第11話 悪役貴族のお城は綺麗になる





「ぜはあ、ぜはあ、酷い目に遭ったぜ……」



 古城付近に到着し、地面に降りた瞬間、ガンテツがゲロを吐いた。


 うわ、汚い。


 いやまあ、何も言わずにいきなり飛翔魔法で亜音速移動した俺が悪いのかも知れないけど。


 仕方ないじゃん。

 誰だってお金持ちになったらテンション上がっちゃうでしょ。


 古城の修理だってできるし。



「ふぅー、吐いたらスッキリしたぜ。で、こいつがお前さんの言ってた古城か?」


「あ、はい。……直せます?」


「……ふむ」



 ガンテツが古城の周りをぐるりと一周し、時々首を傾げたりして、最後に頷いた。



「天井や壁が崩落してて見た目は酷い様だが、柱や床の石材は大丈夫そうだ。これならすぐに直せるぞ」


「本当ですか!?」


「ああ。ただ、結構な資材が必要だな。木材はもちろん、石材もそれなりに要る。何より人員だな」


「あ、それなら――」



 俺は土魔法を使って、ゴーレムを生み出す。


 ガンテツが突然土からニョキニョキ生えてきたゴーレムを見てギョッとした。



「こ、こりゃ、ゴーレムか?」


「はい。細かい指示も聞くゴーレムです」


「すげぇな。……ふむ。となると、石材と木材だな。こいつばかりは街で買うしか――」


「あ、じゃあそれも用意しますね」



 俺は土魔法を応用して、地中深くに眠る岩を地面から露出させる。


 そして、適当な樹木に土魔法と風魔法、それから光魔法の合わせ技である生命魔法をかけてみた。


 樹木は急速に成長し、大木となった。



「なっ……」


「あとは風魔法で切断して加工しますね。大きさはどのくらいがいいですか?」


「ぬぁんじゃこりゃあ!?」


「うわ、ビックリした」



 急にガンテツが森に響くような大きな声を出してビクッとなる。


 え、なに? どうしたの?



「こ、こりゃ、坊主。お、お前さんがやったのか?」


「そうですよ? あ、一応誰にも言わないでくださいね」


「え、あ、お、おう」



 ふぅ、危ない危ない。


 どうやら俺はまだテンションが上がっていたらしい。


 開き直ったから目立つことは構わないけど、凄腕の魔法使いとなると俺の正体、イヴに結びつきかねないからな。


 しっかり口封じはしておかないと。



「そうか、お前さん魔法使いだったのか。それも凄腕の。噂に聞く『神子』とやらより上なんじゃねぇか?」


「ギクッ」



 す、鋭いぞ、このドワーフ!! 適当に誤魔化さねば!!



「ま、まさかあ。あんな酷い噂の人と一緒にしないでくださいよー」


「はははっ、だな!! 坊主が噂に聞く神子様ならもっと最低最悪のクソ野郎だろうさ!!」


「ぐっ」



 いや、たしかに事実だけども。正面から言われると傷つくわー。


 俺が心に傷を負ったとは露知らず、ガンテツが資材とゴーレムを交互に見比べて大まかな工期を見積もる。



「ふむ、これならすぐ作業にとりかかれば一、二ヶ月で直せちまうな」


「え!? そ、そんなに早く!?」


「おうよ、ドワーフの技術を舐めるなよ?」



 凄い。流石ドワーフ。



「ふむ。では早く作業にとりかかりなさい、鉱人」


「お、おう。えらく態度のデカイメイドの嬢ちゃんだな」


「当たり前でしょう。ここはご主人様と私たちの愛の巣となるのですから。早急にご主人様の子種を賜りたい私としては一分一秒とて無駄にしたくはないのです」


「ほほーん?」



 ガンテツがニヤニヤする。


 まるで面白いことがあったら何かと弄ってくる近所のおっちゃんみたいな顔だった。



「坊主も隅に置けねぇな!! こんな美人な嬢ちゃん二人とズッコンバッコンやるってかい?」


「ま、まあ、あはは」


「こりゃ気合入れねぇとな!! 一ヶ月で仕上げてやるよ!!」



 おお!! それはありがたい!!


