第7話 悪役貴族たちは冒険者になる




「おいおい、そこのメイドさんたちよぉ」


「んな小便臭ぇガキ放っておいて、オレらのパーティー入らねぇ?」



 冒険者ギルドで柄の悪い冒険者たちに絡まれるというテンプレ展開が始まった。


 しかぁしッ!!


 俺はここで冒険者たちをボコって「俺、また何かやっちゃいました?」とか言っちゃうタイプではなーい!!


 相手は柄が悪くとも先輩冒険者。


 対するこちらは新参者で、いくら絡んできたのが向こうでも穏やかに対処するのがベスト。


 それが周囲との軋轢を生まない一番の方法だ。


 俺は絡んできた柄の悪い冒険者たちに声をかけようとして。



「貴様、私の肩に触れましたね?」


「おうおう、怖いねぇ? 触れたら何だってんだよ? ご奉仕でもしてくれんのか?」



 冒険者がアオイの肩に触れた刹那。



「私に触れて良いのはご主人様ただ一人です」


「え――ぉご」



 アオイの拳が柄の悪い冒険者の胴体を抉るように突き刺さった。


 痛みに呻くわけでもなく、冒険者はその場で膝から崩れ落ちてしまう。


 え、あれ? 死んだ?



「ちょ、こ、殺しはまずいって!!」


「ご安心を。ご主人様から賜った服を返り血で汚すわけにはいかないので、内臓がぐちゃぐちゃになる程度です」


「死ぬじゃん!!」


「……? 人間とはそこまで脆いものなのですか?」



 そうだった!!


 この子、見た目は爆乳美女だけど、ドラゴンだから基準が根本的に違った!!



「治癒魔法ーっ!!」


「う、ぐぅ、い、痛ぇよぉ。あ、あれ? 痛みが引いた?」


「よ、良かった。間に合った!!」



 我ながら凄まじい魔法の技量だ。


 ぐちゃぐちゃになった内臓を綺麗に元の形に戻すことができた。



「はっ!! アカネの方は!?」



 アオイに気を取られていた俺は、アカネの方に視線を向ける。


 すると、そこには地面に倒れ伏す冒険者と、その冒険者を見下ろしているアカネがいた。

 冒険者の方は外傷が無く、ただその場で倒れているだけらしい。


 良かった。

 アカネの方は最低限の自衛だけで済ませているみたいだ。


 ……そう思ったのだが……。



「ねぇ、知ってるかしら? 動物ってね、沢山の関節があるの」


「は、はあ!? て、てめぇ、何を言って――」


「人の指は根本の部分も含めて三つの関節があるわよね。関節は沢山あるのだから、少しくらい壊れても大丈夫だと思わない?」



 そう言うと、アカネは倒れ伏す冒険者の指の第一関節をへし折った。


 ポキッという軽い音だった。



「え? ――ぎゃあああああああああ!!」


「あらあら、うふふ。いい声ね。人魚ほどじゃないけど。それじゃあもう一本、逝っちゃいましょ?」


「ひっ、や、やめ、許し――ぎゃああああああああえあ!!!!」



 うわあ……。


 アオイの方は単純な加減ミス、というか人間の耐久性の低さを知らなかっただけみたいだが、アカネは違う。


 人間の脆さを理解した上でやってる。


 怖い。凄く怖い。

 単純にバイオレンスなアオイとは違った、別の怖さがアカネにはあった。


 俺は慌ててアカネを止めに入り、冒険者二人に平謝りする。



「本当にすみません!! あの子たちには言って聞かせますから!!」


「ざけんな!! 慰謝料払いやがれ!!」


「……む、無一文なので……」


「ああ!? オレたちのこと舐めてんのか!!」



 俺は怒鳴る冒険者に平謝りする。


 すると、俺の後ろでアオイとアカネが冒険者たちに殺気を飛ばした。



「どうやら死にたいようですね」


「あらあら。次は喋れないように、指じゃなくて歯を一本一本ねじり取ってあげようかしら?」


「ひっ!!」


「きょ、今日のところは勘弁しておいてやる!!」



 アオイとアカネの殺気を感じ取ったらしく、冒険者たちが逃げ出した。


 あまりの出来事に、冒険者ギルドにいた他の冒険者たちは開いた口が塞がらない様子。


 周囲の空気の変化を感じ取ったのか、二人は可愛らしく、こてんと首を傾げた。



「姉様、私たち……」


「何かやっちゃったのかしら?」



 その台詞、おまいらが言うんかい!!



