第10話 少女の記憶
今日は普通に学校だが、ヘレーネはソフィアの問診のために家に残るという。というのも、ヘレーネが月人のスパイである可能性があり、そこも含めて再診するというのだ。
【Zine】ヘレーネと優斗のチャット
ヘレーネ:ソフィアちゃんの診察は終わったよ。やっぱり記憶喪失だって。何かをきっかけに記憶を思い出すことがあるらしい。
優斗:そうなんだね。ありがとうね、ソフィアのこと。月人かどうかはわかった?
ヘレーネ:それは分からないのよ。まぁ、そこは気にしないで。それに同じ家に住んでるのだから、ソフィアは私達家族の一員みたいなものよね。
優斗:その通りだね。これからも見守ろう。
【トーク終了】
今回のソフィアの転入や診察。偽の戸籍。金と権力で全てを決断し現実化させるヘレーネの行動力に優斗は尊敬の念と同時に呆れていた。
俺一人で登校すると
「新聞部の竹内です。えー。ヘレーネ様と藤原優斗くんは交際なされているのですか?」
「おい、優斗。あれだけ振られてたお前がなんで世界で一番美しいと言われるヘレーネ様と付き合えんだよ! チクショー!」
「ヘレーネ様は地球人皆のものだ!」
男どもからは罵詈雑言が飛んできた。
だが、今まで俺の告白を振ってきた女の子たちからは意外な言葉を貰った。
「今だから言えるけど、この学校の女子全員に『藤原優斗との交際は禁止する』っていう手紙がユーラシア連盟から来てたんだよね。私としてはかなりアリだったんだけど、ヘレーネ様と交際する予定だったのなら納得だったわ」
「藤原くん。優しくて、勉強も出来て、スタイルもいいし、非の打ち所がないんだよね。だから逆に高嶺の花みたいで。だからこそ、ユーラシア連盟からの手紙も納得してたの。まさかこんな結末になるとは思いもしなかったけど。でも、藤原くんに告白されたことは誇りにするわ」
女子たちは実は脈アリの子も結構いたみたいだった。だが、ヘレーネと交際できるように根回しがされていたようだ。今となっては許せるが、『全校女子との交際禁止』は酷すぎないか?
だが、月日が経つにつれてヘレーネやソフィアとの話題も潮を引き始めた。世間はヘレーネの父が預言したカウントダウンで持ち切りだ。俺とヘレーネとソフィアはカラオケなり、スタバなりとソフィアが少しでも記憶を思い出せる様に、色んなところにデートに行った。
そして、ある日ちょうどスーパームーンと呼ばれる日が来た。カウントダウンの当日だった。世界はまだいつも通りで何も変わりは無い。
あるとするなら敵星である月に対して、スーパームーンの日は世界各国の軍が動くほどの一大イベントが行われることだった。要は戦闘の契機となるイベントが執り行われる。
地球軍の目標は月の奪還。かつて地球人のものだった月を月人から奪い返そうと言うのだ。月人はもとは地球人だったが、大昔に地球からの独立宣言をし、もちろん地球の諸外国は認めずに、今に至る。
いつものように三人で高校から帰って、スーパームーンだからと大きなケーキを買った。だが、帰途の途中、夜空に浮かぶスーパームーンを見つめてソフィアは立ち止まった。
「ソフィア? 帰るよ」
ソフィアは俺の声を無視して声を上げた。
「まさか! そんな、でも、うあああああああ!」
ソフィアは急に声を荒げ叫び出した。取り乱し、頭を抱えて地面にしゃがみこむ。
「優斗、ソフィアどうしたの?」
「俺にも分からない」
「ソフィア、大丈夫?」
ヘレーネが優しくソフィアに言うと、ソフィアは一言喋った。
「私は、私は、」
ソフィアはヘレーネも俺のこともとても怖がるように震えていた。一体どうしたのか。
「とりあえず一旦家に帰ろう。話はそこからだ」
俺は力の抜けたソフィアをおんぶして、ヘレーネと一緒にマンションに帰る。その際ずっとソフィアは泣いていた。
「一人になりたい」
マンションに着くなりソフィアはそう言った。俺とヘレーネはなす術がなく、75階のもうひとつの部屋にソフィアを暮らさせることにした。
「どうして私たちを怖がってたのかしら」
「分からない。けど、前にヘレーネがさ、ソフィアはスパイなんじゃないかって言ってたよね」
「うん。え、まさか」
「スーパームーンを見て故郷の記憶を思い出したんじゃないかな」
「てことは月人?」
「かもしれない」
ヘレーネとの会話だけではまだ憶測の域を出ない。翌日、医師も交えてソフィアと話すことになった。
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