第14話 街の名はラチノア④
「こちらこそ、よろしく。えーと……」
「ギンだ」
「うん、よろしくギンさん」
プロミがギンの手を握り返す。
ギンが苦い顔をした。
「悪いが、さん付けはされるのは苦手なんだ。呼び捨ててもらえると助かる」
「そうなの? なら私の事も呼び捨てにしてよ。私の名前だけ敬称なんてなんか変だからさ」
「そうか? 」
分かった、と言ってギンが笑う。
荒々しさの中にどこか品を感じる笑顔だった。
ついさっきまで、切り付ける寸前だった相手によくこんな親しげな顔ができるものだ。
細かい事は気にしない主義なのだろう。
人によって好みが大きく分かれるタイプだと思うが、同じく細かいことを気にしない善人のプロミと相性が良いのは明白だ。
そして。だからこそ危険。
カツッ カツッカツッカツッ カツッ カツッカツッ
カツッカツッ カツッ カツッカツッカツッ カツッ
「……! 」
規則正しく、法則性を持ってプロミのゴーグルの
「何やってんだそいつ? 」
「こうやって喋ってるんだよ。ナチャがお腹すいちゃったみたい。そういえばまだ今日お昼食べてないからね」
プロミが、私とプロミの顔を交互に見比べるギンに向かって少し困ったように笑う。
ギンが感心した様に嘆息した。
「リズムを言葉代わりにしてるわけか。図鑑とか伝聞で賢い生き物と聞いちゃいたが、ここまでとはな。研究してみてぇなぁ」
じょりじょりと
こんな男のモルモットにされるなど死んでもごめんだ。
プロミが
「なぁ、そのカラスも腹減ってるんだろ? 良かったら俺の家で飯食ってかねぇか? 」
ギンが後ろの石のテントのような建物を指差す。
突然の提案にプロミが内心身構えたのが分かった。
その気配を察してか、ギンが慌てて
「久々の客人だから色々話を聞きてぇだけだ。ほれ、これもここに置いてくからよ? 準備ができたら来てくれ。どうしても嫌ってんならこのまま行っちまっても止めやしねぇがな」
そう言うとギンは持っていたニホントウを地面に突き刺し、石のテントの方へスタスタと戻っていった。
中へとギンの姿が消えたのを確認し、プロミと顔を見合わせる。
「『ムカエビト センセイ ケイコク カクセ』か。そういえば、
「プロミは
ギンが立ち去ったことで、隠れていた疲れが一気に込み上げてきた。
久しぶりなだけに、もし信号が伝わらなかったら、とも思ったが、先生に叩き込まれただけあって忘れてはいなかったようだな。
「ねぇ。なんでさっきナチャさんしゃべらなかったの? 」
プロミの影に隠れていたカナタが、尋ねてくる。
そういえばまだカナタには言ってないのか。
危うくギンの前で尋ねられるところだった。
カナタの人見知りに助けられたな。
「私が喋れることは基本的に秘密なんだ。何かと厄介ごとの種になることが多いからな」
「? でも、わたしとかセンジュさんには…… 」
「2人の場合はバックが無かったからね。個人なら対処できるけど、大きな集団と繋がりのある人が問題なんだよ」
プロミが補足する。
分かったような分かっていないような
こればかりは経験してみないと分かりにくいことだが、たとえ素人とて集団を敵に回すのは危険この上ない行為だ。以前、喋れることがバレて妙な宗教団体に
もうあんな目に遭うのは懲り懲りだ。
「それで、どうする? 」
「行くだけ行ってみようよ。実際武器はここに置いてってるし。襲うんだったらさっきの時点でしてるよ」
プロミが深々と灰に突き刺さったニホントウに目を遣る。確かに先ほどの時点でギンは十分丸腰の私たちを制圧できた。
私たちの身包みが目当てならば、わざわざこんな真似をする必要も無いはずだ。
「念の為、警戒は怠るなよ」
「分かってるよ。カナタちゃんは私の後ろからついてきて。万が一の時はすぐ逃げてね」
「う、うん」
頬を強張らせカナタが頷く。
緊張を解こうとプロミが、大丈夫、大丈夫と笑った。
「良い人そうだったし。それになんか親近感を感じるんだよね。
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