第5話 

「アオイ、剣じゃなくて刀使ってるんだ」


「ああ、師匠の影響でな。刀に変えたんだ」


「ふーーーーーーーーーん」


「なんだその目……」


 アカネにジト目で見られながら、俺たちは森林訓練場の中を歩く。


 アカネはぷいっと顔を背けて、俺へこういう。


「別に! 何も気にしてなんかいないんだからねっ!」


「一体なんなんだ……」


 アカネは不機嫌そうに鼻を鳴らすとズカズカと前へ進んでいく。


 学園には幾つかの訓練場がある。その中の一つ森林訓練場は、森林環境での戦闘を想定した訓練場だ。


 森林での戦いは見通しが悪い分、予想外の不意打ちに警戒しなくてはならない。


「一匹みっけ!」


 ただアカネの場合はそれに当てはまらないようだ。人並み外れた魔力を持つアカネは、魔力を放出することで周囲の気配を探知できる。


 まるで獣のような素早さで魔物を見つけては剣で倒していく。その姿は可愛らしい少女とは思えない。


「二匹目! ふふーん、どうだアオイ! これでアオイも勇者パーティーに入りたくなったでしょ? 私の戦いぶりもっと見てみたいでしょ?」


「いや……師匠みたいな戦い方はもう見飽きている。それに隙があるようじゃまだまだ入りたいとは思えないな」


 アカネの背後から音もなく近寄ってきた狼型の魔物を、俺は一刀の元に斬り伏せる。どうやらアカネの魔力による探知はところどころ抜け目があるらしい。


「あれくらいなら無傷で受けられるし、むしろアオイの実力を計った的な? そういうやつだから勘違いしないでほしいなっ!」


 アカネは俺を上空から襲おうとしていた鳥型の魔物を斬撃で斬り落とす。空までは警戒できていなかった……!


 アカネは自慢げに胸を張りながら俺へこう告げる。 


「ふふん! アオイもまだまだ爪が甘いね! ソロでやるよりも勇者パーティーで頼りになる仲間に囲まれながら戦うのがお似合いだよ! だから勇者パーティーに入ろ? ね?」


「しつこいぞ。それにアカネだって、攻撃の前後で魔力操作が乱れて感知できていないだろうに。例え無傷で済むと言ってもそういう小さな油断が命取りになる場合もある。ああいう毒持ちの魔物はとくにな」


 アカネを襲おうとしていた無数の蜂型の魔物を、二刀を抜いて倒していく。ああいう手合いは強力な毒を持つ。攻撃を喰らうのはあまり良くないだろう。


「む、むぅ生意気だよアオイ! アオイは大人しく私に守られていればいいの!!」


「それだと授業の意味がないじゃないか。それに隙を見せているアカネの方が悪い」


「何を~~!? こうなればどっちが多くの魔物を倒せるか勝負だ!」


 勝負を挑まれたら受けるのが筋というものだ。


 見たところアカネは力をあまり使っていないが、それはこちらも同じ。師匠から叩き込まれた剣技を何一つ見せていない。


 俺とアカネは森林を全力疾走しながら、目についた魔物をとにかく倒していく。


「息上がっているんじゃない!? 中々やるけど、まだまだ全然みたいだね! 勇者パーティーでしごいてあげようか!?」


「アカネこそ、随分と剣技が乱れているじゃないか。本気を出していないという言い訳は聞きたくないぞ。それに俺は勇者パーティーに入るつもりはないっ!」


「ふふん! じゃあ、アオイが勇者パーティーに入りたいって思わせるように、もう少し本気出しちゃおうかな!」


 アカネの魔力がさらに放出される。おいおい嘘だろ!?


 アカネ、俺を勇者パーティーに引き入れるためにどんだけ本気なんだ!? この森林訓練場を更地にでもする気か!?


「そこまでしてくれるとはな。だけど、俺は師匠を超えるまでどこにも属する気はない。これは俺の覚悟だ」


「勇者の本気を見てまだそんなことを言ってられるかな? 勇者パーティーでみっちりしごいて、すぐにでも生徒会長を超えるくらい強くしてあげるよ。これだとウィンウィンじゃない?」


「これは俺一人でやるから意味があることなんだ。アカネや師匠になんて言われようとも、俺は俺の決めたことを決して曲げない」


 アカネや生徒会長がどれだけ俺を高く見積もっていたとしても、俺一人で戦えるようにならなきゃ、俺一人で師匠を倒せるくらいの実力をつけなきゃ、みんなの足を引っ張ってしまう。


 そんなのはまっぴらごめんだ。俺にはまだ、彼女たちに何かを与えることはできない。


「ふぅん。やっぱり一度決めたことを曲げないところは昔から変わらないみたいだね。いいよ。じゃあ、それでも勇者パーティーに入りたいって思わせてあげる」


「やってみろ。俺は勇者パーティーに入ったりしない」


 五十以上の魔物を狩りつくした時だ。鳥が一斉に羽ばたき、一際強大な魔物の気配が俺達を襲った。


「魔物だ! 陣形を組め! こいつが今回の大物だ!」


「くそっ! 魔法が全然通じないぞ! 誰か強力な魔法を使える奴はいないのか!?」


『グオオオッッ!!』


 体長五メートルを超える巨大な一つ目の魔物、ギガントを取り囲むように多くの生徒たちが陣形を組んでいた。


 しかし、流石はBランク相当の魔物と言うだけはある。生半可な魔法や攻撃は意にも介していない。


「アオイ。流石に下がっていた方がいいとも思うよ。天職ありのみんながあれだもん。アオイには……」


「……いいな。昨日の師匠の剣技が使えるかもしれない」


 俺は村でも見たことがない強大な魔物を目の前にして、怯むわけでも、臆するわけでもなく、ただその姿を観察していた。


 あれは斬れる。そんな確信が俺の中にある。師匠との修行で身に着けた技術ならば、あれの命に届きうると思ったのだ。


「アカネ、君こそ下がれ。これは俺の獲物だ。楽しみにしていたんだろう? 俺の実力を見るの。思う存分見せてやる」


「へぇ……。じゃあ失望させないでよね。失望したら勇者パーティーに入ってもらうから」


「いつもそれだな……。まあいい。だったら見ておくといいさ。俺の本気を見せてやる」


 俺は鞘に納めている二刀に手をかけつつ、ギガントを見つめる。


 さて、俺の本気、俺の剣技がどれだけ通じるか、試すにはいい機会だ。本気でやろうか!

 


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