第6話 悪役貴族は正体を隠して成り上がりたい
ガンテツ工房。
フロンティナで活動する冒険者たちの武器や防具を打ったり、建物の修繕や日用品を作ったりと、手広くやっている街最大の工房らしい。
俺はガンテツ工房の建物に足を踏み入れた。
工房の建物から伸びる十数本の煙突がもくもくと白い煙を吐き続けている。
この工房の棟梁であるガンテツという人物なら、あの半壊してしまった古城を修理できるかも知れない。
「たーのもー!!」
中には凄い数の人がいた。
怒声に近い号令が辺りを飛び交い、俺の声に気付いたのはわずか数人。
その中でも一際身長の低いおっちゃんが声をかけてきた。
「なんでい、坊主!! ここは子供が遊びに来るところじゃねーぞ!!」
「あ、いえ、ガンテツさんを探していまして。……アポ無しだと会うのは難しいですか?」
「ん? オレに用事か?」
「え?」
どうやら声をかけてきた小さいおっちゃんが衛兵の話していたガンテツらしい。
というか、この人……。
「もしかして、ドワーフですか!?」
「おう。見るのは初めてか?」
「はい!! イメージ通りの見た目です!!」
ドワーフと言ったら髭もじゃで身長が低く、横に大きい。
少し失礼かも知れないが、樽のような体型を想像していたが、まさかのそのままだった。
「はっはっはっ、正直な坊主だ。気に入った。何か入り用かい?」
「実は――」
俺が壊れてしまった城を修繕したい旨を伝えると、ガンテツは難しい顔をした。
「できるかできないかで言ったら、できるな。もの作りでオレにできないことはない。城の修理を手伝ってやってもいい」
「おお!! じゃあ!!」
「と言いたいところだが、こっちだって商売だ。きっちり払ってもらうもんは払ってもらわなくちゃならん」
「あ、そ、そうですね!!」
そりゃそうだ。
世の中は何をするにしても金が要る。日本でもゲームの世界でも変わらない。
……わがままを言えば何でも手に入ったイヴの記憶のせいで金銭感覚が麻痺するどころか、金の概念すら忘れていたとは言えないな。
「ち、ちなみにおいくらくらいですか?」
「そうさな、具体的に言うと――」
俺はガンテツの提示してきた数字を見て、思わず絶句してしまった。
「これ、桁を間違えていたりは……」
「いや、間違いはない。城の修繕となると、専門の知識がアホみたいに必要だからな。値は張るさ」
「……えっと、すみません。この話は無かったことに……」
よし、城の修繕は諦めるか。
素人がやると半壊状態から更に悪化しそうで怖いが、ゴーレムを作って適当にやってみよう。
今の俺は素寒貧どころか無一文。
どうにかしてお金を稼ぎたいところだけど、あまり目立つ真似はしたくない。
目立ちすぎて勇者に見つかっちゃったら一大事だしね。
まあ、隠者の仮面を被ってるから、うっかり外れたりしない限りは俺の正体がバレることは無いだろうけどさ。
そんなことを考えながら、俺がガンテツ工房を去ろうとすると。
「おい、坊主。金が無いなら、冒険者でもやってみたらどうでい」
「……冒険者……」
「おう。毎日コツコツと金を貯めりゃあ、二、三ヶ月で貯まるだろ」
冒険者、か。
クエストを受けて依頼主に物品を納品したり、魔物を討伐して報酬を受け取ったり。
冒険者のやることは多岐にわたる。
魔物退治や納品の他にも、草むしりや側溝掃除、靴磨きなど、日常生活に関するクエストもあるはず。
何より、冒険者は出生を問わず、誰でもなれる仕事だ。
角と尻尾、翼の生えたメイド二人を連れて仮面を被っている怪しい子供でもなることができる。
俺がお金を稼ぐ上では、たしかに良い仕事かも知れないな。
でも問題は、あまり活躍しすぎると注目を集めてしまうかも知れないということ。
「……」
俺は考える。
目立つのは得策ではない。前述の通り、もし勇者に見つかったら一大事だからな。
しかし、大金を稼げたらガンテツを雇って古城も修理できるし、今後の生活も何かと楽になるかも知れない。
これは難しいぞ。
目立たずひっそりと辛い日々を送るか、多少は目立ってでも金を稼いで楽な生活をするか。
……よし。
「冒険者になろう!!」
俺はもう開き直ることにした。
