002
殿下に婚約解消を勧めて、夜。私は一人、自室で改めてと机に向き合っていた。
「
小さな声で口に出しながら、情報を整理する。
前世の記憶と思われるものが溢れたのが十歳になる手前のこと。その頃にはすでに殿下との婚約が調っていた。それから数度のお茶会は経験済み。現在、私は十二歳。記憶が戻ってからも定例のお茶会には参加。すぐに婚約解消を提案しなかったのはこちらとしての準備があったからと私自身が混乱の渦中にあったから。
「まぁ、お父様、お母様はもちろんお兄様や弟に迷惑かけられないもの」
きちんと根回しはしておかないといけなかったから。突然変わってしまったら、何かに呪われたのか、乗っ取られたかと考えてしまうだろう。乗っ取りに関しては近しいものがあるけれど私は
「
私もそうと認識している。記憶は共有されているし、違う人間かと言われたら否と言えるけど、同じ人間かと言われたら是とは言い難い。口から出る言葉は基本、
「確証はないけれど、恐らく精神を守るための防御本能というものかしらね」
多重人格になってしまう人は精神を壊さないようにするために新たな人格を生み出すという話を前世で聞いたことがある。それと同じようなことが私の内と外で現れてしまったのかもしれない。いずれはどちらかに沿うか、混ざり合うかもしれない。多分、そんな気がする。
「それにしても、記憶を思い出すのはもう少し早くても良かったんじゃないかしら」
なぜ、婚約した後なのか。残念で仕方ない。でも、まだ運はいい方だろう。バッドエンドになるだいぶ前に思い出せたのから。残念ながらタイトルは思い出せないのだけど、売り出し文句が『さぁ、
でも、あながちこの売り文句間違ってなかったのよ。プレイしてて思ったのはやたらバッドエンドが多い。これでもかというほど盛り込まれている。どこぞの同人ノベルゲームかと思うほどに。
「一歩、間違えるだけでバッドエンドではないだけいいのかしら」
あれは選択肢を間違えたら、アウトだった。何度、見ただろう虎道場。
ここは学園に入ってからが本番。選択肢を一回間違えたくらいでは死なないけれど、積み重なれば一直線。ヒロインのバッドエンドは大抵死ぬ。死なないこともあるけど、それは大体メリーバッドエンド。ヒロインの精神が死ぬタイプ。
「結局死んでたわね」
とはいえ、私はヒロインではなく、彼女の敵役。ヒロインが死ぬのだ、敵役である私が死なないということはあるだろうか? いや、ない。高確率で死ぬ。生きてる道もあるけど、それは精神崩壊している。あ、やっぱ死んでるか。
「ヒロインに殺され、婚約者である殿下にも殺され、兄弟にすら殺されるのだったかしら」
ルートによって違うけれど、どうしても殺される。ちなみに殿下はネットで「
「諦めて殺されるほど潔い人間ではないのよね、
だから、ひとまず確率だけでも減らそうと兄弟の懐柔はやってるし、いつでも逃げられるようにと商会も立ち上げてもらった。後、孤児院も作ってもらったんだっけ。
逃げるにしても元手はいるし、協力者も必要だ。少しでも打てる手は打っておかないといけない。
「兎にも角にも攻略対象者には近づかないのは鉄則ね」
攻略対象者は侯爵家令息(宰相のご子息)、伯爵令息(騎士団長のご子息)、豪商の息子、隣国の王族(留学生)に我が婚約者である第
「一番は殿下の婚約者から外れることね」
そう。これが一番バッドエンドから離れられるはず。バッドエンドの高確率の原因は殿下でしかない。むしろ、あの方そのものがバッドエンドと言ってもいい。
豊富に用意されているバッドエンドは私もヒロインも殿下がダントツ。他の攻略者のバッドエンドは一つか二つに対して殿下は両手で数えられないほど。なんで、そこに力を入れた。もう少しやりようがあったでしょ。ハッピーエンドやトゥルーエンドは一つずつしかないのに。
「取り敢えず、提案はしたから後は殿下の動きを見るしかないわね」
殿下にとっていい提案のはずだから、乗ってくれると嬉しいんだけどね。ま、きっかけづくりに嫌われるように立ち回るのがいいかもしれないね。
考えが一段落すると私は整理するために書き出したメモをまとめ、引き出しの底に隠した。見つかって騒動になるのは防ぎたいし。
そして、明日の予定も確認し終えるとベッドに潜り込んだ。緊張か疲れからか私はスゥっと夢の世界に落ちた。
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