破滅後の悪役貴族に転生した俺は正体を隠して成り上がりたい!〜美少女美女揃いの勇者パーティーが俺の正体を知らないで仲間にしようと探してますが、気にせず辺境の古城で爆乳双子メイドラゴンと幸せに暮らします〜

ナガワ ヒイロ

第1話 悪役貴族のプロローグ







 冒険者ギルド。


 そこは冒険者たちにクエストを斡旋したり、酒場として交流を深めたりする憩いの場。


 俺はその中に堂々と足を踏み入れる。


 ちらっとこちらを見るベテラン冒険者たちが数人いたが、俺の後ろを歩く二人を見てサッと目を逸らしてしまった。



「少し睨んだだけで視線を逸らすとは。相変わらず雑魚ばかりですね、ご主人様以外の冒険者というのは。姉様もそう思いますよね?」


「こーら。いくら事実でも言っちゃメッ、よ?」



 メイド服を着こなす絶世の美女が二人。


 一人の髪色は淡い水色で、もう一人はピンクブロンドの髪色だった。

 顔は瓜二つで、一目で彼女たちが双子なのだと分かる。


 二人してメリハリのある身体をしており、大人気アイドルですら彼女たちの美貌の前では霞むこと間違いなしだろう。


 しかし、その美しい容姿に反して口にする言葉は苛烈そのものだった。



「なんだ、あいつら。オレたちのこと舐めてんのか?」


「馬鹿、やめろ!! 目を合わせるな!!」


「あん? なんでです?」



 冒険者たちを見下した言動のメイド二人に苛立ちを見せたのは、若い冒険者の男だった。

 若い冒険者はメイドたちに少し怖い思いをさせてやろうと近づこうとして、すぐにベテラン冒険者が止めに入る。



「あいつらはヤバイんだ。特にあの二人を連れてる、仮面を被ったちっこいのが一番ヤバイ!!」


「は、はあ?」



 若い冒険者は首を傾げた。

 普段は勇猛果敢で、オークの群れにすら単騎で挑むような尊敬する先輩冒険者が、たかがメイド二人をヤバイと言う。

 若い冒険者はその意味が分からず、ただ疑問を口にした。



「どこがヤバイんですか。ただのメイドが二人ですよ。ちっこいのだって大したこと無さそうですし」


「……あいつらはまだC級冒険者だが、その実力はS級に匹敵するパーティー、【竜の古城】のメンバーだ」


「は!? え、S級!?」



 S級。

 それは冒険者を目指すものならば誰もが憧れる、冒険者の等級だ。

 その数は世界に数人しかおらず、ごく一部の選ばれし超人のみが至れる最強の代名詞である。


 ベテラン冒険者は若い冒険者へ言い聞かせるように話を続けた。



「そうだ。そして、真ん中のちっこいのはそのパーティーリーダーだ。名前はハイドと言うらしいが、本人曰く偽名らしい。本名も出身も謎に満ちた、正体不明の冒険者。ただ絶大な魔力を持ち、圧倒的な破壊力の超魔法をいくつも扱うことから二つ名が付いた。その二つ名は――【破壊者】のハイド!!」


「は、破壊者……」


「後ろの二人はその従者だが、彼女たちもS級に匹敵する実力者だ。水色の髪の方が【無慈悲】のアオイで、もう一人のピンク髪が【残虐】のアカネだ」



 若い冒険者が困惑するのも無理はなかった。


 自分よりも歳下であろう子供と、その子供が率いるメイド二人が遥か格上の強者などと想像できるはずもない。


 だが、先輩であるベテラン冒険者の怯え具合は決して演技などではなく、本物だった。


 若い冒険者は、己の力を過信できるほど自惚れていなかった。

 その場で大人しく椅子に座り、ぬるくなってしまったエールのおかわりを注文する。



「とにかく、何があっても喧嘩は売るな。ちっこいのは人当たりが良いから構わんが、間違っても失礼なことは言うなよ。後ろのメイド二人が本気で殺しに来るからな」


「う、うっす。気をつけます」



 ……うん。まあ、全部聞こえてるけどね。


 俺は多少の悪口なら気にしないけど、俺の後ろを歩く二人は苛烈だからなあ。


 今だってほら。



「いくら偽名とは言え、下等生物がご主人様の名を口にするのは不快ですね。消し炭にしましょう、姉様」


「うふふ、駄目よー。ちゃんとご主人様に許可を取らないと」



 ハイドという俺の偽名を口にしただけで消し炭にする許可を取ってくるからね。怖いよね。



「そんな許可は出しません。早くクエストを受けて帰るよ。今日はオーク退治のクエストがあるといいなー」


「……残念です」


「うふふ、残念ねー」



 俺の命令には絶対服従のメイドたちだ。

 たまに暴走して怖い時もあるけど、基本的には従順で可愛い奴らである。


 二人を諌め、俺が冒険者ギルドの受付カウンターに座る受付嬢に声をかけようとしたタイミングで。



「ハイド!! 今日こそ私と共にダンジョンへ行こう!!」



 大剣を背負った赤毛の美少女が、冒険者ギルドの扉を勢い良く開け放って言う。


 冒険者たちがざわめく。



「お、おい、あれってたしか……」


「あ、ああ、S級冒険者【一騎当万】のザビーネだ。【竜の古城】と一緒にダンジョンに潜りたがってるという噂は本当だったのか……。この調子じゃあ、あの噂も本当だろうな」


「噂って?」


「ザビーネの他にも、【変態紳士】や【聖女騎士】のようなS級冒険者が総じて【竜の古城】を取り込もうとしてるって噂だよ。あの勇者パーティーですら連中を仲間にしたがってるって話だ」


「勇者パーティーまで!?」



 勇者パーティー。

 その名前を知らない者は、きっとこの世界にはいないだろう。


 残念ながら、俺が勇者パーティーに関わることは絶対無い。

 仮に他のS級冒険者パーティーに加入することはあっても勇者パーティーにだけは入らない。


 連中は俺を破滅させた張本人だからな。


 万が一にでも俺の正体がバレたら、今度は殺されてしまうかも知れないし。


 まあ、次に戦ったら負けることはないだろうが。



「さあ!! ハイド!! 私と共に――」


「おい、メス猿。それ以上ご主人様に近づかないでください」


「む!! また出たな、アオイ!! 今日という今日はハイドを勧誘させてもらうぞ!!」


「ご主人様は忙しいのです。今日はオーク退治の予定ですので」


「オーク退治よりもダンジョンの方がいい!! 絶対に後悔はさせん!!」


「しつこいですね。その首をへし折られたいのですか?」


「……フッ、やってみろ。その方が話が早い」



 アオイとザビーネが屋内でガチバトルを始める。



「今日のアオイ、怖いね。アカネもそう思わない?」


「うふふ。ご主人様が昨日、一晩中私を可愛がっていたせいですよ。アオイは嫉妬しちゃったんです。今日のお仕事が終わったら、あの子を可愛がってあげてくださいね」


「……うん。言われなくてもそうするよ」



 俺はふと、アオイとアカネに出会ったばかりの頃のことを思い出す。


 あれはまだ、俺が前世の記憶を取り戻してからすぐのことだったっけ。







――――――――――――――――――――――

あとがき

新作です。作者のモチベーションに繋がるので、「面白い!!」「続きが気になる!!」「もっと読みたい!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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