地上最強の傭兵・異世界編
薔薇クルダ
第二部 第一章
第1話 異世界転移
この小説は「地上最強の傭兵・鳴門正人」の第二部・異世界編となります。
前回作に興味のある方は「地上最強の傭兵・鳴門正人」をお読みください。
鳴海はいつもの魂の霊安室で瞑想に入った。意識と気力の全てを投入して次元の壁に穴を開ける為に。
これはもはや人に可能な事ではなかった。鳴海の様な人外の者にして初めて出来る事だ。
それでも壁は厚く立ちふさがった。意識が壁を通過しても魂が弾かれる。思念のみが通過可能と言う事か。
魂は決して物質ではないかそれでも霊体であり存在するものだ。その状態ではまだ抵抗がある様だ。ではどうすればいい。
方法は二つ、次元と同化するか次元を突破するかだろう。突破するしてどれほどのエネルギーが必要か。
それは鳴海にも分からなかった。しかしそんじょそこらのエネルギーではどうにもならないだろう事は想像出来た。
下手したら国一つ、いやこの世界一つを破壊する程のエネルギーが必要かもしれない。
遥かな宇宙に飛び出す以上のエネルギーが必要なはずだ。次元を超えるとはそれ程の事だろう。
鳴海はこの案は最後の手段として、先ずは次元の壁に同化して侵入する方法を試みてみた。
先ずは次元結界を開く。ここまでは出来るようになっていた。
後は意識も魂も薄く伸ばして次元の隙間に入り込んで行く。ただし向こうで復元した時にエネルギーが伴わなければ死人と同じだ。
だから鳴海は自ら持つエネルギーを思念の亜空間の中に封印した。そして意識体として次元界への侵入を試みた。
その時だ。急に途方もないエネルギーの奔流に飲み込まれてしまった。
この奔流の中で自己が分散し崩壊しない様に思念バリアーで自らを守った。つまり外部からの干渉を一切絶った途端に意識が遠のいた。
『ん?ここは何処だ。ここは俺がさっきまでいた場所ではないようだ。ここは野外、森か。周りの風景も空気も違う。いや、空気の組成自体が違うのか。と言う事はここは地球ですらないと言う事か』
『面白い、どうやら俺は地球ではない場所に来たらしい。ここは別の世界、別の次元なのか。しかも俺自身は俺のままか。なら転生ではなく転移と言う事か。何処かで空間に歪みが出来、この世界と交差したと言う事か。ならあの時か。それもまたいいかも知れないな。直ぐに帰る方法は見つからないだろう。なら少しこの世界を楽しんでみるか』
この男、普通なら気が動転し狂乱しそうなこの状況で、冷静に自分を見つめまるで達観しているようだ。この男は一体何者なのか。
男の名前は鳴海正人(なるみまさと)と言う。戦争の世界では「戦場の死神」と呼ばれて恐れられた地上最強の傭兵だ。
その男が現代日本から今この世界に舞い降りて来た。本人が望んだ事ではあるが、果たしてこの世界でも地上最強の傭兵は最強でいられるのか。
その男はその場に腰を下ろし瞑想に入り本来の封印していた力を取り戻した。その途端周りの空気が揺らいで陽炎が立ち上った。
『俺の力はまだ健在と言う事か。それならそれなりにこの世界でも楽しめそうだ。ふふふふ、あはははは』
この男の言う力とは何なのか。傭兵の時に培った力か。それとも殺人術の事を言っているのか。
しかし今の彼は武器を何一つ携帯していない。いくら最強の傭兵であろうとも何一つ状況のわからない異世界で武器がなくては心持とないだろう。しかし彼はそれすら気にした様子がなかった。
『さてでは何処に行くか。向こうの方に人の気配がするが大分遠いな。そこに行くには目の前の森を突き抜けるのが最短コースか。なんか有象無象がいるようだがまぁ、いいか』
男は森に向かって歩き出した。この森は「返らずの森」と呼ばれた魔境の一つだ。
