第7話
「では授業の成績を発表する」
シドウ先生の前に集められた俺達。今から授業の成績発表ということで、俺達は唾を飲み込んだ。
「楽しみだねっ! 今回はどれだけ魔物倒せたかな〜〜?」
例外が一人いた。アカネはみんなが緊張している中、楽しそうな雰囲気で成績発表を待っている。
「一人楽しみにしている生徒もいることだし、早めに成績発表するとしよう。今回は意外な結果になった」
シドウ先生がちらりと、俺の方を見る。その後、静かに頬を緩めて笑った。
「先ずは一位、アカネ、アオイペアだ。討伐魔物数は八十七匹! うちBランクのギガント討伐! 文句なしの一位だ!」
「勇者様はともかく、あの無能までが一位とは納得がいかねえ!!」
「でもよ、あいつギガントを倒しているんだぜ? それもほぼ無傷で」
「何かしらインチキがあったに違いねえ! それに勇者様が援護したという可能性も……」
「ん? してないよ私。あれは全部アオイの実力だよ」
周囲の生徒の声を聞き流すわけでもなく、アカネは生徒達に向かってそう口にする。
その言葉を予想していなかったのか、生徒達が怯んだところをアカネは自慢するかのような口調でこういう。
「ふふーん、アオイは凄いんだよっ! 天職なし、努力だけでここまで強くなったんだから! なんといっても勇者パーティーに入る予定で……」
「いや、そんな予定はない。勇者パーティー云々も、俺の実力も彼女が勝手に言っているだけだ。気にしないでくれ」
「むーーー!!! 何さ何さ!! せっかく人がアオイのこと褒めてあげてるのに! こうしてみんなの前で勇者パーティーに入るって言えば、アオイも引き下がれないと思ったのに……!!」
「やっぱそれが目的なんじゃないか」
勇者パーティーに今は入るつもりはないって言ってるのに、アカネは頑なに引き下がろうとしない。
「あの勇者様とあんなにも親しく……!」
「勇者パーティーのお誘いを断るとはなんて無礼なやつめ!」
「くそっ……! 俺たちもあんなふうにイチャイチャしたい……!!」
「「していないが?」」
「いや……あ、すみません」
イチャイチャしていると思ってもらっては困る。
別にこれくらいのことは日常茶飯事的なあれだ。
「まあ良い。二位以下はこちらの紙に掲載しておく。各自確認するように。では今回の授業はこれにて解散だ! 以後、鍛錬を怠らぬように! 以上!!」
シドウ先生はそういうと、成績が書き出された紙を張り出して教室を出ていく。初めて授業というものを受けたのだが……こんなふうに進んでいくのか。
「ねえねえ、アオイ。私との戦いどうだった? 息ぴったりだと思わなかった? 勇者パーティーに入りたいと思ったでしょ! さあ! 席はいつでも空いているよっ!」
「いや席を空けられても……。それに昨日から思っていたんだけど、今じゃいけない理由は何かあるのか?」
「だってそりゃあ、六年ぶりの幼馴染との再会だよ? それも大切な約束をした。勇者パーティーに入ってくれたら合法的にイチャイチャできるじゃん」
「結構欲望をぶっちゃっけてきたなおい……」
合法的にイチャイチャって……。まあ、アカネと大切な約束をした自覚はある。
けれど、天職なしの俺が過去の約束どうこうで気軽に入っていいところではないのだ勇者パーティーは。
それこそ、国の未来、世界の未来を背負うような大役を任せられる。その時、今の俺ではみんなの足を引っ張ってしまうだろう。
「とにかく! しばらく俺は入るつもりないからなっ! 師匠を超えるまでどこにも属さない! みんなの足を引っ張るわけにはいかないんだ」
「む〜〜! 別にそれって一人でやらなきゃいけないことなの? 勇者パーティーに入ればそれなりに高ランクな依頼はやってくるよ。そこでレベルアップするっていう考え方も……」
「それは……。いいや、これは一人でやるから意味のあることだと俺は思う。だからごめん、アカネ。やはり今は入れない」
「ふーーーーん、私と知らない間に生徒会長と何やら約束したみたいだね。今度生徒会長に聞こうかな」
「やめておけ。どうせ師匠は話さない」
師匠は一人で秘密を抱えている。
あの約束は俺と師匠だけしか知らない。アカネに語っていることは全てではないのだ。
この約束は剣の稽古をつけてくれたお礼に、俺が自ら師匠と交わしたもの。あまり口外するものでもないだろう。
「むーなんとしてでも勇者パーティーに入れたいっ! アオイと一緒に冒険したいっ!」
「一緒に冒険ならパーティーじゃなくてもいいだろうに……」
「いーやーだー!! パーティーで冒険してこそ、冒険者の醍醐味なの! 今日のところは引いてあげるけど次は絶対に落として見せるんだからねっ!」
「諦めるつもりないのか……」
「当然! 諦めないのが勇者として大切な心得だからねっ!」
諦めない心。それは勇者にとって非常に大切なものだろう。確かに言われてみたらそうだ。
「あ、そういえば一緒にお昼ご飯食べにいかない? アオイ、ここの食堂初めてでしょ」
「ああ、うん。それくらいならいいぞ」
「やったっ! じゃあ今日は一緒にお昼ご飯だねっ!」
アカネは軽く飛び跳ねてそういう。
まあ、勇者パーティー以外の誘いは断らないようにしよう。なんだかんだ久しぶりの幼馴染だ。積もる話も色々あると思うし。
「アオイには色々と話したいことがあったんだよね〜〜! 例えばパーティーメンバーの話とか!」
「へぇ、アカネとパーティーを組んでるってどんな人なんだ?」
「凄いよみんなっ! 例えばさっ!」
俺はアカネとそんな会話を交わしながら共に食堂でお昼ご飯を済ませるのであった。
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