第2話 始まりの町、ソリエン
異世界から来たゼロに助けられた3人は同じ村の出身だった。
彼らの村は貧しかった。だから何とか金を稼ごうと彼ら3人は村を出た。町に出て冒険者として成功したいと考えていた。
これと言って取り柄のない3人だったが少なくとも村では自力で自分達をそして村を魔物から守らなければならなかった。
だから多少なりとも魔物の討伐の経験もあったのでそれを生かして何とか一人前の冒険者になりたいと思っていた。
リーダーのカリヤスは多少剣が使えたので剣士として登録した。父親が元冒険者だったらしい。
ソイテルはすばしっこく魔物の後を見つけるのが上手いのでシーフとして登録した。
紅一点のソーシアは生まれつき魔力に恵まれ多少の魔法が使えたので魔法使いとして登録し、3人でパーティを組み、「カリウスの剣」と言うパーティ名にした。
しかし現実は厳しいものだった。あれから3年経ったが彼らのランクは未だにEランクのままだった。
冒険者はFランクから始まり、E,D,C.B.Aランク、そして最高位のSランクまである。
Eランクと言うと辛うじて最低限の魔物と戦える程度の強さでしかない。
3人でEランクの魔物と言われるバフラビットを2・3匹討伐するのがやっとと言うレベルだ。ましてゴブリンなど1匹でも手こずると言うのに20匹に襲われては死なずに済む保障はない。完全な死が待つだけだった。
それを今回は偶然出くわしたゼロに助けられた。彼らにしてみればゼロは正に命の恩人だった。しかも自分達では手に入れる事が出来なかったバフラビットを3匹も譲ってくれた。
これがなければ今回の討伐依頼は失敗と言う事になる。そうなると違約金を取られる可能性もある。今の彼らに取ってその出費は痛い。
だから何が何でも今回の討伐は成功させたかったが運が悪かったとしか言いようがない。あそこでゴブリンに出会うとは。
しかしまた逆に幸運でもあったと言う事だ。九死に一生を得たのだから。
「ゼロさん、あそこに見える防壁の向こうがソリエンと言う町です」
「大きな町なのか?」
「それほど大きくはないです。人口は3万人と言った所でしょうか。でも王都から離れた都市としては中堅と言った所です」
『中堅か。なるほど出発点としてはいいかも知れないな』
ゼロに取ってはこの世界で初めての人の住む町と言う事になる。最初から余計な災い事は避けたいと考ていた。
「ところでゼロさんは冒険者なのですか」
「冒険者?いや、そうではない。これから冒険者になろうかと思ってる所だ」
「そうですか、でもゼロさんなら楽勝ですよ。そんなに強いんですから」
「冒険者になるにはどうすればいいんだ?」
「簡単です。冒険者ギルドで登録すればそれで済みます。俺達も報告がありますので一緒に行きましょう」
「そうか、では頼む」
門番の衛兵には遠い所の村から来た旅人と言う事でカリヤスが少し金を握らせて中に入れてもらった。
こうしてゼロは出会った3人の冒険者達と共に冒険者ギルドに向かった。
町の中心部の手前にある大きな建物が冒険者ギルドだ。中は少し閑散としていた。
この時間はまだ討伐等の報告に来るには少し時間が早いのだとカリヤスが言った。
中は正面に受付のカウンターがあり右横の壁には色々な依頼書が張り付けてあった。
中央の左側はバーカウンターとテーブル席があり飲食が出来る様になっている。殆どの冒険者はここで酒を飲んでるとカリヤスが言っていた。
カリヤス達は報告カウンターに向かいゼロは登録受付のカウンターに行った。
「いらっしゃいませ、どの様なご用件でしょうか」
とカウンター嬢は丁寧な応対をして来た。
「冒険者登録をしたいのだがここで良いのだろうか」
「はい、こちらで受け付けをいたします。ここに必要な事項をお書きください」
登録用紙をもらったがゼロにはその文字が読めなかった。そうかここは異世界だったなとゼロは思ったがどうしたらいいかと考えていると、
「良ければこちらで代筆いたしますが」
「そうしてもらえれば助かる」
「わかりました。ではお名前と出身地と職業をお教えください」
『出身地と職業か』どうしようかとゼロは思ったがこの世界に来た時に周囲をセンシングした時に見つけた遠くの村の名前を思い出した。
取りあえずはその村の住人と言う事にして、職業はいきなり「傭兵」では怪しまれるかもしれないので「薬師」と言う事にしておいた。
恐らくこの世界での文盲率は高いのだろう。だから代筆でもいいと言う事なんだろうとゼロは思った。
『ここで生活するのなら早く文字を覚えなくてはいけないな』
「それではこの水晶の上に手を置いてください」
「これは?」
「犯罪歴の有無と魔力量を測らせていただきます」
『犯罪歴か。この世界ではまだ犯罪を犯してないし向こうの世界の犯罪歴は正式なものは記録されてないので構わないだろう。それと魔力量だと。それは何だ』
「魔力量と言うのは?」
「冒険者は危険と隣り合わせの職業ですのである程度の魔力がないと危険ですのでその魔力量を測らせていただきます」
「魔力量ね、何だかよくわからんがじゃーともかく調べてくれ」
「わかりました。・・・あれっ、まさか、でもこんな事って」
「どうかしたのか」
「それが、貴方には魔力がないのです。こんな事は初めてです」
「魔力がない。それはなくてはいけないものなのか」
「当たり前です。魔力がないと言う事は死人も同じです」
『そうかこの世界の人間は基本的に誰もが魔力と言う物を体内に保有して生活しているのか。その大小で強さも変わって来ると言う事か。では何故俺には魔力がない。
