第4話 盗賊団の逮捕
ゼロはソリエンの町を離れて一路北へ向かっていた。北にはアテリアと言う町がある。町の規模はソリエンと似たようなものだ。ただ人口はソリエンよりも倍近くある。しかも冒険者の活動がすごく活発だと言う話だった。
何故ならその町の近くには迷宮があるからだ。町は迷宮から出てくる素材と冒険者で賑わっている。そんな町だ。ゼロは取りあえずそこに寄ってみようと考えていた。
このまま旅を続けるにしても路銀は必要になる。今はまだソリエンで蓄えた金があるがいつまでも持つものではない。何処かで資金調達は必要だろう。だからそのアテリアで少し滞在して金を稼ごうと考えていた。迷宮に潜ればきっと金目の物が手に入るだろうと。
この時代の道路の整備状態は悪い。アスファルトなど勿論ない。砂利道だ。ただし馬車が走れる程度には整備されている。それが唯一の一般の交通機関だからだ。後は馬に乗るか歩くしかない。
空を飛ぶ魔物を調教して空路を行くと言う方法もあるが、それは国や領地を守る騎士団にしか許されてはいない。一般の者は通常歩いて移動する。当然時間もかかるし安全性の問題もある。
こう言う街道では魔物に襲われる危険性よりもむしろ人災たる盗賊に襲われる事の方が多いようだ。まぁ起こる回数は少ないので襲われる事があればそれは宝くじに当たるようなものだ。運が悪いとしか言いようがない。
ゼロが歩き出して5時間ほど経った頃だろうか、お昼に何処かで休憩しようと空地を探していた時の事だ。少し向こうに馬車が休憩出来る空地があった。そこには二台の馬車と数匹の馬が繋がれていた。馬車はきっともっと南から来てこの街道と合流したんだろう。
何処かの商人が護衛でも連れて通商の旅でもしてるのだろうとゼロは思った。その時だ、急に複数人がその馬車を取り囲んだ。取り囲んだ男達はみな鼻から下を布で覆っていた。きっとあれが盗賊団と言うやつなんだろうとゼロは思った。
『さてどうしたものか。助けに入るかそれともこのまま見捨てるか。特に俺に関係する事でもないしただ働きはしたくないからな。まぁ護衛もいる事だし大丈夫だろう』
ゼロは無視する事にし、そのまま歩いて同じ空地の端の方でその活劇を見ながら弁当を食べだした。これは町を出る時に宿屋で作ってもらった弁当だ。結構ゼロはここの弁当を気に入っていた。
『護衛が5人。盗賊団は前に10人。更に後ろに14人か。逃げられないよう特に後ろを固めたと言う事か。用意周到だな。この人数で馬車を守りながら戦うのは少し骨が折れそうだな。馬車の一つはどうせ荷馬車だろうからそれは無視するとしても、馬車の中の人間を守りながら戦うには2人が護衛に、後3人で撃退か。護衛の腕次第と言う所だな』
3人の内一人はリーダーだろう。彼ともう一人が先頭集団と戦闘を開始した。残りの一人は護衛の2人と連携を取りながら後ろの敵をけん制していた。
『中々連携の取れた良い護衛団だ。これもみなあのリーダーの指示か。陣形は良いんだが技量が少し問題だな。リーダーはそこそこ出来るが後の団員ではこの維持は難しいだろう。それにあの盗賊団のボスはまずいだろう』
ゼロが指摘したのは先頭集団の中央にいるボスと思しき人物だ。野戦用の軽いアーマーに腰に細身の剣を下げていた。かなり出来そうだなとゼロは思った。
護衛団のリーダーもこの男がこの盗賊団のボスだと見抜いて頭を倒そうと切りかかってはいるが周囲の邪魔によって近づけずにいた。そうこうしていると先頭のもう一人の護衛が切られてしまった。まだ死んではいないがかなりの出血だ。このままでは危ない。
後ろも多勢に無勢で押されていた。3人ともかなりの切り傷を負っている。こっちもこのままでは危ないだろう。
『どうしたものかな。援助依頼でもあれば助けてやらんでもないんだが、それがないのなら何も余計な事はする必要はないか』
何ともあっけらかんとしたものだ。人が襲われていると言うのにこの男に正義感と言うものはないのだろうか。
この時先頭のリーダーが手傷を負った。まだ戦えそうだがここであのボスが出てくれば最悪の状態になるだろう。リーダーは馬車の所まで押し返され馬車の扉を守るように仁王立ちになって中の人間を守ろうとしていた。責任感のあるリーダーのようだ。
「おーい、助けはいるか。今ならお安くしとくけどな」
「何だお前は。そこで何をしてやがる」
「何をって昼飯を食ってるだけだ。お前ら盗賊団だろう」
「何だとてめぇ死にてーのか」
「別に死にたくはないが金儲けはしたいと思ってる」
「何を訳のわからねー事を言ってやがる。死ね」
一人の盗賊がゼロ目掛けて切りかかって来た。ゼロは一瞬に立ち上がり体を開いて切っ先をかわし、相手の手首を捕って後ろ手に極め、そのまま戦闘の中心に向かって歩いて行った。後ろ手に極められた男はあまりの痛さに声も出ず冷や汗を流していた。
「でどうなんだ。金を払ってくれるなら助けてやらん事もないが」
リーダーもまた血と冷や汗を流しながら
「俺では判断が出来かねる。依頼主に聞かないとな」
「じゃー馬車の中の依頼主に聞いてくれ」
「ジャブロンさん。どうします」
「何処の何方かは存じませんが助勢をお願いします。報酬は警護の5倍出しましょう」
「結構。これで商談は成立だ」
言うが早いかゼロは捕縛した窃盗を倒して姿はその場から消えていた。そして盗賊団のボスの前に群がる5人の男達は突きと蹴りとで瞬時に吹き飛ばされていた。恐らく全身打撲、いや全身骨折に内臓破裂だろう。どっちにしても生きて立ち上がる事はないだろう。
