第8話 美少女、転入

 朝、リビングに三人が集まると、ヘレーネが声を張って言った。


「今日、ソフィアが転入よ。楽しみね」

「私、緊張する」

「ソフィア、大丈夫だよ」


 どうやらソフィアは転入に思うところがあるようだ。俺は気にかけて声をかける。


「ありがとう、優斗」


 朝ごはんはヘレーネが作ったサンドイッチだった。ヘレーネは案外料理が出来るのかもしれない。ハムとレタスのサンドイッチは美味かった。


 ご飯を食べると三人で家を出る。電車ではなく専用の黒い車で移動する。俺が助手席で、ヘレーネとソフィアが後ろになった。


「ソフィア。あなたは今日から佐倉ソフィアよ。いい?」

「うん。佐倉ソフィア」


 ソフィアにヘレーネが頑張って苗字を覚えさせようとするが、ソフィアはすぐに覚えてしまった。


「ソフィアってさ、寡黙だけど、日本語ペラペラだよね。ね、優斗」

「そうだね。確かに発音も正しいし、上手いと思う。ヘレーネの発音も悪くないけどな」

「あら、ありがとう。でも純ジャパの優斗には勝てないけどね」


 そんな会話をしつつ、車が学校の校門の前に着くと、車を見た登校中の生徒たちが立ちすくむ。


「さぁ、着いたわ。降りましょう」


 ヘレーネに従って俺は扉を開けて外に出る。俺たちを避けるように道ができた。周りの男子たちは俺と2人の美少女を見比べてなにやらコソコソと話している。


「さぁ、ここが私たちのクラス2年A組よ」

「おいおい、ヘレーネ。転入生は先ず職員室に行かなきゃだろ」

「あらそうなの? なら、優斗が案内してあげて」

「はいはい」


 ソフィアを職員室まで連れてく間、また「記憶思い出せた?」と聞いたが、「ううん」とソフィアは思い出せないようだ。


 俺は職員室の扉をノックし入り、担任の先生にソフィアを受け渡した。そして。


「今日このクラスに今学期二人目の転入が居ます。佐倉ソフィアさんです」


 ソフィアが教室に入ってくると、男子共はあっけらかんと沈黙した。ヘレーネに並ぶ美貌。ソフィアは肌白く、儚げな可憐な美少女と言った感じだからか。


「えーっと。ヘレーネの隣の席でいいのかな?」

「構わないわ」


 何故か先生はヘレーネに許可を取っている。


「さぁ、つまらない授業が始まる前に作戦会議をしましょう」

「作戦会議?」


 こちらへと歩んでくるソフィア。急にヘレーネが耳打ちで話してきた。


「ソフィアの記憶を思い出させるための作戦会議よ。ほら」


 ソフィアがヘレーネの隣の席についた。


「優斗、ヘレーネ、よろしく」

「おう、よろしく。席近くていいな」

「うん」


 その後、授業と休み時間に俺とヘレーネはソフィアにあらゆることをした。というのも、休み時間に学校を散策したり、授業中に紙を回してみたりしたのだ。


 だが、ソフィアは何一つ思い出せないようだった。放課後、誰もいない教室で俺とヘレーネとソフィアは2年A組の教室に残っていた。


「放課後に誰もいない教室でイチャイチャとかしてみたら、なにか思い出すかもしれない」


 ついにヘレーネの思考がぶっ飛んできた。


「優斗、ソフィア。何かいかがわしいことしなさい」

「え、俺? キスとか?」


 そうしてソフィアとキスをする。ソフィアの唇はヘレーネの唇と違って細く儚げだが、柔らかくもあった。


「ええ、もっとよ! ほら、体を抱き寄せて!」


 仕方なくソフィアの体を抱き寄せる。


「愛してるって言うのよ」

「っっっなんでだよ!」


 俺はヘレーネに言い返した。


「ヘレーネが俺らで遊んでるだけじゃん」

「バレたか」

「今晩ソフィアの診察があるんじゃなかったっけ」

「そうね。そろそろ帰りましょう」


 学校帰り、タワマンの家に着き、ソフィアの診察が19時から始まることもあり、先にソフィアから風呂に入ることになった。


「じゃあお風呂入ってきます」

「行ってらっしゃい」


 俺とヘレーネはソフィアを見送る。すると、ヘレーネが話しかけてきた。


「後で夜、大切な話があるから、部屋に行くわね」

「おう。わかった」


 ソフィアが風呂から出ると、ソフィアはソファに腰掛ける俺の隣に座った。ヘレーネとテレビゲームをしていた俺は夕飯の話をする。


「ソフィア。3人とも風呂から出て、診察も終わったらご飯にしようと思うんだけど、何が食べたい? デリバリーするからさ、ピザとかでいいかな」

「はい、ピザで」


 ソフィアはヘレーネと打って変わって寡黙だ。ヘレーネの了承は既に得ている。


「じゃあもう注文しちゃうね」


 俺はピザーレに連絡して、ピザを二枚頼んだ。もちろん支払いはヘレーネさんの懐から出るらしい。


「私、次風呂入るわね」


 次はヘレーネが風呂に入ることになった。隣にいるソフィアに問いかける。


「記憶、まだ思い出せない?」

「記憶、ですか」

「そう。自分の名前とか」

「ソフィア?」

「それは僕たちが付けた名前だよ」

「それ以外は。そもそも自身が地球軍の兵士だったことすら覚えていないんです」

「そうか。どうしたものか。このあと診察でどうなるかだな」

「はい、お願いします」


 ソフィアは寡黙なので、なかなか会話が進まない。仕方なくヘレーネとやっていたテレビゲームをソフィアともやることにした。


「どう、上手くやってるかしら?」


 ソフィアと何戦かしたところで、バスローブ姿のヘレーネがやって来た。


「次は優斗よ。入ってらっしゃい」

「じゃあソフィア。また後程」


 俺がお風呂に入ろうとした時、ピンポーンとチャイムがなった。そのまま俺が出ると、そこには三人のスーツ姿の男女がいた。


「ソフィア様の診察に来ました」


 いよいよ、ソフィアの診察が始まる。

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