星の子

空色凪

第1話 帰還兵の美少女

「俺と付き合ってください」

「えっと……ご、ごめんなさい。藤原優斗くんとは付き合えません」

「そ、そんな! 1日だけでも……」


 また振られた。立ち去っていく少女を眺めながらカウントする。これで100人目。学年の女子の半数以上に告白して、もう俺は諦めかけている。俺を好きな女子なんてこの世にはもう居ないんじゃないか。母さんは亡くなってるし。


 俺、英語以外は勉強結構できるし。

 太ってもないしガリガリでも無い。

 普通に顔も悪くは無いと思うんだよな。

 てことは、性格か。


 性格が悪いって女子に思われているのかもしれない。そうなったらお父さんとの約束も果たせない。お父さんに「男の子が産まれるまで腰を振れ。二股までならしてもいい」という謎な家訓を言われ育てられてきた俺、結婚して子どもどころか彼女さえ出来ない。


 なんで!

 神様、なぜ?

 私の主な罪はなんだったのですか!


 そういえば、数日前に神様みたいな人達に会ったな。あれは一体なんだったんだろうか。


 どちらにせよ、今更何かしても恋人探しが改善されることでもない。よし、明日は転入生がいるらしい。転入生なら、俺の噂(100人に振られてる)も知らないだろうし、先入観なしで案外OKしてくれたり?


 そうだな。いきなり屋上に呼び出して「一目惚れです。俺と付き合ってください」って言うか。そう思案してると、後ろから声がかかった。よく知る顔だった。


「また振られたか?」

「そうだよ、ゴロー」

「お前も懲りねえな」


 藤宮悟郎。俺の親友で、出席番号が近いことから高一始めから付き合い始めた。


「悟郎な。ゴローではない。それよりさ、俺と取引しないか? 明日、優斗が転入生に告白したら、10万円やるよ」

「10万円。そんな金ゴローが持ってるのか?」

「バイトで貯めたんだよ 」


 そう言ってゴローはこっそりと預金通帳を見せる。確かにそれなりの金額が入っていた。


「バイトで稼いだんだ。もし告白ものにしたら、上げてやるよ」

「上等だ。その賭け乗ってやる」


 ゴローと別れた後、俺の家でもありおじいちゃん家でもある、我が家へと帰った。だが、おじいちゃんはこの家にはもう居ない。


「よし。見舞いにでも行くか」


 俺は自転車を走らせて、おじいちゃんのいる病院まで向かう。途中花屋に寄って花を買って向かう。


 ナースさんの案内通り、病室までいくと、個室でおじいちゃんは目をぱっちりと開けて俺の方を見ていた。


「優斗! 彼女はできたか?」

「その話はいいだろ」


 毎回おじいちゃんはこの話を聞いてくる。


「また振られたな。いいか、優斗。お前の両親が亡くなった今、藤原家の跡取りはお前だけだ」

「そうだけどさ。お父さんは一人っ子だったし」

「そうだ。優斗。必ず男の子を産むんだぞ。そのためなら二股までならしてもよい」

「いやいや、二股はダメでしょ。浮気じゃん」

「藤原家の家訓じゃ。優斗。約束してくれ。必ずいつかいい人と巡り会い、そして結婚して、男の子を産むと」

「はいはい。分かったよ」


 俺はおじいちゃんと話しながら花瓶に水を入れ、買ってきた花を入れる。


「花など要らんとあれ程言ったろうに」

「いいんだよ。気持ちだから受け取ってくれ、おじいちゃん」

「ああ。最後になるが優斗。チャンスは目の前にひょいと現れるものだ。大切なことはそのチャンスを掴み損ねないことじゃ」

「また説教?」

「違う。ワシはもう永くない。だから優斗。伴侶を持て。妻を、作れ」


 「もう永くない」とか言うなよ。そんなんじゃなにも言い返せないじゃんか。


「分かったよ、おじいちゃん。また来週来るから」


 おじいちゃんから返事がなかった。俺はそのまま病室を後にしたが、その夜、21時頃に病院から電話がかかってきた。おじいちゃん、死んだって。荷物を取りに来て欲しいと、ナースさんは電話で言っていた。


 荷物を取りに行くと、担当のナースさんが荷物や書類を渡してくれた。その際のこと。


「辛いだろうけど、頑張ってね」


 そうか。俺、今日で天涯孤独になったのか。まさか、こんなあっさりと、あっけなく。


 一人で行う葬式も、告別式も全て。


 おじいちゃん、最後の言葉が「妻を、作れ」だなんて、相手が見つからなきゃ意味ないだろ。


 俺、百人も告白したんだよ。でも、一人も付き合ってくれなかった。


 なんで、誰も俺を必要としない?


