第12話 幽閉

 大体の情報が手に入ったのでゼロはシャブロンに礼を言って別れた。それから宿に戻って明日は宿を出て森に行くとミレに言ったらミレは凄く喜んでいた。ミレには用事があるので明日は森で今まで教えた事のお浚いをさせる事にしてカリキュラムを作った。


「もし帰ってこなかったら僕勝手に行くから」

「わかった、いいだろう」

『やはりわかっていたか、勘の良い奴だ』


 ゼロはシャブロンに教えられたサムリンス侯爵の別邸に来ていた。


『所々に腕の立ちそうな連中がいるな。主に二階か。これでは国王と言えども中々手が出ない訳だ。しかしこの程度の連中が王都の騎士団と同程度と言う事か。それなら王都の騎士団も大した事はないな。昔俺と一緒に戦った傭兵達の方が上かも知れんな』


 ゼロは隠形の術を使ってサムリンスの別宅に潜り込んだ。


『警護の数だけは多いが本当に腕の立つのは7人と言った所か。いや、待てよ。俺が伯爵邸で殺したのが3人いたから全員で10人の部隊だったと言う事か。しかし王都を守る暗部が敵に寝返るなんて最低だな。寝返った奴も奴だがそれを阻止出来なかった王様とやらも人望がないと言う事か』


 ゼロとしては少し厳しい物言いだが国を治め者が下の者を統括出来ないなど統率力がないにも程があると思っていた。そんな事では軍隊には通用しない。指揮系統が不確かでは何人命を落とすか分かったものではない。更にその上に立って国を治めようと言うのなら尚更だ。


 貴賓室の様な物はあるのか。いくらサムリンスでも王妃を牢屋に閉じ込めたりはしないだろう。その辺りを考慮しながら各部屋を調べて回った。するとやはり一人いた。いや、お付きの侍女と二人で2階の貴賓室に幽閉されている様だった。


 王妃と同じ部屋に二人の監視人、一人はかなり強そうだった。それと部屋の前にも二人。あと三人は巡回してる様だ。


 ゼロはどうしたものかと考えていた。二人を連れて脱出となると足手纏いになる。途中で殺されるかも知れない。これは単独でやる任務ではない。強いて言えば俺の仕事ではないので失敗してもどうと言う事はないが出来ればあまり黒星は付けたくないと思っていた。ではどうするか。


『そうだ、一人一人わからないように殺して行けばいいだろう』


とんでもないぶっ飛んだ思考だが傭兵のゼロとしては至極真っ当な考え方だった。


『一番遠くに離れている奴はと。・・・あそこか。よし』


持ち場を離れてキッチンで飯を食ってる暗部が二人いた。


「一体俺達いつまでここにいるんだよ。いい加減飽きて来たぜ。しかも女に手を出せないなんて最低だよな。あのお妃さん、年の割にはいい体してるよな。顔も美人だし。あんなのと一回やってみたいもんだぜ」

「それを言うな、俺達の大将はあの人にベタ惚れなんだ。手なんか出して見ろ。死刑台に直行だぞ」

「そうか、くわばらくわばらだな」


 その話を聞いてゼロにも少し詳しいその内情がわかって来た。要するにサムリンス侯爵の妃に対する横恋慕だった。


「所でお前聞いたか、第一部隊のグローネル隊長がやられたと言う話を」

「ああ、俺も聞いた。しかし誰がやったんだろうな。王都であの人と渡り合えるのはうちの隊長位のもんだろう」

「だよな」

「それとうちの部員も3名帰ってこねぇ」

「ああ、スレムリック伯爵の所に行った奴らか」

「そうだ、しかしあいつらにしても並みの兵士には負けないはずだけどな」

「そうだな、一体誰がやりやがったんだか」

「その答えを教えてやろうか」


 それを聞いた二人が振り返った時、二人の咽喉にゼロの左右の手が当てがわれていた。動こうとした時咽喉が粉砕される音がした。しかも声が出せない状態で。


『あと5人か』


 一人は裏庭の見回りをしていた。こいつは腰に鞭を吊るしていたので鞭使いと言う事になる。


「よう」


 そう声を掛けると同時に鞭がしなって飛んで来た。かなり使い慣れた鞭使いだ。鞭と言うのは当たるその瞬間が最大スピードとなる。肉眼では把握出来ずつかみ取る事など到底不可能なのだが、その鞭はしっかりとゼロの手に握られていた。


「馬鹿な、俺の鞭を手で掴むなど出来るはずがないだろう」

「この程度のかったるい鞭なら造作もないだろう」

「何だと」


 そう言って鞭を引き戻そうとした時逆に引かれた。負けじと踏ん張った時には相手がその動きに乗じて目の前にまで来ていた。そして拳を横っ腹に当てがわれた。逃げようとした時にはもう遅かった。ゼロがその拳を捩じると全身に振動が来て立っている事も出来ずそのまま命を絶った。


『「波動震拳」極まったな』


 あと4人。しかしこの4人はちょっと厄介だった。表の扉の所に二人、そして中に二人。この4人は動こうともしない。しかしいくら何でも自然現象なら動かざるを得ないっだろうとゼロは思っていた。


『ただこっちはもう3人も始末してるのであまり悠長に構えている訳にはいかないな、時間が経てば3人の事が知れる。仕方がないここは飛び道具を使うか』


 ゼロは隠形の術でぎりぎりまで近づいて指気弾で二人の頭を打ち抜いた。ゼロが良く使った暗殺術の一つだ。二人が倒れる前に支えてドアの前から排除した。これで残りは2人。多分一人は奴らが言っていた第二部隊の隊長だろう。