この世界に転移した時に俺の力はこの世界の魔力に変換されなかったと言う事か。いや待て、俺の力の源は気力だ。
この力が魔力への変換を遮ったとしたら俺の体には魔力が存在しない事になっても不思議ではないかもしれないな』
「俺は死人ではない。魔力がなくてもちゃんとこうして生きているし戦う事も出来るが」
「そうなのかも知れませんが冒険者としては危険過ぎて認可する事は出来ません」
「それは困った。何か他に方法はないのか」
「そんな事はありません。ゼロさんは本当に強いのです。ここに来る前にも一人でゴブリンを20匹倒したのですから」
そう言って援助を出したのは討伐報告を終えてやって来たカリヤスだった。
「ゴブリンを一人で20匹ですって。そんな」
「おい、坊主。それはいくらなんでもふかし過ぎだろう」
その話を聞いていた酒場にいた冒険者が言った。
「でも本当なんです。俺達はそれで助けられたんですから」
「しかしそう言われましてもね。証拠はお持ちですか」
「ゴブリンの遺体か何かか。いや、ない。向こうで捨てて来た」
「それでは証明になりませんね」
「よう、どうかしたのか」
そう言って近づいて来たのはこの町の上級冒険者、Bランクのクリフトと言う男だった。事情を聞いたクリフトは少し考えていたが、
「どうだ、それなら俺と模擬戦をやってみないか。それで納出来る結果が出せたら合格と言う事でどうだ」
「そうですね、クリフトさんなら試験官としての資格もお持ちですからそれで良ければ私達も納得出来ます」
と言う事でゼロは冒険者ギルドの地下にある練習場で模擬戦をする事になった。ゼロの相手はBランク冒険者のクリフトだ。
Bランクと言ってももっともAランクに近いと言われているクリフトだ。腕は確かだった。
「武器はそこにある木製の武器のどれでも好きなのを選んでくれ」
剣から槍、その他色々な形状の木製の武器が置かれていた。クリフトは両手剣を手にしていた。
「じゃー俺はこれで」
「これでってお前、何も手に持ってねーじゃねーか」
「だからこれで戦うと言っている」
「ふん、度胸だけはあるようだが後悔するなよ。俺は相手が無手でも容赦はしねーぜ」
「それで結構だ」
「では始めてください」
受付嬢の開始の合図で戦いが始まった。カリヤス達のパーティもまた酒場にいた冒険者達も興味本位で見に来ていた。
「おい、どれ位持つと思う、あの若いの」
「そうだな。10秒と言った所か」
「じゃー俺は20秒で負けだ。賭けようぜ」
「いいだろう」
練習場のあちこちで賭けが始まっていたが誰もゼロの勝利に賭ける者はいなかった。当然だろう。
流石はキャリア冒険者だ。ゆったりとした感じで剣を構えているがそこに隙は微塵もなかった。
近づけば切ると言う気迫さえ漂っていた。普通の冒険者なら戦うどころか近づく事さえ出来なかっただろう。
クリフトにしても新人相手にここまでする気はなかったが、練習場に入って相手と対峙してその気が変わった。マジでやらないとこいつはやばいかも知れないと。
ゼロは試合開始の合図の後、相手の技量を見計らってからまるで散歩をするように相手に向かって歩いて行った。
クリフトはゼロが一歩近づく毎に威圧を受けていた。今までこれ程の威圧を受けた事は一度もなかった。例え相手がAランクの魔物だったとしても。
『いいだろう。久々に本気でやれそうだ』
クリフトの雰囲気もまた変わった。そしてクリフトは体の周りに魔力を纏い始めた。
これこそがクリフトの本気の戦いの証だった。その状態を見てゼロは何故か微笑んだ。
『いい戦気だ』
戦いは唐突に始まった。ゼロが間合いの半ばまで来た時にそこからまるで映像がぶれた様にゼロの姿が見えなくなった。
次の瞬間にはゼロはクリフトの目の前にいて右足を内から外に円を描くように回転させクリフトの剣を握る手首を蹴って態勢を崩しその、右足が地に着くと同時に空中に飛び上がって左の廻し蹴りをクリフトの右側頭部に放ってきた。
このままでは頭を蹴られると思ったクリフトは自らの頭をゼロの蹴り足に向けて押し出して行った。
剣を振り戻す時間がないと悟ったクリフトは蹴りのインパクトの瞬間をずらしたのだ。
しかしゼロの蹴り足がクリフトの頭に触れたと思われた瞬間逆サイトの左から強烈な衝撃がクリフトの左側頭部を襲った。
その衝撃を受けてクリフトは右の壁まで吹き飛ばされたが、蹴りが当たる瞬間に腕でカバーして辛うじて衝撃のいくらは逃がしていた。しかし流石に立ち上がる事は出来なかった。
『飛燕双連脚、綺麗に極まったな。しかしどんな訓練をしたかは知らないがあの状況で二度も俺の蹴りを回避する行動を取れるとは大したものだ』
「勝負それまで。ゼロさんの勝ち」
受付嬢の宣言で勝敗は決したがそれを見ていた皆は信じられないと言う顔をしていた。カリヤスのパーティを除いて。
「いやー参ったぜあんちゃん、あんたバケモンだな」
「あんたこそ大したもんだよ」
「勝った相手にそれを言われてもな。ははは。よしEランク認定だ。いいよな」
「はい、クリフトさんがそう仰るのなら問題はありません」
新人に負けたと言うのにクリフトはさほど落ち込んではいなかった。それはクリフトがゼロの実力を見抜いたからだ。
そしてクリフトもまた自分の奥の手はまだ出してないと言う自負があるからだろう。このクリフトもまた底の知れない人物だった。
こうしてゼロは初めての町で冒険者として生きて行く事になった。
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