開幕一行で伝わる空気感。伝わるからこそ戦慄せざるをえない、凄惨な現実。

「照りつける太陽の光が、僕の背中をローストターキーの表面のようにこんがりと焼きつける。」

本作最初の一行ですが、既にこの時点で、文章が濃厚な空気感を帯びているのが凄い。
ローストターキーの異国感、太陽と焼かれた鳥のイメージから伝わる乾いた焦熱感。
もちろんそれは最初の一行では終わらず、アメリカの田舎を包む澱んだ倦怠感、そこに身を置くがゆえの閉塞感など、文全体が濃密な空気感を纏っています。
物語を演出する小道具や各種の固有名詞についても細やかに設定されており、細部まで手を抜かず構築された世界観が、作中の情感を裏打ちしています。

そしてそれは、第四章で舞台がベトナム戦争の戦場へ移っても変わらない。
手を抜かず構築された細部と濃密な空気感は、凄惨な戦場をも余すところなく活写しています。
容赦なく表現される過酷な現実は、第三章までの雰囲気が確立されているからこそ、より深く強く胸に刺さります。

戦争の後、主人公にはいったいどのような結末が待っているのか。
現時点ではまだ掲載されていませんが(これを書いている現在、掲載は第五章三話まで)、幸せに終わるとは考えにくい気がしています。
どのような結末になるにせよ、見届けさせていただきたいと思います。



[2024/01/08追記]
遅くなりましたが最後まで拝読いたしました。

結末は、予想していたよりも希望のあるもので少しほっとしました。
未来に希望があるとしても過去の傷が消えるわけではないですが、歩む道が標(というほど、たしかなものではないかもしれませんが)として存在するのは、何かしらの救いに思えます。
本編が別にあるとのことで、そちらも時間ができましたら拝読してみたいと思います。
ありがとうございました。

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