『さてどうするかな。真正面はやはりまずい。それに今回は人質も一緒にいる。相手が二人と言えどもリスクはあるだろう』


 ゼロはやはり後ろの窓から入る事にした。ここは2階だ。まさか二階から入って来る者がいるとは考えないだろう。ゼロはまず鉄の柵を引き抜いて三角にへし曲げアイテム・ボックスの中に放り込んだ。それから地場ジャンプで2階の窓に飛びつき、出来るだけ音を立てないように窓を開けて中に侵入した。しかし流石は腕利きだ、直ぐにゼロに気が付いた。


「貴様、ここで何をしている」と一人が言った時「いいから殺せ」ともう一人が言った。『流石は実践慣れしてるなこいつは』


 ゼロは例の鉄柵をアイテム・ボックスから取り出して妃達の前に打ち込んで構築した。少しは壁になるだろうと言う思いだった。


「お前らはこの柵にしがみついていろ」


 そう言って次に突っ込んできた相手に対して後ろに飛び回転しで蹴りを放った。相手は後ろに吹っ飛び壁にぶち当たり内臓は滅茶苦茶になっていた。これで後一人だ。


「お前か最近俺達を殺しまわっていると言うのは」

「まぁそうだな。あんたが隊長さんか」

「俺以外はみんなやられたのか」

「そうだ」

「なら敵討ちをしないといけないな」

「グローネルと言う奴も何かそんな事を言ってたな」

「グローネルもやったのか」

「ああ」

「そうか、では行く」


 この男、名はキシムと言い近距離戦闘が得意だった。キシムがゼロ相手に初めて構えを取った。


「ほーいい構えだ。様になってるぜ」

「賛美はあの世で言え」


 キシムは自分自身に身体強化の魔法をかけてゼロと10合、20合に及ぶ拳脚の応酬を繰り返した。その間部屋の中は台風の中にいるような状態だった。しかも拳が足がぶつかり合う度に衝撃波で周りの物が弾け飛ぶ。王妃達は柵にしがみつき震えながらその光景を見ていた。しかし勝負はつかなかった。


「俺の拳技に素の状態でここまでついて来た奴はお前が初めてだ」

「素の状態?」

「そうだ。お前からは魔力の匂いがしない」

「俺の技は練り上げ昇華させたものだ。お前の様な紛い物とは違う」

「何が紛い物だ」

「しかし惜しいなお前の技」

「何がだ」

「スピードもある。反射神経もいい。強さもある。しかし技がない」

「なに、技がないとはどう言う事だ」

「いいだろう、特別に指導してやろう。行くぞ直突きだ受けて見ろ」


 そう言ってゼロは相手の胸の急所、膻中に突きを入れた。その突きを弾き飛ばそうと前腕で受けたが逆にその腕が弾き飛ばされ膻中に突きが入った。


「何故だ、何故受けられなかった」

「今のが『撚糸勁』と言う技だ。全ての受けを弾いてしまう」

「そんな技があるのか」

「他にも色々あるぞ」

「そしてこれが『浸透勁』だ」


 膻中の上から突き込まれた『浸透勁』はキシムの内臓を完全に破壊した。


「お、お前の様な者にもっと早く巡り合えていたらな」


 こうして第二部隊との戦いは終わった。


「ありがとうございました。貴方は一体誰ですか」

「俺ですか。俺はまぁカロリーナの知り合いみたいなもんです」

「なんですかその口の利き方は。ヘッケン国のお妃様に」

「お前、さっきの戦いに巻き込まれて死んでたらそんな口も利けなかったんだぞ。それでも良かったのか」

「そ、それは・・・」

「マリーシア、お止めなさい。この方の言う通りです。私達は命を助けられたのですから」

「はい、お妃様」

「後はここからどうして帰るかだがここに馬車はあるのか」

「多分あると思います」

「そうか、なら馬車を探すからちょっと待っててくれ」


 そう言ってゼロは外に行き表の警備兵を全員片付けてしまった。


 馬車を見つけたゼロはお妃様を乗せて王都へと向かった。王城に着いた時門番の所で大騒ぎになった。門番が国王に知らせに行った隙にゼロは退散した。もうここまで来れば大丈夫だろうと言って。それではお礼が出来ませんとお妃は言っていたがゼロはそれを無視して消えた。ただ、「もし恩義に思うならコーネリア商店を重用してやってくれ」と一言言って。


 それからの展開は早かった。国王もしびれを切らしていたのか先ずはサムリンス侯爵への討伐軍を出した。これには当然カロリーナ姫を擁護するスレムリック伯爵軍も加わった。そして城内に巣食うサムリンス侯爵一派を全て更迭ないし死罪にした。


 そしてやっと王都のお家騒動は終わった。その後カロリーナはゼロを必死に探し回ったが見つける事は出来なかった。


「ゼロ様は一体何処に行ってしまわれたのでしょうか」

「カロリーナ、そんなに心配しなくてもいつかきっと会えますよ」

「そうですよね、お母様」

「はい」


 その後ゼロの言葉通りコーネリア商店のシャブロンは王家の御用商人になった。そしてスレムリック伯爵は今回の功績を評価されて侯爵に格上げされた。


「今日はいい日和だ。ミレまた旅に出るぞ」

「また出る」

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