 俺に存在価値はあるのか?


 唯一の肉親、おじいちゃんを失って。


 俺は今、真っ暗な家の中。


 ベッドでただ時間を怠惰に過ごしていた。


 惰性で見ている端末の記事も、殺人だ強盗だ、人身事故だとうるさい。


 あーあ。


 死のうかな。


 なんて考えて首を吊る方法をネットで調べて、実践しようと思ってたその時だった。


「ドガガァァァァァァァァ!!!!」


 外で爆発音が聞こえた。そのせいで首を吊ることもできなかった。なんだ? 俺は今わずかに抱いた好奇心を胸に音のする方へ向かった。すると、地球軍の帰還カプセルが裏庭に落ちていたのだ。


 要は戦闘機や母艦から離脱して地球に還る装置だと思われる。


 俺は高校の授業で習った現代史を思い返していた。神話の時代から月と地球は戦争をしている。月人と地球人に生物学的な違いは無い。だが、住む星が違うという点で月人と地球人は争い続けている。


 俺は帰還したカプセルの元へと向かった。するとそこには1人の白髪の美少女が居た。目が覚めないのか、俺は近づいて見て声をかける。


「大丈夫ですか?」


 だが、返事は無い。普通なら帰還カプセルは軍の敷地内に落ちるはず。そして、軍が回収するはずなのだが、軍の人も来ない。つまり、これは不運な事故。だが、俺はなんだか、この出会いが不思議でたまらなかった。


 自殺しようとした矢先、この少女がその自殺を止めるかのように現れた。白髪ボブの少女は眠り続けている。とりあえず俺のベッドまで運んであげた。


 この少女をどうしようか、と考えた時、目覚めのキス、という単語が脳裏を過ぎった。え、今やるの? だが、タイミング的に今しかない。ここで男気を見せろ。おじいちゃんは言っていた。チャンスをものにせよ、と。


 俺はこの少女とフレンチキスをした。柔らかな唇の感触が妙に新鮮だった。すると、やはり少女は目覚めた。俺のファーストキスだった。


「あなたは?」

「俺は藤原優斗。君は?」

「分からない」


 この少女、記憶喪失なのか?

 なら、ここで男を見せろ!


「君の名は、知らない。だが、一つ、お願いがある」

「お願い?」


このチャンスをものにしなくてどうするよ!


「俺と付き合ってくれないか?」

「いいよ.........」


 よっしゃぁぁぁぁ!

 ついに!

 ついに!

 彼女が出来たぞ!


「私、眠くて。このまま寝てもいいですか」

「わかった。そのベッド使っていいから」


 眠り姫が眠りに就くと、俺はふとスマホを取り出す。


 メッセージにはゴローから連絡が入ってた。


 5/18

 ゴロー:大丈夫か? 忌引って。おじいちゃん亡くなったんか?


 5/18

 ゴロー:転入生、めちゃくちゃ美人だったぞ。というか姫らしい。


 5/19

 ゴロー:大丈夫か? 返信くれ


 5/20

 優斗:大丈夫。心配ありがとう。明日には学校復帰できるよ。


 5/20

 ゴロー:おう。待ってるからな。


 俺に存在価値なんてないかもしれない。だが、少なくとも親友のゴローはいる。それに、謎の帰還兵の少女もいる。彼女を放っておけない。


 一時は死のうとか考えてみたけど、やめた。天涯孤独だけど生きなきゃ。いつかできるかもしれない伴侶のために。だって、諦めたら、おじいちゃんとの最後の約束「妻を、作れ」を守れないから。


 おじいちゃん。自分が亡くなったら、きっと俺が天涯孤独にならないように彼女を作れって言ってくれてたんだな。今になって分かるし、めちゃくちゃ身に染みる。


 仕方ない、明日は学校に行こう。


 だが、この時の俺は想定していなかった。明日の学校もいつもと変わらない日々が続くんだろうなと思っていた。イレギュラーは家の記憶喪失少女だけだと思っていた。


 だから知る由もない、明日、学校で起こる今夜とは違うもう一つの奇跡に。


 転入生はユーラシア連盟の姫、ヘレーネ・ルイス・クリスタル。そして、俺の人生はこの女性ヘレーネと今日出逢った帰還兵の少女の狭間で 大きく変化することになる。




 ※作者より

 第一話をお読みくださりありがとうございます。


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