第4話 レベルアップと初めての魔法

 抑揚のない声で淡々と伝えられた言葉が頭の中に直接響く。

 あまりにも不可思議な現象が起きて呆気に取られてしまったが、頭を振って直ぐに気持ちを立て直すと今の現象を考察する。


「やはりここはダンジョンだな。

 今の現象を仮に通知とするが、今までは魔物を倒しても通知はなかった。

 どうやらこの世界にはレベルの概念があるみたいだが、ツノウサギを倒して急にレベルが二つも上がるとは考えられないので、上で倒した敵の分も経験値は入っていたのだろう」


 口に出して言葉にすると整理がしやすいので、傍から見られたら恥ずかしいぐらいガッツリとした独り言だが、気にせず続ける。


「そして俺の種族が確定したな。ゴブリンプリンスと言う事は、ゴブリンキングのクソ親父と誰かから生まれた子供だと言う説が確定的になった。

 ゴブリンキングの子供だからゴブリンプリンスか?

 いや、母さんが王族と仮定して、母さんの血が入ってるからゴブリンプリンスって種族になったってのは考え過ぎだろうか?」


 ゴブリンキングの子供が仮にゴブリンプリンスなんて種族になるのが確定していたら、とんでもない数のゴブリンプリンスが量産されるのではなかろうか。

 人間と比べて明らかに成長が早くて、簡単に魔物を狩れる存在が簡単に生まれるとは考え辛い。

 瞳の色が同じことや見た目の整い方から考えても、母さんの血が色濃く反映されていると考えてもおかしくはないだろう。


「ダンジョン内で魔物を倒すと、魔石とアイテムがドロップすると。

 これは数を熟してみないと断定は出来ないから仮説だな。

 取り敢えず持ち歩くのは邪魔になるから食うか」


 ツノウサギの腿肉を骨ごと生で丸かじりする。

 身体の方はクソ親父の血が色濃いのだろう。

 生肉を食べても身体に何の異変も起きないし、歯も顎も強いので骨ごとバリバリ食べられる。

 下処理がされているのか、上で食べる肉よりもしずる感は無い。

 出来れば水分補給もしたいので、血が滴っているくらいの方が有難いのだが。


 ついでに黒い宝石の様な魔石も口に放り込んだ。

 魔石は特に味はしないが、何故だか本能が食えと言っている気がするので食べる事にしている。

 普通の人間であればまず噛み砕けない硬さだが、ゴブリンプリンスの俺は何も気にせず噛み砕ける。

 もっともツノウサギの魔石は前世で言うビタミン剤程の大きさなので、水分さえあれば飲み込める大きさではあるのだが。


「さて、ツノウサギ程度の魔物なら恐れる事も無いから狩りでもしてみるか。出来れば水場を発見したい所だが、ダンジョン内の森にあるのかな?」


 水場を探しながら森を歩き、獲物を見つければ狩る。

 ドロップした魔石と肉は食べて森の中を探索していく。


「水場は見当たらないか。

 太陽が動かないから時間の感覚が狂うな。

 ずっと食べてるから腹具合でも時間が計れないし、時計ぐらいは欲しい所だ」


 当然ながら時計なんて物は無いし、都合良く魔物がドロップしてくれたりもしない。

 今の所ツノウサギを二十体ほど倒しているが、他の魔物を見掛けない。

 この森にはツノウサギしか出現しないのかもしれないな。


『ツノウサギを倒した。

 名も無きゴブリンプリンスのレベルが4に上がった。

 ツノウサギの魔石とツノウサギの肝臓を手に入れた』


「おっと、レベルが上がったか。

 上では肉しか食べなかったが、成程これがレバーか。

 うん、もにゅもにゅしてて悪くは無い。

 ふと思ったがレベルが上がるって事はステータスとか見れないのかな?なんて...」


 何となく疑問に思ってステータスと口にしてみたら、目の前にステータス画面が表示された。

 上にいた時にも例の「ステータスオープン!」をやって恥ずかしい思いをしていせいか、完全に頭から抜けていた。


 名前:無し レベル:4

 HP:D 攻撃:D 防御:E 敏捷:E 知力:E  

 スキル 怪力 超再生 魔法の才 多種族言語


「ほーん。パラメーターが結構アバウトなタイプか。

 名前がないのは良いとして、スキルの怪力と超再生ってのはクソ親父から受け継いだスキルなんだろうな。

 魔法の才ってのは母さんからなのか?魔法が使えるなら今の俺が置かれている水場見付からない問題も解決出来るかもしれない。

 えーと、確か...」


 クソ親父と戦った魔導士達が魔法を使っていたのを思い出す。

 確か長ったらしい詠唱を行ってから魔法を放っていたと思うが、内容が全然思い出せない。

 まぁ適当にやってみるか。


「水を司る神...アクア...ウエンディよ。我が魔力を...対価として願いに応じ...魔を撃ち払う...水の...水の球?水玉...水玉パンツ!?いや、違う!水球を...具現化?させたまえ?ウォーターボール!」


 こんな...あれだろ?こんな感じだろ?多分。知らんけど。

 右手を正面に構えて超絶適当な詠唱をしてみると、掌の先から雨粒みたいな水球が出て正面にあった木をほんのちょっぴり湿らせた。


「これは...完璧な魔法じゃないか!」


 ほんのちょっぴりイメージよりも威力がゴミだったが、クソ親父と戦っていた魔導士の魔法と完全に一致していると言っても過言では無いだろう。

 その後、色々と検証したら、詠唱が無くてもイメージすれば魔法が放てる事がわかった。

 結果として俺渾身のクソゴミ生ゴミゴミゴミ詠唱は無駄に陸の藻屑となったのであった。


「魔法は戦闘には使えそうに無いから、水分補給用と割り切って物理で進むしかなさそうだな。

 お、下り階段か。やはり下に潜って行くダンジョンみたいだな。

 取り敢えず魔物の強さ的にまだまだ余裕があるから下りてみるとしよう」


 ダンジョンに入ってから体感で三時間ぐらいか?

 森の中を歩き続けて、結局この階層ではツノウサギしか出くわさなかった。

 十段しかない短い階段を下りると上の階層と同様の森が広がっていた。

 上を第一階層として、ここを第二階層とするかな。


 こうして第二階層へと下りた俺を待ち受けていたのは予想外の強敵だった。

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