第23話 兄弟弟子対決

 ゼロは数年振りに「カリウスの剣」達と再会した。変わってないと言えば変わってないが変わったと言えば変わった。少なくとも前の様な弱々しさは微塵もなくなっていた。


 確かに今は押しも押されもしない堂々としたAランク冒険者達だった。しかも超が付くほどの。


「ゼロさん、その子は?」

「これか、これは俺の今のパートナーだ。ピョンコと言うんだ」

「ピョンコです。お噂はかねがね伺っております。宜しくお願いします」


「へー歳の割には随分としっかりしてるんですね、流石はゼロさんの新しい弟子ですね」

「あのー先ほど皆さんもお師匠様の事を「師匠」とお呼びになってましたが」


「俺達もゼロさんの教えを受けた。つまり君とは兄弟弟子と言う事になる。宜しく頼むぞ妹弟子」

「は、はい、こちらこそよろしくお願いします」


「なるほどそう言う事でしたか。驚きましたね『カリウスの剣』の皆さんと『ラビットファイアー』が兄弟弟子とは」


 流石のギルドマスターもこう言う展開になるとは想像もしなかった。


「何ですかゼロさん、その『ラビットファイアー』と言うのは」

「俺達のパーティ名だが」

「まさかそれってゼロさんが名を付けたんじゃ」

「そうだが」

「やっぱりそうでしたか。変わりませんね」

「何がだ」

「いえ、何も」


「所でお前らここに何しに来た」

「それなんですが、いいですかここでも」

「構わんだろう、話せ」


「はい、実はクリフトさんが襲われて怪我を負いました」

「ちょっと待ってください、クリフトさんってあのSランク冒険者のクリフトさんですか」

「そうですギルドマスター」


「そんな馬鹿な、世界最高峰のSランク冒険者に怪我を負わせるなんて一体誰が」

「問題はそこなんです。彼らは「神の戦士」と言ってました。その中の一体が非常に強くてそれに傷を負わされたようです」

「あの馬鹿、また手を抜いてたんだろう」

「確かにそれもありますが、油断ならない相手である事は間違いないでしょう」


「お師匠様、いくら何でもSランク冒険者様に馬鹿はちょっと言い過ぎでは」

「いいんだよピョンコちゃん。クリフトさんもまたゼロさんの弟子なんだから」

「えっ、ええっ、本当なんですかお師匠様」

「まぁな」


「これはまたまた驚きましたね。まさかあのクリフトさんまでが貴方のお弟子さんだったとは。一体貴方は何者なんですか」

「俺はただの冒険者だ」

「まぁそうですよね、だたの冒険者ですよね。ったく」


「それと今回のお前らのこの町への訪問とどう言う関係があるんだ」

「それなんですが、どうも古代遺跡と『神の戦士』と言うのは何か関係があるのではないかと思うのです」

「それでこの町に来たと言う訳か」

「はい、俺達はクリフトさんに頼まれて各地の古代遺跡を調査してます」


「そう言う理由でしたか、確かにこの町には古代遺跡の伝承がありますからね。かってこの森の深淵部にあったと言う伝承ですが誰一人として見た者はいません。またそれを探しに行って帰って来た者もいません。何しろ深淵は最強魔物の巣窟ですから」

「あそこには何もなかったぞ」

「まさかゼロさん、行ったのですか」

「ああ、行って来た。焼け残った壁の一片があっただけだ」


 確かにゼロは見た目に於ける嘘は言ってはいない。その奥にある物については理解の外にある。


 例えゼロのいた世界の人間に取っても。だから敢えてそれには触れなかった。


「まさか、あの深淵に行ったと言うのですか貴方は。ですよね、Sランク冒険者の師匠ですからね、まったく貴方と言う方は」

「そうですか、それは残念です。ではまた別の遺跡を探すしかないですね」

「お役に立てなくて残念です。『カリウスの剣』の皆さん」

「いいえ、こちらこそ面倒をおかけしました」

「とんでもありません、我々にとっては皆さんをこの町に迎えられた事は名誉でもありますから」


「所でお前ら今晩時間はあるか。飯でもどうだ」

「いいですね。でもその前に一つお願いがあります」

「何だ願いって。おいおい、まさか」


「そうです。そのまさかです。そこの我らが妹弟子、どれ程出来るのか是非見てみたいと思います」

「やっぱりな、そう言うだろうと思ったよ。お前らほんと脳筋だな」


「お師匠様、脳筋って何ですか」

「いや、お前と模擬戦をしたいらしい」

「えっ、ええっ、超Aランク冒険者の皆さんですよ、そんなの無理無理ですよ」

「それは興味がありますね。私も是非拝見したいものです」


 と言う事でピョンコと『カリウスの剣』との模擬戦が決まってしまった。


 ギルドマスターは地下にある練習場をどうぞと言ったが、ゼロがそれではこの建物が壊れてしまうと言って防壁の外の空き地でと言う事になった。一体どれ程の戦いを予想しているのやら。


