荒々しい波濤が優しい潮騒へと転じる浄化の物語

人生を一変させた悲惨な海難事故の記憶。生き残った少女は、今も悪夢に魘されて、遺族に罵られ、生きる意味すら見出せなくなった…

絶望的な状況、遣る瀬無い場面から物語は始まります。自ら命を絶とうと決意した刹那、差し伸べられた手。運命を司る一本の手。それが彼女を変えて行くことになります。

相手は優しげな男の子。一見、シンプルなボーイ・ミーツ・ガールの様相ですが、その手は何処までも力強く、彼女の生き様を変え、過去と向き合う勇気、そして未来に眼を向ける情熱を授け、導きます。

主人公の揺れる心情や友人との交流が丹念に描かれる中、明らかになる海難事故の真実。中盤からの展開は意外性に満ち、一種、謎解きの雰囲気も醸し出しますが、軸になるのは少女の純真、そして他人を想う慈悲の心です。

一人の少女の物語でありながらも、なぜか自分のトラウマがひと欠片ずつ剥がされ、克服されるような感覚に陥ります。

過去は本当に取り返しが付かないものなのか?

終盤に向かうに際して、そんな疑問も突き付けられます。悲劇は悲劇であって、心構えや捉え方では変えられない。けれども、浄化され、昇華します。心の傷は、真実を知ることによって癒されるケースもあるのです。

予想だにしなかった真相、海難事故の陰で何があったのか──それは本作を読み進めて、直に受け取って下さい。透明感と清涼感に溢れる素晴らしいエンディングが待っています。

その他のおすすめレビュー

蝶番祭(てふつがひ・まつり)さんの他のおすすめレビュー497