その時後ろの護衛の一人が盗賊に切り殺されそうになっていた。その時ゼロは右手の中指を弾いて何かを飛ばした。それは盗賊の右目に命中し右目を潰して男を後ろに5メートルほど吹き飛ばした。それを見た盗賊達も護衛達ですら固まって動けなくなってしまった。
「よう、あんたがこいつらのボスなんだろう。どうだい一対一で大将対決といかないか。嫌ならいいんだがそれなら皆殺しだ」
「いいだろう相手になってやる。調子に乗ってるんじゃねーぞ、小僧」
「小僧と言われる程の年でもないんだが、まぁいいだろう」
ゼロと盗賊のボスは対峙した。盗賊のボスは直ぐには剣を抜かず鞘に納めたままで剣気を飛ばしていた。
「ほー、珍しいな。こんな所でそんなものを見れるとは。その技何処で覚えた」
「我が一門の秘伝だ。見たが最後生きている事は叶わんぞ」
「そうかい、それは楽しみだな」
双方じりっじりっと間合いを詰め、遂に相手の剣の間合いに入った。相手が腰を落とし今まさに居合を放とうとした時、ゼロは一瞬で踏み込んで右足で刀の柄の先端を蹴り止めた。
その為相手は刀が抜けず居合は不発に終わった。そのままゼロは柄を足場に飛び上がり相手の顎に左足による二連蹴りを放った。このため盗賊のボスの顎は砕かれてしまった。しかし死んではいない。
ボスが倒されて唖然としていた残りの4人は息つく暇もなく全員が蹴り倒されていた。そしてとんぼ返りで折り返してきたゼロは後方部隊に対して
「よう、まだやるか。それなら全員死ぬ覚悟をするんだな」
そう言われた盗賊達は全員降参した。盗賊達は全員縛られて自分達が乗って来た馬と馬車に乗せられ次の町で衛兵に引き渡される事になった。
「この度は本当にありがとうございました。命拾いいたしました。私はコーネリア商店を営むシャブロンと申します。貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「俺か俺はゼロと言う冒険者だ。別にそんなに大げさに感謝しなくてもいいさ。これは契約が成立しただけだからな」
「とんでもございません。命ばかりか大切な商品も守られた訳ですからいくら感謝しても感謝したりません」
「なに、俺としては金がもらえればそれでいいんだ」
「勿論でございます。店に着き次第代金はご用意させていただきますが私どもの店はこの先の町にございます。お手数ですがそちらまでご一緒いただけないでしょうか」
「どっちみち同じ方向だから一緒に行くよ。ついでに護衛もしてやるよ」
そう言ってゼロはこの護衛に加担する事になった。これで少しは日銭が入るかなとゼロは考えていた。
「それは助かります。貴方様に護衛していただけるならまさに鬼に金棒です」
「いや、俺もそうだけど、あの護衛の者達も結構良い働きをしたと思うぞ」
「それは重々承知しております。私が信頼する冒険者の皆さんですから」
「そうかい。それならいいんだ」
馬車の一団が次の町に向かい、休憩の時に護衛のリーダーであるクエンズがゼロの所にやって来て、
「なぁ教えてくれないか。俺の仲間が後方で殺されかけた時、あんたは何かを飛ばして相手の目を射抜いて吹っ飛ばしたよな。あれはいったい何だったんだ」
「あれか、あれは指弾と言う技だ。小石などを指で弾いて飛ばすんだ」
「指と小石であんな事が出来るのか。それは凄いな」
確かに指弾と言う技はあるがゼロが使ったのはそんな技ではなかった。確かに指弾ではあるがゼロが飛ばしたのは小石ではなくゼロ自身が作った気の塊だった。もしこれに名前を付けるとするなら「指気弾」とでも呼べばいいか。
護衛の一人は危篤状態にあったがポーションのお蔭で命拾いをして今は回復に向かっている。ただ血を少し流し過ぎたのでしばらくは静養が必要だろう。
その他の仲間とリーダーの傷はこれもまたポーションでもう完全に回復している。流石は大手の商店だ。ポーションの類は沢山持っているようだ。
ゼロ達は予定通り次の町、アテリアに入った。門番の検査はほとんどシャブロンの顔パスで素通り出来た。やはりこの町では彼の顔は利くようだ。
シャブロンの店で護衛の報酬として金貨25枚を受け取った。これは護衛5人の5倍の金額になる。確かに高額ではあるが命と商品物全てを奪われたと思えば安いものだ。
それとあの盗賊はお尋ね者だったのでこの町の冒険者ギルドからも賞金が出た。特に盗賊のボスは有名な賞金首だったようでこちらでもゼロは金貨20枚を受け取った。
その他諸々を合わせて盗賊団で合計金貨25枚。〆て金貨50枚になった。これは当分は遊んで暮らせる金額だ。ゼロはこの金の中から大枚金貨30枚をはたいて収納袋と言う物を買った。これは魔法の空間の中に色々な物を収納出来る魔法俱らしい。冒険者には必須のアイテムとなるが何しろ高いので持っている者は少ない。
コーネリア商店のオーナー、シャブロンからは今後とも何か力になれる事があれば是非連絡して欲しい言われた。これは一ついいコネクションが出来たかも知れないとゼロは思った。
ただゼロとしてはあまりこの世界そのものには関わり合いを持ちたくないと思っていたので一つの知己として留め置いた。
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