第9話 悪役貴族は薬草採取に行く






「薬草採取、ですか」



 E級への昇級試験に合格した翌日。


 俺たち【竜の古城】は、受付のお姉さんからおすすめのクエストを斡旋してもらっていた。



「はい。本来はF級冒険者のクエストですが、【竜の古城】は冒険者になったばかりですし、実入りも悪くないですよ。薬草はポーションの材料にもなりますから」



 朗らかな笑みを浮かべる受付のお姉さんに、アオイが噛みつく。



「小娘、お前はご主人様に草むしりをしろとでも言うつもりですか?」


「アオイ、ちょっと静かにね」


「承知しました、ご主人様」



 アオイは美人だし爆乳だし、俺に対する好感度マックスだけど、この言動はどうにかならないものだろうか。


 あとでしっかり言い聞かせよう。



「分かりました。そのクエスト、お受けしますね」



 俺たちの初クエストは薬草採取で決まり、早速危険地帯にある森に向かう。


 ここで改めて危険地帯について復習しておこう。


 そもそも危険地帯とは、アインザッツ王国の辺境にある、魔獣が大量発生する地域のことを指す。


 フロンティナの街から近い順にライム平原、ベアトリクス大森林があり、その地下にトリオン大空洞があるのだ。


 ちなみに古城があるのはベアトリクス大森林を抜けた先にある断崖絶壁の上だな。

 空を翔べば一瞬だが、歩いて行くとなると移動に数ヶ月はかかるであろう場所にある。


 そして、今回のクエストのお目当ての薬草は、ライム平原とベアトリクス大森林の境界付近にあるとのこと。


 俺はライム平原とベアトリクス大森林の境界に向かう道中で、アオイに少しお説教する。



「アオイ、一つだけ言いたいことがあるんだ」


「何でしょう、ご主人様?」


「あまり周囲に乱暴な言動をしちゃ駄目だよ。アオイが俺のことを慕ってくれてるのは嬉しいけど、だからって俺以外を蔑ろにすると浮いちゃうから」


「?」



 俺の注意を聞いて、アオイが首を傾げる。


 え? もしかして無自覚なの? それはそれでちょっと怖いよ!!



「ほら、アオイ。ママも言ってたじゃない。人間は群れて襲ってくると厄介だって。ご主人様は不用意に敵を作るなって言いたいのよ」


「……なるほど。そういうことですか。たしかに人間はすぐ敵を作りたがりますからね」


「えっと、まあ、そういうこと」



 アカネが俺の発言から意図を噛み砕いてアオイに教えてくれる。



「承知しました。できるだけ気を付けるようにします」


「そこで断言はしないかあ」



 少し心配だな。……それにしても。



「当たり前だけど、二人にもお母さんっているんだね。どんな人――いや、竜なの?」


「お母様ですか? ……とても強い竜ですよ。紫色の鱗を持ち、とても美しい御方です」


「ここ数百年は会ってないですねー」



 数百年って、アオイたちは何歳なのだろうか。



「あ、そうだ。うふふ、今度ご主人様を紹介しに里帰りでもしましょうか、アオイ」


「そうですね。ご主人様、よろしいでしょうか?」


「うん。俺も二人のお母さんに会ってみたい」



 二人の母親ということは竜なのだろうが、果たして人化したらどうなるのか。

 もしかしたら二人以上の爆乳を持っているかも知れない。


 ……別に下心は無いよ。無いったら無い。



「さて、そろそろ目的地だ。薬草を探してみよう」


「承知しました」


「はーい♪」



 ライム平原とベアトリクス大森林の境界付近に辿り着いた俺たちは、手分けして薬草を集める。



「お? 薬草、発見!! 周りの土を掘って、根っこを傷つけないように丁寧に取らないと」


「ご主人様、この薬草でしょうか?」


「うん? あ、そうそう――ちょっと待って」



 アオイが採ってきた薬草は、根本から引き千切られていた。

 この状態では数を納品しても、報酬は大して得られないだろう。


 ちなみにアカネが採った薬草も同様だった。



「……うん。二人は薬草を見つけたら、俺に教えてね」



 二人は竜だから鼻が良いのか、見つけること自体は恐ろしく早いのだ。


 ただ力こそパワー、というだけで。


 俺は二人が見つけた薬草を掘って集め、そこそこの数になった。



「これ、結構な額になりそうだね」


「流石はご主人様です。薬草を採る姿が様になっておりました」



 褒められてるのかな?



