第11話 葛藤、そして

「いやぁぁぁぁ! いやぁぁぁ! 来ないで!」


 ソフィアは大声で激しく人を拒絶する。特にヘレーネによって派遣された医者や看護師への拒否反応が酷かった。一体どうしてしまったのか。


「先程からこんな調子なんです。私たち医師を怖がるみたいで。ですが優斗さんとヘレーネさんなら話せるようです。なのでこのイヤホンを片耳に着けて、医師の代わりに質問してくれませんか」

「分かりました」

 

 俺とヘレーネはソフィアのいる部屋へと入る。ソフィアはソファの上で毛布を体に巻いて一人うずくまっていた。


「優斗、ヘレーネ」


 こちらに気づいたのか、ソフィアは毛布からその目を覗かせる。


「どうしたの、ソフィア。急におかしいわ」

「おかしいも何も、仕方ないでしょ!」

「まぁまぁ」


 俺はヘレーネの発言を和らげようとする。すると無線で『どうして二人になら話してもいいのか、理由を聞いてください』と飛んできたので俺はソフィアに質問する。


「どうしてソフィアは医師の話は聞けなくて、俺とヘレーネならいいの?」

「優斗とヘレーネになら話してもいいかなって」


 その時、ヘレーネが先手を打つ。


「もしかしてだけど、ソフィアって月人なの?」


 すると、ソフィアはハッとし、その後一呼吸置いて話し始めた。


「やはり、地球の姫にはバレていましたか。そうです。私は月人、それも月の女王の娘です」

「なんですって! 月の皇女。なぜここに?」

「それが分からないんですよ! 私は月の姫なのに、気づいたら地球軍の帰還用カプセルにいて、最初は自分が地球人だとさえ思っていたんです」


 ソフィアはそのまま話を続ける。


「元来月人と地球人は戦争しています。唯一火星にあるターミナルシェルターだけが共同可能生活区域です。だからこそ、この記憶が信じられなくて、どうしたらいいかわかんなくて。私たち敵なんですよ!」

「敵って言われても、ソフィアはソフィアだもんな」

「確かに月と地球では戦争しているけれど、私たちの関係には敵も味方も関係ないわ」

「でも! 月人として、地球人は敵なんです。私、孤立無援で、どうしたら」


 ソフィアは月人として地球に来てしまったことを悔やんでいるようだ。葛藤、割り切れない思いにやりきれない感情。そりゃ当然だろう。月人ならば地球人は敵国の人間となる。憎むべき相手であり、殺す相手なのだ。


 ソフィアは周りが全員敵国の地球人だから、怯えていたのかもしれない。


「ソフィア。俺は君のこと、一人の友として恋人として尊重するよ」

「私もよ、ソフィア。月人の姫だろうが心配ないわ」

「優斗、ヘレーネ」


 ここで無線が入る。

『ヘレーネさん、優斗さん。たった今、ユーラシア連盟から、ヘレーネ・ルイス・クリスタル、藤原優斗、ルナ・ソフィア・ユニバースの3名の招集命令が出ました。これよりこのマンションの屋上にて送迎用の航空機が参るそうです』


「お父様が、3人を招集する? 一体何が狙いなんだろう」

「分からない。でも、これだけは変わらない。俺とヘレーネはソフィアの味方だからな」

「う、うん」


 その後、気を取り直したソフィアと、何故かご機嫌なヘレーネと俺はユーラシア連盟の皇都があるスイスへと向かった。


 ユーラシア連盟の皇帝、聖アントニヌス・ピエダリウス・クリスタルからの招集。一体どんな要件か。


 航空機は垂直離着陸機で、マンションのヘリポートから飛んで行った。俺は緊張しまくりで、ソフィアはただぼーっと窓からの景色を眺めているだけ。ヘレーネはというと、お父さんから何を言われるかで終始悩んでいた。


「ねぇ、見てよ、これ!」


 俺はネットサーフィンをしていたのだが、なんと次のようなニュースが流れてきていた。


【休戦宣言】

 これより全地球人、並びに地球軍は活動を中止せよ。また、月人も同じように月中に休戦宣言が敷かれている。


 かれこれ2000年は続いていた月と地球との争いにおいて休戦宣言は過去に何度かあった。だが、今回もネットで休戦宣言に関するコメントが多く見られ、やはり珍しいものだと直ぐに情報が拡散する。


「ねぇ、優斗。私一つ考えがあるのだけれど」

「ヘレーネ。たぶん同じこと考えてた」


 二人が考えていたこと。それは『俺とヘレーネ、及びルナ・ソフィア・ユニバースにおける三角関係を絡めた政治的策略』だ。


 ヘレーネは地球代表と言っても遜色ない知名人だし、ソフィアは月の皇女。だが、その二人の間を保つのが俺でいいのか?


 色々な思惑が想定される今回の招集。俺は過去で一番の緊張をしていた。だが、100人以上の女子に告白して振られた過去がある。緊張なんてちょちょいのちょい。


 自分を叱咤激励して、いざ、スイスへと向かう。

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