 あ、いや、別に俺がアオイやアカネと大人なことをしたいわけじゃなくてね?


 でも一ヶ月かあ。


 どうにかしてもう少し時間を短縮できたりしないかな? あっ、そうだ。



「ガンテツさん、強化魔法とか要ります?」


「ん? 強化魔法?」


「はい。きっと作業スピードが上がると思います!!」


「ほう? じゃあ頼めるか?」


「分かりました。そいっ!!」



 俺はガンテツにありったけの強化魔法を施した。


 筋力増強パワード敏捷加速アクセルの他にも使えそうな強化魔法をかける。



「お、おおおお!? す、すげぇ!! 身体が羽毛みたいだ!! ぐっ、まるで新人だった若かりし頃のようなエネルギーで身体が満ちている!! 今日中に終わらせたらあ!!」



 ガンテツの身体がムキムキになって、上着がビリビリに破ける。

 そして、そのムキムキの肉体には不釣り合いな速度で行動を始めた。



「うわ、すっご」


「……ふむ。まあまあですね」


「あらー、みるみるお城が綺麗になっていくわー」



 驚くべきことに、わずか一日。


 なんと一日で古城がすっかり元通りになってしまった。



「お疲れ様です!! こんなに早く終わるだなんて!!」


「おう、へへへ。作ってる途中で楽しくなっちまったぜ。っと、もう日が暮れちまってらあ」


「フロンティナまで送って行きますよ?」


「すまん、助かるぜ!! ……ん? え、またあの空飛ぶやつか?」


「もちろん!!」



 俺は亜音速でガンテツをフロンティナまで送り届けた。



「きーもとぅいいいいー!!!! ガンテツさん、魔法空輸便はどうですかー? あれ? ガンテツさん? ガンテツさん!?」


「あおふ……」



 ガンテツが空中で気絶してしまった。



「情けないですね。やはり鉱人は洞窟にこもって石を拾う方がお似合いです」


「こら、アオイ。ガンテツは城を直してくれたんだぞ。失礼なことを言うのはダメだ」


「承知しました」



 フロンティナに到着し、気絶したガンテツをガンテツ工房に送り届ける。


 真っ白に燃え尽きた様子のガンテツを見て工房の従業員たちは大慌てだったが、まあ、きっと大丈夫だろう。



「あ、そうだ。ついでにワイバーンの査定が終わってないか冒険者ギルドに立ち寄ろっと。二人は先に城に帰ってていいよ」


「いえ、私はご主人様のお側にいます」


「私もー」



 そういうわけで、結局俺たち全員で冒険者ギルドを訪れる。


 俺は冒険者ギルドの建物の扉を勢い良く開いた。



「たーのもー!! ……え?」



 そして、目の前に立っていた人物に俺は硬直する。


 美しく長い銀髪とサファイアのように煌めく二つの瞳。

 アオイやアカネほどではないが、メリハリのある整った身体。


 腰の得物は余分なものを削ぎ落とした無骨とも言える意匠のレイピアが一本のみ。


 俺はその美女のことを知っている。


 いや、正確にはイヴとしての俺がその美女のことを知っている。



「剣聖、クレナ……?」



 そこに立っていたのは、『ドラゴンファンタジー』に登場する勇者の仲間の一人。


 旅の途中でイヴの配下に拐われ、洗脳されて主人公の前に立ちはだかるキャラ。

 そして、主人公との戦いを経て正気を取り戻す人物でもある。


 クレナはイヴを捕縛して辺境送りにした後、主人公に「私の身体は穢れてしまった」と言ってパーティーを離脱し、旅立つのだ。


 つまり、俺のことを殺したいほど憎んでいてもおかしくない女だった。


 やっべ、逃げよ。








――――――――――――――――――――――

あとがき


作者「即座に逃げる判断ができる、有能な主人公だ」


作者のモチベーションに繋がりますので、「面白そうな展開!!」「次回どうなる!?」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る