第4話
魔法学園には数多くの授業がある。
「授業を始めるぞ。編入生向けに自己紹介すると、物理戦闘系授業を担当するシドウだ。シドウ先生と呼べ」
俺は物理戦闘の授業を受けていた。やはり鍛えるとするなら剣技などの物理戦闘に限るだろう。
担当するシドウ先生は身長が高く、ボディラインがくっきりとしている女教師だ。そうつまり、おっぱいとケツがでかい!!
「何やらよくないこと考えてる様子だね。隣いいかな?」
「べ、別にそんなこと考えてないが? アカネもこの授業か」
ジト目で俺を見るアカネから目を逸らしつつ、俺はそう答える。
アカネはふぅと一息ついた後、俺の隣の席に座った。どうやら魔法学園の授業では席は自由らしい。
「シドウ先生は元騎士なんだよ。それも超強いの。私でもいまだに十回やって五回勝てればいい方だもん」
「へぇ、中々どうして……。俺なら六回は勝てそうだな」
「あはは面白いこと言うね。じゃあ私は七回だから」
勇者のアカネがそう言うくらいだ。相当な手練れなのだろう。それは一目見ただけで判断がつく。
勝てない相手ではないと判断した。だからか、妙にアカネと張り合いたい気持ちが出てくる。
「おいそこ、聞こえているからな。人を使ってイチャイチャするんじゃない」
「「してませんが?」」
「仲がいいな二人とも……」
俺たちは同じタイミングでそう口にする。これは張り合っているだけで断じてイチャイチャなどではない!
「まあいい。今日は魔物討伐の実習に行ってもらう。二人一組を作れ。パートナーと協力して魔物と戦ってもらう。いいな?」
「あ! じゃあちょうどいいからアオイ一緒に……」
「アカネさん! ぜひ僕と組んでくれませんか!?」
「おい抜け駆けは禁止だぞ!! 勇者様ぜひ俺と……!!」
「おいおい君たちは品性がないねぇ。どうだい勇者様? 私がエスコートしてあげようじゃないか」
アカネが俺に声をかけようとした瞬間だ。アカネの席を取り囲むように多くの生徒が殺到する。
い……一体何が起きているんだ!?
「なんなんだこれは……」
「そうか、君は見るのが初めてか。これが勇者の人気というやつだ」
「シドウ先生……」
シドウ先生はもみくちゃにされているアカネを横目に見つつ、俺の方に近づいてきていた。足音や気配を悟らせぬまま。
「噂で聞いているぞ。君が天職なし、コネなし、おまけにあの生徒会長お気に入りの編入生ということは」
「俺ってそんな風な扱いなんですね……。ですが、俺を見たところで面白いものはありませんよ」
「ククク、それを決めるのは私の方だ。天職なし、無才の実力を楽しみにしているさ。精々退屈させないでくれ」
もしかしてこのやり取り、別の授業でもやるんじゃないだろうな……?
さて、アカネがもみくちゃにされている以上、俺も俺で組む相手を見つけなくては。だけど、それ以外の生徒はほとんどが前学年からの付き合いで組を作っている。
「ごめんねみんな。みんなと組みたい気持ちは山々だけど、私は今日組む相手を見つけてきているんだ。ね? アオイ」
「……マジか。俺でいいのか?」
「アオイがいいんだよ。言わせないでよ」
アカネは顔を赤くしてもじもじしているけど、俺は顔面蒼白だろう。
何故なら、アカネの後ろにいる生徒たちの視線がやたらと怖いから。なんか敵視されていないか?
「おい、あいつ……噂の天職なし」
「ああ、無能だろう? 天職もない平民風情が勇者と組むなんてな」
「身の程をわきまえて欲しいものだ。どうせすぐに知るだろうさ、勇者と無能の格差というやつを」
わーお、すんごい敵意向けられているんだが。
俺のことを無才と呼ぶ人もいれば、無能と呼ぶ人もいるのか。まあそう思うのは仕方ないか。
「ん? どーしたのアオイ。顔真っ青だよ、アオイだけに」
「面白くもないこと言うな。しかしいいのか? アカネこそ俺なんかより組む人いるんじゃないのか?」
「しつこいよ。私はアオイがいいの。それに実力確かめなきゃ勇者パーティーに誘うこともできないでしょ? だから一緒に組むの」
「どうせ組まなくても誘うくせに」
にひひ~~といたずらが成功したかのような笑顔を見せるアカネ。アカネの後ろで生徒たちのボルテージはさらに上がっているから、そろそろ気が付いてほしい。
「おい、お前ら。さっさと組みを作れ。時間はないぞ」
「……チッ。勇者様となれなれしくしやがって」
「行こうぜ。どうせ、あいつじゃ勇者様の実力についていけないだろうさ」
シドウ先生の言葉の後、生徒たちは捨てセリフを言ってその場を立ち去っていく。ふぅ、心臓が止まるかと思った。
「さて、それぞれ組はできたな。では説明するぞ。場所は学園の森林訓練場。そこに計百体の魔物を解き放った。低級の魔物から、Bランク相当の魔物もいる。狩った魔物に応じて点数を加点していくこととする。ルールはこれだけだ。質問は?」
「他の組との協力した場合はどうなるんですか?」
生徒の一人が手を挙げて先生に質問する。確かに、アカネや師匠ならBランク相当の魔物など一瞬で倒せるけど、他の生徒はそうはいかない。
別の組と協力して倒す場合もあるのか。
「その場合はトドメを刺した組の加点となる。魔物の横取りについては禁止していない。しかし生徒同士の争いについてはノーコメントだ」
……ん、なるほど。つまり横取りをしてもいいけど、それによって生徒間で争いが起きても学園は関与しないつもりか。
魔物の横取りはリスクがありそうだ。
「さて、説明は以上だ。各自準備が整った組から森林訓練場へ入ることを許可する! 早い者勝ちだ! いけ!!」
シドウ先生の号令の下、生徒たちが一斉に駆け出す。
「さて、俺達も行くか、アカネ」
「そうだね。ふふ、楽しみだな~~アカネと一緒に授業受けるの!」
アカネは笑顔でそう口にする。そんなアカネを見ていると、少しだけ緊張が和らいだ気がした。
「そうだな。楽しみだな、アカネがどれだけ強くなっているか」
「む~~! そのセリフは私の方ッ! 私がアオイのことを試すんだから勘違いしないでよね! 弱ければ勇者パーティーでみっちりしごいてあげるんだから!」
「もし、想像よりも強ければ?」
「そりゃあもう即戦力として勇者パーティーに入ってもらうよ!」
「大して変わらないじゃないか。まあいい、頑張るぞアカネ」
同じ結末が待っていることに俺は苦笑しつつも、昔のように拳を突き出す。アカネはそれを見て察したのか、その拳に自分の拳を突き合せた。
「うん! 頑張ろうねアオイ!」
こうして、俺とアカネは森林訓練場へ向かう。さあ、初の授業開始だ!
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