第12話 王たる器

 スイス国際ターミナルからはまたもやリムジンでの送迎だった。だが、休戦宣言がなされている今、街中は忙しなく見えた。


「優斗、お父さんになんて言われるかな。別れろとか言われたらどうしよう」

「ヘレーネ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ソフィアを見習いなさい」


 ソフィアは先程からスイスの街並みのありとあらゆる場所やものに興味津々と言った様子で見物していた。


「ソフィアは完全にふっきれたわね。乗りかかった船ってやつかしら」

「そうだな。でも、回復してよかったよ。一時はどうなるかと」

「あの、ヘレーネ、優斗。実はもうひとつ記憶で思い出したことがあるの」


 ヘレーネと話していたら、ソフィアが入ってきた。


「月の女王は代々ある記憶を受け継いでいるの。そして、恐らく地球の王、ユーラシア連盟の皇帝もその記憶、真実を知っているのかもしれない」

「確かに今回の特例の休戦宣言も気になるし」

「ソフィア、優斗。いくら考えても仕方ないわ。お父さんのところに行くまでトランプでもしましょう」


 ヘレーネは一番落ち着かないのに、トランプで気を紛らわす作戦のようだ。


「トランプってなんですか?」


 ソフィアは「トランプ」というゲームを知らないらしい。


「え! 月にはトランプないの?」

「月だとよくタロットカードで遊ぶことが多いですね」

「そうなんだ! 例えば?」

「小アルカナと大アルカナがあって、大アルカナでも星、月、太陽、審判、世界が強いんですよね」

「へぇー。タロットカードで出来るゲームあるんだ」

「残念だけど、タロットカードは用意してないの。トランプならやってもいいわ」


 その後、ユーラシア連盟本部に向かうまで、大富豪やらババ抜きやらをしながら時間を潰した。そして、リムジンはドデカイ敷地へと入っていって、止まった。


「ヘレーネ様、また優斗殿、ソフィア様、ようこそおいでくださいました」


 一人の紳士がリムジンから出ると現れた。


「私が三名様を皇帝のもとに案内します」


 俺とヘレーネ、ソフィアは皆寡黙となり、無駄なお喋りをすることは無かった。それは一重に、ユーラシア連盟の内装が圧巻であったからだ。


 神話の時代の彫刻と見られるものや、絵画。一体いくらするのだろうか。


 そんなことを考えていたら、玉座の間へと着いたらしい。


「これより先は私は行けません。どうぞ、ヘレーネ様、優斗様、ソフィア様、行ってらっしゃいませ」


 恐らく支配人だったのだろう紳士は俺らが目の前に屹立する巨大な門を開けるのを待ってくれているみたいだ。


「よし、開けるぞ?」

「いいわよ」

「ヘレーネは開けたことないの? ヘレーネが開けてよ」

「私は、まだ謁見の間ではお父様とお話したことは無いの。だから緊張して」


 仕方ない、俺が勇気を出して開けるしかない。そう思って俺はその門を押した。低い音を立てながら開く重厚な扉の門は、重かった。


「2人も手伝って」

「分かったわよ」

「わかりました」


 なんとか三人で玉座の間の扉を開けることに成功した。だが、前を向くと、そこにはユーラシア連盟の皇帝が椅子に深く座っていた。


「さぁ、諸君。邪魔者はいない。腹を割って話そうか」


 なんと、玉座の間には皇帝一人しかいなかったのだ。普通ならば宰相に大臣、護衛兵などが王を守るはずなのだが。そんなこちらの戸惑いをそっちのけで皇帝は俺に話しかけてきた。


「歓迎するよ、ミスター優斗。今日直接会ってみてやはり確信したよ。君こそ預言されし真の王の器を持つ少年だとね」



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