「ほう、やるじゃねーか。前衛二人、後衛一人でバランスも良い」


「え? えーと、貴方は?」



 声をかけてきたのは、片手にジョッキを持った大柄なスキンヘッドの男性だった。


 筋肉ムキムキで、見るからに強そう。

 しかし、何よりも俺を驚かせたのはその男の耳が長かったことだ。


 エルフだ。


 スキンヘッドのムキムキエルフとか、威圧感がやべーな。



「オレはこの冒険者ギルド、フロンティナ支部のギルドマスター、ジークだ。好きなものは酒。嫌いなものは酒に合わないつまみだ。よろしくな」


「あ、ど、どうも」



 まさかのギルドマスター。


 フロンティナの冒険者たちを管理している組織の一番偉い人だった。


 い、今の一連の出来事、絶対に見てたよな。


 うぅ、せっかく冒険者になったのに、いきなり罰則とか与えられるかも……。

 っていうか、ギルドマスターが昼間っから酒を飲むなよ!! 仕事しろ、仕事!!


 俺は心の中で嘆いたが、ジークの機嫌は悪くなさそうだった。



「はっはっはっ、安心しろ。あの程度のトラブルで罰したりはせん」


「え? 本当ですか?」


「ああ。連中は将来有望な冒険者だったが、最近は他のパーティーと問題を起こしてばかりだったからな。良い薬になっただろう」



 いきなり冒険者資格を剥奪とかならなくて本当に良かった。



「お前ら、パーティー名は?」


「あ、【竜の古城】です」


「ほう、竜か!! それは縁起がいいな!!」



 エルフにとって、竜とは縁起の良いものらしい。



「三人とも、昇級試験を受ける気はないか?」


「え!? いきなりですか!?」



 冒険者には等級がある。ざっくり説明すると以下の通りだ。



 F級。

 新人でまだまだ足手まとい。


 E級。

 新人だが、足は引っ張らない。


 D級。

 半人前だが、実力は確か。


 C級。

 冒険者としては一人前で、才能がある。


 B級。

 実質的にトップ冒険者。モテる。


 A級。

 国軍に匹敵する怪物。笑っちゃうくらい強い。世界に数十人。


 S級。

 お前もう人間じゃねぇから!! 世界に数人。



 後半に行くほど少し雑な説明になっているが、これ以上的確なものはない。


 『ドラゴンファンタジー』のシナリオで、S級冒険者と戦闘になることがある。

 連中は化け物すぎて、いわゆる負けイベントが発生するのだ。


 正しいクリア方法は戦闘にならないよう、S級冒険者から隠れながら攻略を進めるのが正解なわけだが……。


 閑話休題。その話は一度置いておこう。


 当たり前のことだが、俺たちはさっき冒険者になったばかりでF級だ。

 その俺たちにいきなり昇級試験の話が降って湧いてきた。


 悪くない話だ。

 昇級したら、F級のものより報酬の良い仕事を引き受けることができる。


 古城の修繕により近づけるぞ!!



「よろしくお願いします!!」


「よし。それじゃあ、冒険者ギルドの裏手に行こうか。訓練用の広場があるから、そこで三人の実力を改めて見てみよう」


「はい!!」



 棚からぼた餅とはこのことか。ツイてるぜ!!







――――――――――――――――――――――

あとがき

アオイ&アカネの胸の大きさについて

貴方が今まで見たアニメキャラの中で一番大きいキャラクターを想像してください。それより一回り大きいサイズです。


作者のモチベーション向上に繋がりますので「アカネが怖い」「情報助かる」「読み手の想像力でサイズ感変わるの草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る