&So Are You

虹乃ノラン

プロローグ

 照りつける太陽の光が、僕の背中をローストターキーの表面のようにこんがりと焼きつける。

 目前に広がる湖面には零れんばかりの光の粒が溢れ、宝石箱を埋め尽くしたダイヤモンドみたいに煌めいていた。


 この場所で共に長い時を過ごした僕たちは、なにひとつ色褪せることなく同じ輝きを放っているはずだ。

 すべてあの頃のままに。


 そうして君も、あの日のキラキラした笑顔のままで……。


 耳を澄まさなくても今でも聞こえる。酷い耳鳴りと張り裂ける悲鳴が、銃声や爆撃音のように僕を襲い続けている。


 常に気持ちを集中させていなければ、僕の意識なんてあっという間にバラバラになって、悔悟かいごと深い孤独の穴に閉じ込められてしまうよ。


 この退屈な町から抜け出せるなら、なにを失っても良いとさえ思っていた僕は、文字通りすべてを失って帰ってきた。


  Roses are red, バラは赤い

  Violets are blue, スミレは青い

  Sugar is sweet,  お砂糖は甘い

  And so are you. そうして君も


 君と過ごした思い出だけが今も鮮明に色づいていて、そしてお砂糖のように甘い。


 ねえ、ハンナ。


 僕はあの頃の君のように、真っ白なキャンバスに君が大好きだった湖の風景を描いている。

 町の子供たちは、そんな僕を見て驚いているよ。まるでピカソのような絵だって。


 僕はその人の絵を見たことはないけれど、町の子供たちが名前を知ってるほどに有名な画家なら、きっと才能に溢れる素晴らしい人なんだろうね、君のように。


 君の目にも、そんな風に刺激的に見えているかい? 


 初めてこの町で君を見つけた、あの頃の僕と同じくらいに刺激的に……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る