華麗なる血族の末裔は罅割れたアラベスクを修復する

リアルな貴族社会を舞台にした濃密なヒューマン・ドラマです。

現代風のキッチュな題名からは推し量れない貴人と貴婦人の葛藤や挫折、救済が精緻な筆致で描かれ、読み進めるほどに主にヒロインに寄り添いたくなる大人のロマンス。家族や取り巻きも風変わりでひと癖ふた癖あり、物語に花を添えます。

家の格式を重んじる政略結婚、華やかなれど閉鎖的な社会──しかし、在り来たりの宮廷ドラマとは異なり、男性側は浪費家の父親らの所為で没落した子爵家。土地家屋を貸し出し、綱渡りの生活を強いられる不安定な身分とあって約束された子々孫々の繁栄もない……

しかも、商人階級が台頭して華族が安泰とは言えない時代背景が陰を落とし、予定調和を崩しているようにも受け取れます。そこに恵まれない過去を背負ったヒロイン側の事情が絡み、更に奥行きが深まり、味わいが増します。

重要なので繰り返しますが、良からぬ思惑や権謀術数が交錯するドロドロしたメロドラマではありません。ヒロインは何処までも純粋で、ハートフルなのです。

☆☆☆
本作は一章と二章で構成されるオムニバス形式で、群像劇のテイストを加味しつつ、貴族社会が活写されますが、個人的には二章の修道院を巡る逸話と描写が素敵で、公侯伯子男の爵位が登場する中世ファンタジーの書き手にとって参考になること請け合い。

同時に、王道系ファンタジーが好きな方に読んで頂きたい作品です。

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