
「クハハ! 確かに言う通りじゃ。ではもう少し激しく行くとするかの!」
クオンの剣技は踊るように軽やかで美しい。
故に動くたびに揺れるのだ。そのでけえおっぱいが!!
クッッッソ! いつもこれで集中力を掻き乱される!
「クハハハ! 視線が胸に行っとるのが丸見えじゃエロ弟子!」
「だったらそんなに揺らすな!?」
「揺れるもんはしゃーないじゃろ!! それにほら、素のお主が出ているぞ」
こう、間近で揺らされると、意識がそっちに行ってしまう!
ギリギリのところで剣撃を受け止めてるけどその集中はいつまでも続かねえ……!
「ほれ、隙ありじゃ」
「ぐっ……!?」
身を翻すようにクオンは俺の上に馬乗りとなる。
うお……絶景じゃないじゃない! 今日も一太刀も浴びせられなかった……!
「ふふん、妾に一太刀浴びせられぬようじゃ、まだまだじゃ。多少腕は認めてやらんこともないが。どれ? 生徒会でみっちりしごいてやるからこんか?」
「いやいや、生徒会に入るつもりはありませんよ。それに俺が行ったところで足を引っ張るだけです」
「ふむぅ。妾が認めてるだけじゃ物足りんとでも?」
「みんなの納得が必要だと思っているんです。勇者パーティーも」
俺に天職があれば話を受けていたかもしれない。
しかし、俺には天職がない。それではいくらクオンが師匠と言っても、周囲が認めてくれないだろう。
それは勇者パーティーも同じ。
「俺だけならまだしも、アカネや師匠に悪評がつくことだけは避けたい……」
「真面目で頑固じゃのぅ。妾はそれでも生徒会に入らせたいと思っているのだがな」
クオンがどうしてこんなにも俺を生徒会に入れようとしたいのかわからない。
他に良さげは人は沢山いそうなのだが……。
……とシリアスな話をしていて気が付かなかったけど、俺、いつまで馬乗りされているんだ?
「え、あー、し、師匠? そろそろ退いてもらえると助かるのですが……」
「なんじゃ、敗者の罰じゃ罰。それとも馬乗りにされて興奮でもしたか?」
ニヤニヤと意地の悪そうな笑顔を浮かべる師匠。
そりゃあもう興奮してるよ!! 鋼のような理性で抑えつけてるよ色んなもの!!
「ししししてませんけどッ!?!?
こんなところ他の生徒に見られたらどうするつもりなんですかっ!? 村じゃないんですから早く退いてください……!」
「クハハハ!! 悪い悪い! やはり弟子はいじりがいがあるのぅ」
「そんな気軽に弄らないでくださいよ……。生徒会に入ったらどうなることやら」
「ふふん、そりゃあ、お主の働き次第じゃな。まあ、少し見ないうちに強くなったな。今日、そこだけは褒めてやろう」
クオンと最後に出会ったのは今日から三ヶ月以上前の話だ。
その時はこの学園の入学試験に受かる前で入学できるか怪しかった。
けれどクオンは必ず入学できると俺を励まし、こうやって入学する前提で約束をしていた。
そんなふざけているようで、こんな俺に期待をかけてくれる師匠に少しだけ感謝の気持ちが込み上げてくる。
「して、生徒会に入るつもりはないか?」
「今日で何度目ですか……。入りませんよ俺。勇者パーティーに入ることが俺と彼女の約束ですから」
「ほーーーーん」
「なんですか、その顔」
クオンは少しだけ頬を膨らませて、顔を背けてしまう。
「別になんでもないっ! 妾はそろそろ生徒会の仕事があるから戻るのじゃ! 鍛錬は怠るなよ弟子っ!」
「は、はいっ! 次こそは一本取って見せます!」
「クヒヒヒ……言っておれ。しばらくはお主を手放すつもりはないぞ」
笑い声までは聞こえたけれど、そこから先は風の音にさらわれて消えてしまった。
一体何を言っていたのだろうか。
俺は去っていくクオンの背中を見届けて、再び剣を握る。
「もう少しやっていくか」
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