この傑作を称える語彙がない!書籍代で証明させてくれ‼

まずデカい拍手を贈りたい──

タダで読ませてくれてありがとう!!!!!!!!

こちらの大傑作、ジャンルはなにかと言いますと
SF、ミステリー、歴史、異世界転生、異形バトル、宮廷ロマンス、成り上がり出世譚
……の面白いところ全部乗せ!!

さながらラーメンの上にカレーと麻婆豆腐がダブル盛り、トッピングにカツと餃子と唐揚げをON。
これはすごいのが出てきたなと眺めているところに「シェフからです」とステーキが追加され、さらに「あちらのお客様からです」と店中の客からローストビーフやハンバーグが乗っけられた、そんな一品です。
しかしだからといって「何がメインなん?」と散らかることは不思議と一切なく、読者は作者の手によって完璧に計算された一食を圧倒されながら味わい、気づけば完食しています。

でも腹ははち切れそうなので、レビューを書くのに半日必要でした。

この傑作を称える語彙が残念ながらないので、地道に一個ずつ名所をお伝えしていきますね…

まず描写が素晴らしい。
この舞台、近世欧風異世界( )の描写に留まらず、社会階層の原因と結果、物理学に踏み込んだ発明品の仕組み、人物の細やかな心情などさまざまな次元を縦横無尽に描いているのですが、いずれもとてもわかりやすくて精密で丁寧で、本当にある世界としてとんでもないリアリティを持って立ち現れてきます。
散りばめられた小ネタが面白くて、雑学目当てで読み始めたわけじゃないのに、もっとくれ! もっとだ! となってました。

そして読んだら一目瞭然ですが、キャラクターがいい。
一人残らず推せる。
みんな初登場はクセがあってつい「好ましくない人フォルダ」に分類分けしそうな第一印象しているのですが、主人公と対話してみると、その人にとって正当な理由のある振る舞いだったことを読者に教えてもらえるんですね。
これはもう、作者先生がそういった優しい眼差しで世界を見ていて、横暴や理不尽に対して拒絶ではなく、常に理解のカードを切ってきたからだと思います。人徳です。積み上げてきた人生経験がボディーブローしてきます。

ヒロインである若葉ちゃんアリーシャちゃん、拗らせ青少年二大巨頭のリヒャルト様エックハルト様はもちろん、ヴィルヘルミーナ様もツィツェーリア様もヨハンくんも推せますし、何なら終盤に出てきた議会のオジサンたちも推せる自信あります。
今のところはやな感じの有象無象ですが、どうせ彼らも味のある人生を背負っているんでしょう…? 先生が焦点を当てて描く人間で、推せなかった人なんていないんだから!

とんでもないてんこもりの一品だとお伝えしました。
それでもメインが埋もれることはないと自信満々に言えるのは、この作品が描いている軸が、闇の中であがく人々の生き様だからです。それも特大の愛をこめて。

正解のわからない世界で、何気なく選択した一手が、あとから考えると取り返しのつかないものだったりする。
それでも選択して生きていくしかない。
舞台はヨーロッパ異世界(…かどうかは絶叫と共にお確かめください──)でも、そこにあるのは現実の人間の生きる姿です。

選択を間違える。挫ける。
それでもまた歩き出し、果敢にサイコロを振る。
道のない荒野に立つその姿こそが眩しいのだと、全力で肯定してくれる作品です。

個人的に『物語世界に人間が入り込む系異世界転生』への愛を拗らせた結果、アンチ異世界転生作品は見つけるたび読んできましたが、こちらは私がこれまで目にした中でもっとも鮮やかでもっとも冴えて、人間への信頼と愛に溢れているカウンターパンチでした。

損はさせません。全話、爆裂面白い。
そのうち書籍化しますので、今読んでおくとWeb小説時代から目をつけてた古参としてにわかにマウント取れます👍

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