第7話 薄羽

「ねぇ、マルギルこのお菓子はどうかな?」


シュウザーが、優しい顔で金属のボウルを持って振り返る。



「これは、美味しいわね」なんて、マルギルが微笑めばシュウザーも嬉しそうにした。



シュウザーが、お菓子を作り始めたのはいつだったか。


「ねぇ、どうしてシュウザーはお菓子なんて作り始めたの?」


と尋ねれば、優しく笑って頭をかきながら。



「変かな、母さんや友達に聞いたら女の子は大抵お菓子が好きだよって言われたから覚えたんだけど」



偶に、甘いのが嫌いな人もいるけどね。太ったりとか甘すぎるのが苦手な人はいるみたいだけど。



「僕は、マルギルに喜んで欲しくてさ」


なんて言われて、変よなんて言える訳が無い。



「そう…、私も甘すぎるのは苦手だけど。貴方の作るものは、大丈夫よ。ダメそうだったら言うわ、こうして作るのを見てるのだから」


そういって、お互い優しく笑う。



誰かの為に何かをやって、余計なお世話とか余計な事するなって事はあるけれど。


「余計な事だと思っていたら、私は貴方を止めるわよ。だって、貴方と契約したのだもの」



そういって、シュウザーの肩の上で羽を震わせて飛んでいた。



マルギルの薄い羽に、日が当たり透けて輝く。


その羽の様に、お互いの声も透けていく。




シュウザーはじっと、古めかしいレンガの窯の窓を見つめ。

マルギルは、その照らされたシュウザーの顔を見つめ。



ただ、ゆっくりと時間だけが過ぎていく。



はた目からは、シュウザーが一人で窯に向かってお菓子を作っている様にしか見えない。



それでも、お互いは幸せそうで。



それは、皿の上に咲いた…。


「これは、私の羽みたいね」なんて、マルギルが言えば。



「そうさ、君の羽の様な色をしたユリの花」そんな形のお菓子。


シュウザーが、お皿を指さして。


「なんか、綺麗すぎて食べるのがもったいない」



そういって、二人で笑いあう。



「お菓子なんだから、食べられなきゃ悲しいだろ」


「そうね、シュウザー。でも、もう少しだけこうして見ていたいわ」



マルギルのオッドアイが潤む様に揺れれば、シュウザーも輝く様に。




漆黒の羽、漆黒のリボン…。


それでも、羽と幸せはグラスの様に透けて。



二人の幸せの時間は、刻一刻と減っていく。

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