第5話 上位種の強さ
「早速ツノウサギを発見したけど、この階層もツノウサギエリアなのか?って早ぇ!」
五分程歩いてツノウサギを発見した。
第二階層もツノウサギのエリアかと油断をした瞬間、ツノウサギが第一階層にいたものより倍ほども早い、猛烈な速度で突進してきた。
そのうえ跳躍力も段違いで、魔石がある(と思われる)左胸を角が襲う。
反時計回りに九十度身体を開く事で辛うじて避ける事は出来たが、掠っていたのかピリッと皮膚が裂けて血が滲む。
「地味に痛いやつぅ!直ぐ治るけど許せん!」
クソ親父譲りの超再生があるので、かすり傷程度なら一瞬で癒える。
しかし、だからと言って痛みがあるのに変わりは無いのだ。
ツノウサギは素早く距離を取ったので後ろを取る事は叶わなかったが、こいつらの攻撃パターンは直線運動の突進ばかりだ。
少なくとも地上と第一階層のツノウサギはそうだったので、油断は出来ないが簡単にやられる事は無いだろう。
と...そんな考えも油断であると思い知るのは、たったの数秒後の事だった。
僅かばかりの時間で十メートル以上の距離を取ったツノウサギがまた、直線運動で俺目掛けて突進する。
その突進に対し、腰を落として拳を胸の高さに構え、回避と迎撃の準備を整える。
ツノウサギが飛び上がった所を回避し、一撃加えて倒すイメージをしてタイミングを計る。
後ろ足が沈み込んだのを見計らって身体を開き、右の拳を引いて攻撃態勢を整えた所、ツノウサギは予想外にも一つサイドステップを入れてから飛び込んできた。
ご丁寧にも開いた身体の正面から左胸を狙った強襲。
サイドステップを入れた分の速度が落ちているが、まともに食らえば確実に胸を貫くであろうと易々と想像出来る威力だ。
回避が不可能と判断した俺は左腕で胸をガードする。
すると鋭い角が前腕を易々と貫いた。
「ぐぅ!痛ぇぇぇええ!」
角は肘のすぐ近くを完全に貫通している。
強烈な痛みに耐えながら、俺は左腕にグッと力を入れて筋肉で角を固定してやった。
手足をジタバタさせて藻掻くツノウサギを見て、苦痛を覚えながらも表情がにやけてしまうのを感じる。
「よくもやってくれたなぁ。
捕まえちまえばお前の素早さなんて怖くねぇんだよ!」
第一階層のツノウサギなら、ここで可愛らしく命乞いをする所だが、こいつは「フシャー!」と力強く威嚇して戦う意思を切らさない。
激しく暴れるので腕に痛みは走るが、先程貫かれた痛みよりは全然マシだ。
よく見ると瞳が緑色だったツノウサギの胴体を掴んで反時計回りに捻る。
ゴキッ!
気持ちの良い鈍い音を響かせて骨が捻じ切れたツノウサギの身体がだらりとぶら下がると、その身体は消え失せて地面に角と魔石が転がった。
『ツノウサギ グリーンアイを倒した。
名も無きゴブリンプリンスのレベルが5に上がった。
ツノウサギ グリーンアイの魔石とツノウサギ グリーンアイの角を手に入れた』
「グリーンアイ?ツノウサギの上位種だったのか。
明らかに素早さが違ったもんな。
確かに目が緑色だったけどさぁ、どうせなら体毛の色を変えてくれない?見分け辛いって」
そんな事を言っても仕方がないのだが、言いたくなる気持ちも理解して欲しい。
グリーンアイは兎に角素早いし、普通のツノウサギ同様こちらを見つけた瞬間に向かって来るから目の色だけでは判別がし辛いのだ。
意外な強敵の出現に一つ溜息を吐いて魔石を食べ、角は武器にしてみようかと手に持ってダンジョンの探索を続けた。
『ツノウサギ レッドアイを倒した』
『ツノウサギ ブルーアイを倒した』
第二階層の探索を開始してから一時間程は経っただろうか。
この間に十二体のツノウサギと戦い、その内の二体が上位種だった。
グリーンアイの存在を認識してからは意識して目に注目していたので、今度は油断なく戦って危なげなく戦闘には勝利した。
特徴を上げると、レッドアイは名前の通りに目が赤くてジグザグに走ったり小刻みにフェイントを入れたりと戦いに長けていた。
だが、特に目立った特徴と言えば、角が鋭利な刃物の様になっていて、突き刺すだけでなく切る動きを取ってくる事か。
クルンと空中で回転しての回転斬りなどアクロバティックな攻撃を披露して来たが、動きは普通のツノウサギよりも少し速い程度なので避ける事もグリーンアイの角で弾く事も問題なかった。
レッドアイのドロップアイテムは肉だったのが少し残念だったが、角が手に入れば武器として使うのに良さそうだ。
目を見ずとも角で判別出来るので、次も問題なく対処する事は可能だろう。
もう一体のブルーアイの方だが、こいつは兎に角硬かった。
角も皮膚も肉も骨も他のツノウサギとは比べ物にならない程に硬く、殴ってもダメージが通っている感覚が無い。
動きは普通のツノウサギよりも遅いぐらいなので、捕まえて全力で首を捻じ切ったが、前世の雑巾搾りをしている様な気分になった。
俺のスキルには怪力があるので力は強い方だと思うのだが、それでも打撃では倒し切れる気がしないのだから面倒な相手である。
「特徴から察するにレッドアイが攻撃特化、ブルーアイが防御特化、グリーンアイが敏捷特化って所か?
俺からすると一番厄介なのはグリーンアイだな。
先に他の上位種と戦ってたら初めから警戒も出来ただろうに、運の悪い」
ステータスには知力も表記されている。
知力に長けた個体が現れたら少し面倒だな。
などと自らフラグを立ててしまったのを後悔するのは、第三階層に下りてから直ぐの事だった。
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