「……む。ご主人様」


「ん? アオイ、どうしたの?」


「森の方から何者かがこちらに近づいてきます」



 アオイが何者かを察知し、俺は身構える。


 ベアトリクス大森林はオークやゴブリンのような亜人や魔獣が多く生息する場所だ。


 まあ、アオイやアカネもいるし、俺たちが遅れを取ることはないだろうが……。


 何事も警戒するに越したことはない。


 俺はアオイの言う何者かがどのタイミングで森から姿を現しても良いように、魔法の詠唱を済ませておく。



「……来ます」



 アオイが言うと同時に、森の中からドレスアーマーをまとった女の子が飛び出してきた。

 金髪碧眼の美少女で、重傷を負った仲間と思わしき男の子を抱えている。


 女の子本人も怪我をしているらしく、頭から血を流し、左腕はだらんとしていた。



「だ、大丈夫ですか!?」


「っ、なっ、どうして人が……」


「動かないでください!! すぐに治癒魔法をかけますから!!」



 俺が女の子に駆け寄ろうとすると、女の子はその場で叫ぶ。



「我々に構わず逃げてください!! でないと貴方たちまで!!」


「え、逃げる? ……おうふ、そゆことね」



 その直後だった。


 上空を無数の影が舞った。

 そのシルエットは初めて会った時のアオイとアカネに似ている。


 しかし、二人よりもサイズ感が二回りは小さかった。



「ワイバーンの群れ、か」


「百……いえ、百五十はいますね」



 ワイバーン。


 一頭であれば大した脅威にはならないが、恐ろしいのは連中が群れを為した時だ。


 一のワイバーンは村を滅ぼし、十のワイバーンは街を滅ぼし、百のワイバーンは国を滅ぼすというのは有名な話である。


 それが大体百五十とか、まじっすか。


 国軍が全力で出撃しても抵抗する間もなく全滅する程の数だ。



「我々が迂闊だったのです!! 誤ってワイバーンの巣に足を踏み入れてしまって……」


「……なるほど。事情は分かりました」



 これは一大事だ。


 これだけの数のワイバーンがいたら、フロンティナの街など容易く滅ぼしてしまうだろう。


 フロンティナが滅びたら、古城が直るまで更に時間がかかる。


 それは嫌だな。



「ご主人様、どうなさいますか?」


「倒すよ。じゃないと街が危ないし」



 別に正義感とかではない。


 俺の快適な引きこもり生活が遠退いてしまうのを避けるためだ。


 さて、どうやって倒そうか。



「あのワイバーンたち、随分と怒っているようですね。同胞を大勢やられたそうです」


「あ、そ、それは私たちのせいです……。襲われて咄嗟に百体ほど殺してしまって」



 女の子が申し訳なさそうに言う。


 え? じゃあワイバーンの数は元々二百五十体もいたってこと?


 えぇー、この女の子、何者なのよ。


 嘘を言ってる気配も無いし、実は相当な実力者だったりするのかな。


 S級冒険者……は、無いか。

 ゲームに出てきたS級冒険者はワイバーン数百匹に苦戦するようなキャラじゃなかったし、そのキャラと同格とは思えない。


 せいぜいA級上位の冒険者ってところかな。



「ま、何でも良いけど。――〝暴嵐刃ぼうらんじん〟」



 俺は魔法で竜巻を起こし、真空の刃が空中を舞うワイバーンたちに襲いかかった。


 竜巻に飲み込まれたワイバーンは全身をズタズタに斬り刻まれ、真っ赤な血を撒き散らす。

 血が竜巻を赤く染め、肉塊となったワイバーンたちが落ちてきた。


 あぶねっ。



「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」



 半分以下にまで減ったワイバーンたちが、俺を敵として定めたらしい。


 俺を抹殺するべく一斉に急降下してきた。


 取り敢えず結界魔法で防御して、また暴嵐刃で斬り刻むか。


 と、思ったら。



「たかが飛べるだけの蜥蜴の分際でご主人様を『食い殺してやる』、だと?」


「あらあら、うふふ。……竜のなり損ない如きが調子に乗らないで欲しいわね?」



 どうやらワイバーンの咆哮には言葉としての意味があったらしい。


 その咆哮に、アオイとアカネがブチギレた。

 





――――――――――――――――――――――

あとがき

力こそパワーなメイドラゴン、作者は良いと思います。


作者のモチベーションに繋がりますので、「読者もそう思います」「あれ? 薬草採取がワイバーン退治になってる……」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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