そもそも爆乳美女メイドを二人も連れている仮面を被った子供という時点で、すでに注目を集めてしまっているだろう。
だったら目立つことは仕方ないと割り切って、冒険者として成り上がり、大金を稼いで、古城を修理し、優雅な引きこもり生活を送る方が遥かにいい。
でもまあ、正体は隠したままで行く。
わざわざ自分から晒す意味が無いしね。バレた時はバレた時に考えよう。
「アオイ、アカネ。今後の目標を発表します」
「目標、ですか?」
「何かしら?」
俺は二人と目標を共有する。
複数人での活動は、しっかりと自分の目標を話しておいた方が何かと良いからな。
「俺は冒険者になる!! 正体を隠して成り上がり、お金を稼ぐ!!」
「では私は、ご主人様を全力でお支えします」
「私もー」
というわけで、俺たちはフロンティナにある冒険者ギルドへやって来た。
冒険者ギルドは冒険者にクエストを斡旋する場所で、酒場と併設されており、冒険者たちの憩いの場となっている。
冒険者ギルドの中に入ると、鋭い視線が俺たちに刺さった。
まるで品定めでもするかのような目だ。
「じろじろと不快ですね。消し炭にしましょう、姉様」
「うふふ、アオイったら。ご主人様の命令も無くやっちゃ駄目よ」
アオイとアカネの会話が物騒だけど、まあ、今は無視しよう。
俺は冒険者ギルドの受付カウンターに座るお姉さんに声をかける。
アオイたち程ではないが、中々の美人だ。
「冒険者ギルドへようこそ!! ご依頼ですか?」
剣呑な様子を見せる冒険者たちに反して、受付のお姉さんは朗らかに笑った。
鈍いのか、分かった上で笑っているのか。流石にそれは分からないが。
「冒険者になりたくて。登録をお願いします」
「え? えーと、登録ですか?」
「はい。……何か問題がありましたか?」
「その、こう言ってはなんですが、冒険者って思ったよりも辛い仕事ですよ? 子供にできるのは側溝掃除や草むしりくらいですし、無理な討伐クエストを受けて死んじゃうような子もいますし。……ましてや、その、お忍びでここに来てまですることではないですよ?」
お忍び? ……あー、なるほど。
どうやら受付のお姉さんは、俺が冒険者に夢を見てる貴族の子供で、お忍びでフロンティナに来たと思っているらしい。
俺は宝物殿にあったそこそこ質のいい服を着てるし、メイドを二人も連れてるし。
これは勘違いされても仕方がないな。
「えーと、先に言っておくと、別に俺は貴族じゃないです」
「……分かりました。私は止めましたからね?」
なんか「そういうことにしておきます」みたいなニュアンスに聞こえたけど、まあいいか。
受付のお姉さんが細かい手続きをして、俺たちは晴れて冒険者となった。
冒険者になるのは俺だけでも良かったのだが、アオイとアカネも冒険者登録をした。
少しでも俺の役に立ちたいらしい。
まあ、人が多い方がお金も稼ぎやすいだろうし、問題は無い。
ちなみに冒険者名は【ハイド】にした。
正体を隠しているからハイドだ。安直だが、悪くないと思う。
アオイとアカネはそのまま登録したけどね。
二人曰く、「ご主人様から賜った名を偽りたくない」と言って頑なに譲らなかった。
まあ、ドラゴンはドラゴンなりに譲れないものがあるのだろう。
パーティー名は【竜の古城】にした。
俺の最終目標は半壊してしまった古城を修繕することだからな。
二人も特に反対はしなかったので、このまま行こうと思う。
俺は早速稼ぎの良いクエストが無いか、依頼書を張り出しているクエストボードを見に行こうとして。
「おいおい、そこのメイドさんたちよぉ」
「んな小便臭ぇガキ放っておいて、オレらのパーティー入らねぇ?」
冒険者ギルドで柄の悪い冒険者たちに絡まれるというテンプレ展開が始まった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
次回予告!!
晴れて冒険者となった
作者のモチベーションに繋がるので「面白い!!」「アオイが凶暴で草」「テンプレ展開は嫌いじゃない」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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