強力な魔物が多く存在し、相当腕に自信のある者以外は決して近づこうとはしない所だ。
男は森に入ってしばらくして周囲の草花を観察し、何種類かの雑草を拾い集めた。この世界の雑草の種類がわかるのだろうか。
『これは毒か。こっちは食べられそうだな』
そう言って男は茸や野生の果実を手に取っては試食を始めた。どうしてこの世界の茸や果物の毒の有無がわかるのか。
形は前の世界の物と似ている。だから推測でそれを理解しているのだろうか。それにしても何一つ間違いもなく無害なものを口に入れていた。
そして採取した雑草を並べ一つ一つ効能をチェックしていた。
『これは熱さましに効くのか、こっちは疲労回復にこれが治癒と言う訳か。俺達の世界ではないものだ。面白い、こっちの世界ではこう言うもので医療の代わりをしているのかな?』
その時周りの木々が騒がしくなり魔獣が姿を現した。この魔獣はファー・ウルフと言う。強力な牙と爪を持つ魔獣だ。しかも集団で狩りをし人間を襲う。
毛皮は良質な衣服と調度品になり、牙や爪は武器の材料になるが単独では討伐の難しい魔獣だ。
しかも集団となるとC級以上のパーティが2・3組でやっと討伐出来ると言う代物だった。そのファ-・ウルフが10匹、この男を取り囲んでいた。
『やっとお出ましか。これがこの世界の野生の狼か。しかし俺の知ってる世界の狼よりは強そうだな。まぁいい。一つ小手調べと行くか』
男は立ち上がり狼達と対峙した。それを合図に先頭の2頭がその男めがけて突っ込んできた。
飛び上がり爪で顔面を切り刻む積りなのだろう。もう一匹は足に咬みつこうと姿勢を低くした。かなり集団での狩りに慣れているようだ。
しかし瞬時にその2頭は葬られた。何をされたかもわからないままに。
飛び上がった狼には蹴り上げられた足で胸の骨を砕かれ、その足をそのまま下ろして足を狙ってきた狼の頭を砕いた。
正に一瞬の動きだった。上下の時間差が殆どわからない。正に神業だ。
そして今度は男の方が狼達の集団に殴り込みをかけて行った。蹴りとパンチでその殆どを殲滅した。残ったのはその群れを束ねていたボス狼が一匹だけになった。
「さてお前が最後だ。どうする掛って来るか。と言っても言葉はわからないか。なら仕方ない片付けるか」
正面から見据えられたボス狼は身動きすら出来ずに震えていた。これ程の強敵にあった事がないと言うように。
しかし曲がりにも群れを束ねるボスだ。ここで引く訳にも行かず渾身の力を込めて正面から襲い掛かった。
その鼻っ柱に男の拳が炸裂した。いや、したように見えたが実際には当たってはいない。鼻先一寸で止まっている。
しかしそれでもその拳から放たれた衝撃波がボス狼の体を粉砕した。
『「発勁」はまだ健在と言う所か。さて腹ごしらえでもするか』
これがこの男の力と言う事なのだろうか。そして男は狼を解体して火を起こし狼の丸焼きを作っていた。
この男、どうして火をおこしたのか。ライターでも持っていたのだろうか。
しかし流石は元傭兵だ。非戦場地域でも最低限の武器は持っていたようだ。しかしどうして飛行機の中に持ち込めたのだろうか。
小さなナイフで倒した狼達を解体して毛皮と肉と牙や爪とに分けていた。きっと何かの役に立つと思ったのだろう。それは正しい選択だった。
その後もウサギやネズミの魔獣に出会ったがこの男の敵ではなった。
そして男は少し方向を変えて森の中心から離れる様に西に向かった。その方向に人間の意識を捉えたからだ。
『この先に人間がいる。3人か。しかし変だな意識に乱れがある。これは恐怖か。何かに襲われているのか』
それは男が二人に女が一人。この世界で言う所の冒険者のパ-ティだった。
