第6話 イエローアイの脅威

 危なげなく...は無かったが、第二階層は無事に踏破する事が出来た。

 第一階層は闇雲に進んでも第二階層へ下る階段を見つけられたのだが、第二階層では戦闘が激しくなり、方向感覚が微妙に狂い続けていたので階段を見つけるのに苦労する事となった。

 具体的にどう苦労したかと言うと、本当の森であったならば存在しない不可思議な壁。

 その壁伝いに進んで一周する毎に内へ内へと進み、しらみつぶしに階段を探す作戦を取った。

 初めに第二階層を彷徨っている間に大体のツノウサギは倒せていたのか襲撃の回数も少なく探索に集中出来たのだが、感覚的に丁度ど真ん中辺りに階段があったのには流石にちょっとイラっとした。

 まぁ俺の運が悪かっただけだな。


 第一階層ではスムーズに行き過ぎて壁にぶつからなかったので分からなかったが、第二階層は大体五キロ四方で壁に本物と見紛う森の映像を投影している様な作りだった。

 これがあまりにもリアルな上に、ひょこひょこと飛んでいるツノウサギがこちらに駆けて来たのを映像だからと油断していたら実際に壁から出て来て襲い掛かって来たなんて悪質な仕掛けまで施されていた。

 出てくるのがアンデッド系の魔物だったら、完全に貞〇だぞあれ。


 第二階層踏破までに倒したツノウサギの経験値によって俺のレベルは十まで上がっている。

 現在のステータスがこれだ。


 名前:無し レベル:10

 HP:D 攻撃:D 防御:E 敏捷:E 知力:E  

 スキル 怪力 超再生 魔法の才 多種族言語


 いや、変わってないやーん!

 各種パラメーターが数字じゃないから上がってるのかどうなのか分かり辛いんだよ。

 この世界の常識を知らないので、低レベルの内はステータスが上がり辛いのかとか、そんな事も何一つ分からない。

 気休め程度には強くなっている実感があるのは、まだ救いだな。


「さて、取り敢えず先に進もう。探索は先ず適当に歩いて魔物を討伐してから階段が見付からなければ外から内へ攻めていく方向だな。

 第二階層の時点で上位種が出て来たのが不安だが、剣の代わりに使えるレッドアイの角も手に入ったし、問題無くやれるだろう」


 そんなお気楽で甘い考えを持って第三階層へと下り、最初に会敵した魔物を見て、俺はもう少し慎重に行動をするべきだったと大いに後悔をする事になった。


「うわぁ、レッドにブルーにグリーンに、、、黄色い目って絶対俺が出て来て欲しくないって思ってたあれじゃん」


 全く、自分の浅はかさと運の無さを嘆きたくなる気持ちだ。

 第三階層の探索を始めて十分。

 前方三十メートルの位置にツノウサギの上位種であるレッドアイ、ブルーアイ、グリーンアイの三体に加えて、黄色い目をした新種。

 加えて五体のツノウサギと、計九体もの群れに出くわした。


「絶対に黄色いあいつがあれだろ?あれなんだろ?どうせよぉ」


「ギュアァァァアア!」


 黄色い目のツノウサギ、仮にイエローアイとするが、イエローアイが俺の姿を確認すると甲高い声を上げた。

 その声に呼応した八体のツノウサギが、隊列を組んで一斉にこちらへと駆けて来る。

 イエローアイは俺が予想していた通り、知力の高い指揮個体なのだろう。

 想定していた最悪の展開。

 あまりにも行き当たりばったりな自分に溜息を吐きながら、ツノウサギの群れを迎え撃つ。

 逃げの選択肢は無い。

 何故なら足は俺よりもツノウサギの方が早いのだから。

 どう考えたって逃げ切れる可能性はないのだ。

 だったら始めから迎え撃った方が得策だろう。


「前方に五体のツノウサギ。上位種三体は飛び出してこないか。グリーンが切り込み隊長役じゃないのかよ。厄介な」


 正直に言って足の速いグリーンアイが先頭で突っ込んで来るのが理想的だった。

 グリーンアイが突っ込んできた所を仕留めて一体減らしてしまおうと考えていたのだ。

 ツノウサギは前世のウサギと比べれば大きいとは言え、体長は五十センチ程度だ

 ならば指揮個体がいるとしても一斉にスタートを切るだけで、俺というゴールに辿り着くまでに時間差が生まれるのではないかと読んでいたのだが、その考えは無残にも崩れ去る。


「致命傷だけ避ければ、前五体とブルーは最悪無視してもいい。問題はレッドとグリーンだ。どう来る?」


 前を走っている五体のツノウサギは、俺から五メートル手前で飛び上がった。

 そして何時も通りに俺に向かって鋭い角を向け、、、ない?

