悪役令嬢はバッドエンドの手の中
東川善通
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「ローズモンド・ジラルディエール公爵令嬢、リーズ嬢への器物損壊、また狼藉者を使っての強姦未遂。自らのままになると思っている暴悪な貴殿は国母として相応しくない! よって、エルキュール・ヴェルディエ王太子殿下との婚約は破棄とする!!」
卒業パーティ。残り僅かな学生生活の締めとして歓談している中、壇上の上からそんな叫び声が聞こえた。それと同時に私の腰にある手に力が入る。全く、誰に承諾を得てそんなことを言ってるのかしら。大体、自らのままになるのであったら、このようなことになってないでしょうに。
「……ふくっ、あれらは誰の許可を持ってああ叫んでるんだ?」
「さぁ、どなたなのでしょう。それよりも殿下、腹に力を入れて笑いをこらえてくださいまし」
「くくっ」
笑いをこらえてと言ったのにこの人は。
そう、私の隣には王太子殿下であるエルキュール様がいる。えぇ、偽物ではありませんよ。何故いるのかといえば、簡単。私が彼の婚約者であり、あの壇上で暴悪と呼ばれたローズモンドだから。婚約者なのだから、今回もエスコートされて当然でしょう。
ちなみに壇上で叫んでるのはエルキュール様ではなく、彼の側近……候補
「あの後ろの連中」
「えぇ、しっかりと覚えましたわ」
リーズ嬢を守るように後ろで控えている男性陣。よく一緒にいるところを見たもの。覚えているし、このようなことに参戦したこともしっかりと記憶させてもらったわ。でも、残念ね、彼らもとうとう辛うじてついていた候補の文字が外れるわね。勿論、悪い意味でよ。きっと彼らを反面教師にして彼らの兄君や弟君は頑張るのじゃないかしら。そもそも嫡子ではない次男やら三男、四男がこんな問題を起こしてただでいられるわけがないでしょうに。もしかして、自分たちの方が正当だと思ってるの? 普通に考えてもあり得ないわ。
そんな中でも群衆は割れ、私たちの前に壇上への道が開かれていた。そして、私の姿を見た彼らは忌々しいものを見るような顔。リーズ嬢に関しては胸の前で手をくみ、目をうるうるさせている。そして、何を思ったのか彼女が口を開いた。
「エル様、すぐに私が解放してあげますから」
彼女の呼び方に、は? となり、私は呆れた。婚約者でもない上に親しくもないはずの娘が王太子を愛称で呼ぶだなんて。ちらりと斜め上にあるエルキュールの顔を覗き見たけれど。えぇ、すごい顔ね。王太子がしていい顔じゃないわよ、多分。何言ってるんだと不快感満載じゃない。
「ローズモンド様に洗脳されているだけですものね」
「ローズ、あれは何を言っているんだ?」
「さぁ、
こそこそと私とエルキュール様は話し合う。だって、意味がわからないもの。けれど、そんな私たちに関係なく、彼らは事を強引に進めていく。いかに私がエルキュール様を洗脳したのか、とうのこうのと言ってるけど、洗脳できたら、さっさと婚約解消してるわ。
そんなことを考えてしまったのがバレたのか、耳に蠱惑的な低い声で名前を吹き込まれる。耳が孕むわと睨むように見上げれば、にこりと目の笑ってないエルキュール様。バレてるわ、これ。バレてないわけがないわ、これ。スッと目を逸らせば、グイッと腰を引き寄せられる。
「解消はしないからな」
「わかってますわ」
むしろ、できないでしょうに。わかっててそれを言うのだから質が悪いわ。
「
そんな中、そう声が響いた。キラキラとした光がエルキュール様に降り注ぐ。えぇ、キラキラとした光が降り注いだわ。
「「「???」」」
「「「おおっ!!」」」
そもそもね、魅了の解除は
「
エルキュール様はちらりと私の腰に回している親指を見て、そう零す。私もエルキュール様の親指を見れば、白銀の指輪に嵌められたコバルトブルーの水晶が気色悪いどす黒い赤色に染まっていた。え、どうしたらそうなるの? いや、それよりも――。
「どこで覚えましたの、そんな言葉」
「君がよくボソリと呟いてただろう」
「お耳が大変よろしいようで」
「ふふっ」
思い返せばよく呟いていたかもしれないわ。ほんと、耳と勘が良すぎるのはいかがなものかしら。
「エル様、コレで魅了は解除できましたわ」
私たちのやりとりを見てなかったのかキラッキラの笑顔でそんなことを言ってくれるリーズ嬢。すごいわね、この子。私の周りの人間はドン引きよ。何言ってんのこの子っていうのが一番ね。
「どうしてやろうか、この娘」
にこりと口だけに笑みを浮かべたエルキュール様にキラキラの笑みのリーズ嬢。そして、リーズ嬢を称えるバカたちに困惑しかないパーティの参加者たち。そんなカオスな会場に私は早く帰ってベッドにダイブしたい、なんて思う。
面倒ごとを避けるように色々とやってきたつもりなのに、結果が目の前のこれだもの。
ほんと、どうしてこうなったのかしら。
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