第10話 悪役貴族はお金持ちになる






「ご主人様に牙を剥いたこと、冥府で後悔しなさい」



 アオイが羽ばたいて、ワイバーンの脳天に拳を振り下ろす。


 ワイバーンは頭の中身をぶちまけながら、地面へ打ち付けられ、ビクンと痙攣した後、動かなくなる。


 ワンパンだった。


 幾匹かのワイバーンがアオイを危険と認識して距離を取る。



「うふふ、えいっ」


「グオッ!?」



 アカネがそれらのワイバーンを仕留める。


 アカネはワイバーンの背面に回り込むと、可愛らしい掛け声と共にその首をねじ切った。


 頭とお別れしたワイバーン胴体から、大量の血を噴き出してくる。



「うわ、グロい……」


「す、凄まじい……私よりも数段強いですね……」


「あ、今のうちに治療しますね」


「あ、えっと、ありがとうございます」



 俺はアオイとアカネがワイバーンたちを殲滅している間、女の子とその仲間に治癒魔法を施す。


 仲間の男の子の方は重傷だったので、目覚めるまで時間はかかりそうだ。



「な、なんと凄まじい治癒魔法!! 貴方は、貴方たちは何者なのですか!?」


「新人冒険者のハイドです」


「し、新人? 貴方たち程の実力者が?」


「昨日冒険者になったばかりでして。そちらは?」



 俺が名前を問うと、女の子はハッとした様子で頭を垂れた。



「っ、し、失礼しました。私はセシリアと申します。まずはこちらが名乗るべきところでしたのに」


「セシリアさん、ですか? え、たしかセシリアってS級冒険者の……」


「はい。お恥ずかしながら、【聖女騎士】という二つ名を賜っております」



 S級冒険者、【聖女騎士】。


 その二つ名を知らない者は、きっとこの世界にいないだろう。


 ゲーム知識が無い状態、つまりは前世の記憶を取り戻す前のイヴですら知っている有名人だ。


 曰く、たった一人も殺すことなく戦争を終わらせた大英雄。

 不殺の女騎士、あるいは救国の聖騎士と呼ばれる人物だ。



「ほ、本物ですか?」


「あ、あはは。まあ、たかがワイバーン数百匹に手こずるようなS級冒険者など前代未聞ですし、信じられないでしょうけど。い、一応、言っておきますが、私は対人専門なんです!! S級だってピンキリなんですよ!!」



 別に俺は何も言っていないのだが、一人で弁明を始めるセシリア。


 いや、俺はそういう意味で言ったわけじゃないけど……。


 そうか、S級はピンキリなのか。


 っていうかセシリア、よく見たら可愛いなー。年齢は十七、八歳くらいか? お胸が控えめなのは残念だが――


 いや、待て。セシリアも十分巨乳だ。


 アオイとアカネの爆乳のせいで目が肥えてるだけだな、こりゃ。



「ご主人様。蜥蜴共の殲滅、完了しました」


「お疲れ様ー。返り血すごいことになってるね」



 ワイバーンを皆殺しにしたアオイは、頭から爪先まで真っ赤に染まっていた。



「っ、申し訳ありません。ご主人様から賜ったメイド服を汚してしまうとは……」


「あー、大丈夫大丈夫。浄化魔法で綺麗にできるから。ほいっと」



 浄化魔法は便利だ。


 寝る前に使うと、ひとっ風呂浴びたような感覚になるからな。


 さっぱりして気持ちいいのだ。



「流石はご主人様です。お手数をおかけしました」


「いいよいいよー。それより、ワイバーンの死体はどうしようかな」



 ワイバーンのお肉は美味しくないらしいし。


 あ、冒険者ギルドに売っ払ったらそこそこ良い金になるんじゃないか?


 でも相場とか分かんないし、買い叩かれる可能性もあるよなあ。

 あのギルドマスター、ジークなら大丈夫かも知れないけど。


 どこかに相場の分かるベテラン冒険者がいないものか……。あっ。



「あのー、セシリアさん!! ちょっとお願いがありまして!!」


「え? あ、はい、なんですか?」



 俺はセシリアにある提案をする。



「ワイバーンをできるだけ高値で売って、そのお金を山分け、ですか? しかし、私たちは半分も倒してないですし……」


「そこはほら、手数料です!! お互いに悪くない話だと思いますよ!!」


「小娘、ご主人様のお役に立てることを光栄に思いなさい」


「アオイ、静かにね」


「承知しました」



 セシリアはアオイの言葉に気分を悪くするわけでもなく、ゆっくりと頷いた。



「分かりました。仲間を助けてくださった恩もあります。私とてS級の端くれ。交渉は任せてください!! ……と言っても、ワイバーンの死体をどうやって持ち帰りましょうか? 人を雇って荷車を借りたらいくらになるか……」


「あ、じゃあそこは俺が何とかしますよ」



 俺はワイバーンの死体を異空間に収納する。


 空間魔法を応用した、アイテムボックスみたいなものである。


 ワイバーンが虚空に消える様を見たセシリアがぱちぱちと目を瞬かせた。



「い、今のは?」


「ふふふ、内緒です」



 イヴの魔力と俺の発想が為せる技というものよ。


 こうして俺たちはセシリアと共にフロンティナの街へ帰還した。

 ワイバーンの死体を冒険者ギルドに持ち込み、セシリアがジークと交渉。


 まだ査定に時間がかかるため、正確な売却額が決まるのはまだ先だが、即金としてかなりの大金を受け取った。


 一気にお金持ちである。



「これだけあれば!!」



 俺はセシリアと別れ、お金の入った袋を片手にガンテツ工房を訪れる。


 工房に立ち入って、一言。



「ガンテツさーん!!」


「そんなデカイ声で呼ばんでも聞こえるわい。今日はどうした?」


「お金、持ってきました!!」


「何? ……本物だな。どうやって稼いだんだ?」


「ワイバーンを何百匹か売りさばきました」


「ははは、面白ぇ冗談だ。ま、どんな金であれば金は金だ。古城の修繕だったか?」



 あれ? なんか冗談だと思われた?


 ……まあ、メイド二人と子供一人がワイバーンを倒したとか普通は信じられないか。



「まずはその城を見てぇな。お前さんの言う古城とやらどこにあるんだ?」


「ここから少し行ったところですよ」


「なに? この辺りに古城なんぞ無かったはずだが……」


「案内します!!」



 俺はガンテツを連れて古城に向かった。


 もちろん、飛翔魔法を使った亜音速移動で。



「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


「あはは、ガンテツさん声デカイ!!」


「待て待て!! 聞いとらん!! オレこんなの聞いとらん!!」


「喜びなさい、鉱人。ご主人様と共に翔べることは幸福なことなのですよ」


「いや知らん!! とにかく降ろせ!! オレ高いところは無理――おぇ!!」


「あらー、お空にキラキラが……。ご主人様はお空を飛ぶのが楽しくて気付いてないみたいだけど、面白そうだし黙っておきましょ♪」



 こうして俺たちは古城へと戻るのであった。







――――――――――――――――――――――

あとがき

作者の一言

亜音速でゲロを散布するとか迷惑すぎる。



作者のモチベーションに繋がりますので、「面白い!!」「ガンテツが気の毒すぎる」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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