 俺の視線は完全に五体のツノウサギに引き付けられている。

 腹を見せる様にして上方向への跳躍を疑問に思っていると、五体のツノウサギの背後から全身を縦方向に回転させたレッドアイが現れた。


「なっ!?」


 ツノウサギの見せた完璧な連携に動きが遅れる。

 的確に頭を狙ったレッドアイの回転斬りに、頭を傾けて回避するが、左肩をスッパリと斬られて鮮血が舞った。


「痛ぇぇええ!」


 あまりの痛みに思わず叫び声を上げたが、ツノウサギの攻撃はそこで終わりでは無かった。

 今度はブルーアイが目の前に迫っていて、即座に対処を迫られる。

 このさい攻撃意思の無いツノウサギは無視だ。


 ブルーアイの動きは遅い。

 故に回避をするのは可能だが、このタイミングで上位種を一体でも仕留めておきたい。

 そう判断して右手に持った角を振り下ろそうとした瞬間、ブルーアイの後方から弾丸の様な速さのグリーンアイが飛んで来た。


「危ねぇぇぇええ!」


 グリーンアイの鋭い角は、完全に俺の左目を捉えていた。

 すんでの所で首を傾け、どうにか左目への直撃は避けたが、目尻からこめかみを切られて血が吹き出す。

 左目が血に塗れて視界を失うと、時間差でブルーアイの突進を腹に受けた。

 勢いは無いので内臓までは届いていないが、肉を抉り、身体が後方へと突き飛ばされる。


「あぁぁぁああ!クソ!」


 ゴロゴロと後方に転がされて勢いが止まる。

 左目は使えそうに無いので右目だけで前方に目をやると、俺の目の前で仁王立ちしたイエローアイが勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。


 ああ、そうかよ。だったらこっちも本気でやってやんよ。


「てい!」


「ギュアァァァ!」


 俺は目の前でほくそ笑むイエローアイに角を振った。

 本来四足歩行であるツノウサギが二本足で立つのは無理があったのか、足がプルプル震えていたので、俺の攻撃を回避するのは不可能だった。

 そして、「卑怯だぞぉぉぉ!」と言う断末魔を上げたのかは定かではないが何か叫び声を上げて、イエローアイは魔石とツノウサギモチーフのペンダントトップが付いたネックレスを残して消え去ったのであった。


『ツノウサギ イエローアイを倒した。

 名も無きゴブリンプリンスのレベルが11に上がった。

 ツノウサギ イエローアイの魔石と知力のネックレスを手に入れた』


「統率力には驚かされたが、結果馬鹿で助かったぜ」


 イエローアイを倒した俺は、指揮個体を失ったツノウサギ達を次々に倒していった。

 ツノウサギ達は、先程までのコンビネーションは何処へやら。

 よーいどんで突進をして来るだけだったので、グリーン、レッド、ノーマル、ブルーの順で斬っていく簡単なお仕事だった。

 第二階層でそれなりの戦闘を重ねて慣れていたのもあったからな。

 向かってくる敵をばっさばっさと斬り捨てるのは、前世で言う時代劇の侍になったみたいで気持ちが良かった。

 そうして簡単に退けられてしまったのも相まって、指揮個体の凄まじさを強く感じる事となった。


「本当に、あいつが馬鹿で助かったぜ」


 俺は目を瞑って胸に手を当て、馬鹿に感謝を捧げた後で。

 仮眠を取りにダンジョンの入口まで戻る事にしたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴブリンプリンス~畜生以下のクソ親父と美貌の王女の間に生まれてしまった俺は最強の力を得て可愛くてお馬鹿なマスコットと太くて短い最高の鬼生を歩む 眠ゐ犬 @nitonito194

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