彼らはバフラビットの討伐依頼を受けてこの森に入ったが、運悪くゴブリン達に遭遇してしまった。
彼ら3人はEランクの冒険者だった。3人でならバフラビットの2・3匹は狩れただろうが20匹にも及ぶゴブリンでは勝負にすらならなかった。
こん棒で叩かれ、傷ついて追いかけられて体力も限界に達していた。一気に殺さずにこの様に追い立てたのはゴブリン達の計画だろう。
更に恐怖を煽ってから殺す腹だ。勿論女は殺さずにゴブリン達の慰めものにされやがては種族の苗底にされる事が決まっていた。
追い詰められた3人はもはや動く事さえ出来ず震えていた。特に女は自分の未来を想像し、二人に殺して欲しいと嘆願した。
その願いも叶わず一人の男の前に立ちはだかったゴブリンが、大ぶりのこん棒でその男の頭を勝ち割ろうとしたその時、何処からともなく飛来した石が逆にそのゴブリンの頭を粉砕した。
異世界から来たその男は手に3・4個の小石を持ち悠然と森から出て来た。そして言った。「よう、大丈夫か」と。
ゴブリン達がその男に目を向けた時には更に4匹のゴブリンの頭が男の石で粉砕されて死んだ。20匹の内5匹、実に1/4のが瞬時にして殺された事になる。
ゴブリン達は死にかけの3人よりも突然現れた新しい男に恐怖と怒りを持って殺意を向けた。
「お前達がゴブリンと呼ばれる魔物なのか?成程な。ノベルに出てくる容姿そのままだな。で強いのかお前らは。言葉はわからないのか。なら仕方ないか」
こん棒で殴りかかって来たゴブリンのこん棒を取り上げてそのこん棒でゴブリンの頭部を粉砕した。
これもまた一瞬の出来事で、ゴブリン自身いつ自分のこん棒を奪われたのかすらわかってはいなかっただろう。
後はもう戦いにもならなかった。単なる掃討戦でしかなかった。15匹のゴブリンを倒すのに30秒も要しなかっただろう。
「あっ、ありがとうございました。助かりました。貴方は命の恩人です。俺はこのパーティ「カリウスの剣」のリーダーをやってるカリヤスと言います。向こうにいるのがソイテルで隣にいるのがソーシアです」
「そうか、まぁ気にするな。この世界では命のやり取りは普通なんだろう」
「えっ、いえ、そう言う訳ではないですが危険である事は確かですね」
「でお前達はこれからどうするのだ。町へ帰るのか」
「はい、そうしようと思います。ただ依頼が達成出来なったのでどうしようかと」
その男が依頼とは何だと聞くとカリヤスがバフラビットの討伐に来ていたと答えた。
「バフラビット?ああ、あのウサギの事か。で何匹討伐しないといけないだ」
「一応3匹が対象になってます」
「3匹か、確かあったな。待ってろ。向こうに置いてある」
そう言ってその男は来た道に戻って森の奥から3匹のバフラビットの死骸を持って来た。そしてその男は特に必要と言う訳ではないので持って行けと言った。
「でもいいんですか」
「ああ、構わんよ。ただ一つ頼みがある。お前達が来たと言う町に連れて行ってはくれないか」
「それは構いませんが貴方は一体何処から来られたんですか」
「遠い田舎からだ。だからあまりこの辺りの事はよくわからないんだ」
まさか異世界から来たとは言えないので適当に胡麻化しておいた。
「わかりました。それなら俺達の町、ソリエンに案内します」
「そうか悪いな。じゃー頼む」
「ところで貴方のお名前は?」
「俺か、そうだな、俺はゼロだ」
「ゼロさんですか。変わった名前ですね」
「ゼロ」全てをやり直そうとした鳴海正人の気持ちにあやかったんだろうか。
こうして異世界から来た地上最強の傭兵は初めて人の世界に足を踏み入れる事になった。
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