 そこにはゼロとギルドマスター、それに「カリウスの剣」達とピョンコ。そしてこの噂を聞きつけた冒険者達が集まった。そこには当然「コブラの牙」達もいた。


 知らない内に物凄い見物人になっていた。それはそうだろう今や伝説となってる「カリウスの剣」達の実力が見れるんだ。


 これを見逃す手はないと冒険者が集まり中では既に賭けが始まっていた。


 まぁ殆どは「カリウスの剣」が勝つ方に賭けていたが、ピョンコも一応は「無冠の超Aランク冒険者」のパートナーだ。


 それなりには期待はされていた。しかし実力では断然「カリウスの剣」だろうと思われていた。


 防壁の西の空き地に立つ二組。片方はピョンコだが「カリウスの剣」の方は誰が出るかでちょっと揉めていた。


 最初はカリヤスがやると言ったがお前はリーダーなんだから俺達に任せろと押し留められてしまった。


 しかし本当にやりたかったのはやはりカリヤスだった。やはりこの男は脳筋なのか。


 ピョンコの装備から無手の戦法を使う者だと判断した「カリウスの剣」のメンバーは戦略を考えてみた。


 無難な方法としては遠距離からのソーシアの魔方攻撃かクローネルの魔弓だろう。しかしそれでは相手の力量を計れない。


 近距離戦と言う事になればやはりカリヤスかソイテルだ。そしてピョンコに最も近い戦闘スタイルを持つ者となればソイテルと言う事になる。


 それで決定だった。ピョンコの相手は二双剣のソイテルがやる事になった。


「おい、ソイテル、クリフトさんみたいに手を抜いて不覚を取るんじゃないぞ」

「冗談は止めてくれよ、見てわかるだろう。あれがそんな生易しい相手ではないって事くらい」


「全くだ。ゼロさんもなんて弟子を育ててくれるんだか。でも俺達は兄弟子だからな、負ける訳にはいかないよな」

「そう言う事だ」


 一方ピョンコはどうしてこう言う事になったのか、またどうしたらいいのか途方に暮れていた。


「あのーお師匠様、私はどうしたら」

「気にするな思いっきりやれ。相手はお前の兄弟子だ。少々の事では死にはせん」

「そ、そうですか。では思いっきりやらせていただきます」

「そうだ、頑張れ」


 双方が相対し、ソイテルは始めから本気で行く事にした。手を抜いて勝てる相手ではないとわかっていた。


 ピョンコも相手を見た瞬間に簡単に勝たしてもらえる相手ではないと理解した。


 同時に双方から途方もない魔力の放出が起こった。その流れは大気を震わせ大きな二つの気流を作り出した。足元から巻き上がる空気の流れは竜巻に変化した。


 この強風の前に見物人たる冒険者達もまともに立っている事が出来ずにいた。


 ギルドマスターは辛うじて立っていたが動く事は出来なかった。この中で平然としていたのはゼロと「カリウスの剣」のメンバーだけだった。


「おい、クレマン、何なんだよこれは。これって人の領域の戦いなのか。ピョンコ先輩は人じゃないけどさ」

「ああ、これはもうバケモノ同士だな」


 ソイテルの双剣が空気を斬り割いてピョンコに襲い掛かればピョンコは両腕に硬気功を纏い全ての攻撃を防いでいた。


 そしてピョンコから放たれる拳脚の打撃は地を穿ちクレーターを作っていた。


 その振動は遠くまで響き渡り森からは鳥たちが飛び立っていた。ソイテルはそんな中でも足元のバランス一つ崩すことなく縦横無尽に双剣の舞を演じていた。


 ピョンコもまた地場ジャンプの空中戦法で対応し空に地に二人の戦いは繰り広げられた。


 もはや二人の動きを追える者はゼロ達しかいなかった。


「参ったな、ここまで出来るとは思わなかったぞ」

「そうよね、これってもうあたし達と同じレベルじゃないの。もしかしたら」

「それ以上は言うなソーシア」


「そうよソーシアさん。ソイテルさんが負けるはずないじゃないですか」

「そうですよ。ソイテルさんは僕の弓でも倒せないんですから」

「でも大丈夫よ、どっちが怪我をしても私の治癒魔法で治してあげるから、あははは」

「そう言う問題か」


 ともかく二人の戦いは規格外の戦いだった。これが超Aランク同士の戦いなのかと誰もが度肝を抜かれた。


 熱気を帯びた二人はお互いの最終奥義を出そうと双方の魔気を飛ばした。


その時二人の間に一本に剣が突き刺さりそれらの魔気を弾き飛ばした。二人は飛び退り間合いを取った。


「そこまでだ。これ以上やると本当にこの町が潰れるぞ」

「せっかく良いとこまで来たのにゼロさん。それはないでしょう」

「馬鹿かお前は。周りをよく見てみろ。半分死んでるぞ」


 確かに周りの見物人達は一端の冒険者であるにも関わらず半分意識が飛びかけていた。


 これ以上戦いが続いたら今度は体が半分弾け飛んでしまっただろう。それ程の戦いだった。


 戦いが終わった瞬間、今まで辛うじて立っていたギルドマスターも尻もちをつき息も絶え絶えになっていた。もう二度とこんな戦いには立ち合いたくはないと思った事だろう。


 後にこの戦いは伝説の「人獣冒険者魔戦」とまで言われるようになった。


「それにしてもゼロさん、凄い弟子を育てたものですね。まるでミレ先輩を見てる様でした」

「そうよね、あの当時、歳だって似たようなものだったしさ」

「確かにそうですね」


「お師匠様、ミレ先輩って誰なんですか」

「ピョンコちゃん、ミレ先輩って言うのはね、俺達の先輩でゼロさんの最初の弟子だよ。あの時歳も君と同じくらいじゃなかったかな。でも滅茶苦茶強かった。俺達じゃ手も足も出なかったよ」

「そんな凄い人がいたんですか。是非お会いしたいです」

「そうだな、いつか会えるかも知れんな。それじゃーみんな行くぞ」

「はい!」

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